あのひとの本棚。
「ほぼ日」ではときどき糸井重里が「あの本が面白かった!」とか
「これ、読んどくといいよ」と、本のオススメをしていますが、
これを「ほぼ日」まわりの、本好きな人にも聞いてみようと思いました。
テーマはおまかせ。
ひとりのかたに、1日1冊、合計5冊の本を紹介していただきます。
ちょっと活字がほしいなあというとき、どうぞのぞいてみてください。
オススメしたがりの個性ゆたかな司書がいる
ミニ図書館みたいになったらいいなあと思います。
     
第33回 田口トモロヲさんの本棚。
   
  テーマ 「顔ヂカラがすごい俳優の5冊」  
ゲストの近況はこちら
 
昔の日本映画を観ていると、
ものすごい顔ヂカラの俳優たちが出てくるんです。
怪物か?って思うくらいの(笑)。
そういう方々って、文章を書いていることが多いんですよ。
読んでみると、これがまたおもしろくて。
きっと俳優業だけでは満たされないんでしょうね、
グッとくる文章に出会えるんです。
尊敬する、「顔ヂカラがすごい俳優」の5冊を選びました。
   
 
 

『生きざま
死にざま』
三國連太郎

         
           
 
   
Amazonで購入
 

候補をね、何冊か、部屋から持ってきました。
よいしょ(本の束を置く)。
‥‥いやぁ、
ついに、これを見せる日がきましたか。

ぜんぶ俳優さんたちの本です。
これをついに、
人にお見せする日がくるとは、夢のようです(笑)。
好きなのを紹介していいんですよね?
ええと、じゃあ最初は‥‥
みなさんよくご存知の、
三國連太郎さんの本にしましょう。

『生きざま 死にざま』。
まずタイトルからして、濃い(笑)。
ぼくは三國連太郎さんという俳優が大好きで、
何冊か本を読んでるので、
どのエピソードがどの本に書いてあったのか
もう忘れちゃってるんですけど、
タイトルがすごいこれを、選んでおきましょう。

自伝的な意味でいうと、
かなり赤裸々なことを書く方なんですよ。
映画デビューしたときに、
プロフィールの学歴を偽っていたこととか。
ほかにも‥‥今ここでしゃべっても
たぶんカットされるようなカミングアウトまで
書いてしまう人なんです。
そういうコンプレックスが、自分のルーツだと。
三國連太郎という人は、
自分のアイデンティティを
どこまでも探っていく人なんですね。
親鸞に心酔して、
親鸞の映画を製作・監督までされてますから。

伝説のようなエピソードがあるんです。
まだ若いころに老人役をやることになって、
役作りのために歯を10本抜いたという。
10本ですよ?
すさまじいですよ。
あと、これはたしか、やっぱり大好きな
小沢昭一さんの本で読んだんですが、
小沢さんは三國さんに殴られて
失神したことがあるんだそうです、撮影で。
相手役を殴るときは、本気で殴る。
役にのめり込んで、気持ちが入りすぎて、
ついには、カメラにうつる位置から出ちゃって、
それでも殴り続けていたそうです(笑)。
すごいです、ケモノですよね。

「どんなに社会的に認められたとしても、
 役者としてやるべきなのは、悪役だ」
っていうことも言い切ってます。
かっこいいです、パンクです。
‥‥でも、スーさんやってんじゃん?!
って思いますけど(笑)。
『釣りバカ日誌』で優しいスーさんやってんじゃんって。

今や三國連太郎さんといえば、
『釣りバカ』のスーさんって思う人が多いんでしょう?
これを読んだらビックリしますよ。
もう、ぜんぜん『釣りバカ』のイメージじゃないから。
「裏スーさん」の恐ろしさ(笑)。
この顔ヂカラ、ほんと、すごいなぁ‥‥。

っていう話は「ぼくは」すごく幸せなんですけど、
大丈夫ですかね?
こんな濃い話をしちゃって‥‥。
いや、誰も聞いてくれないんで(笑)。
でもほんとにね、
ここにある本に書かれてある言葉は、
ぼくにとってはきらめく宝石みたいなものなんです。

 

俳優、ナレーター、ミュージシャン、そして映画監督と、
様々な分野でご活躍の田口トモロヲさん。
俳優では、映画『少年メリケンサック』で演じた
中年パンクバンドのボーカリスト役が記憶に新しいところ。
ナレーターとしましては、
NHK『プロジェクトX』(2005年終了)での
穏やかで独特な語り口のナレーションが
いまだに強く記憶に残っている方も多いことでしょう。

そんなトモロヲさんから、
今回はたっぷりと、ふたつのお知らせがあります。

まずはひとつめ。
5年ぶりに監督をつとめた、
映画作品のご紹介からまいりましょう。





2004年に初めてメガホンをとった
『アイデン&ティティ』では、
銀杏BOYZの峯田和伸さんを主役に抜てきし、
その圧倒的な存在感で観客を驚かせた田口トモロヲ監督。
この新作でもまた、たいへん気になる存在感の青年が、
主役としてスクリーンに登場しています。
写真中央の、渡辺大知くん。
こうしたキャラクターはどうやって発掘されるのでしょう?
キャスティングのお話から、うかがってみました。

珍しい動物を見つける、という感じです。
峯田くんのときが、そうだったんです。
今回の渡辺大知くんもやっぱり同じで、
あ、珍しい動物! という見つけ方でした。
2000人を超える候補者の中からオーディションで
選ばせてもらったんですけど、
もう、圧倒的に彼が「珍しい動物」でしたね。
そもそも今回の映画は
みうらじゅんさんの自伝的な小説が原作です。
その主人公は、自分で作った歌を
ずーっと歌っているという設定なんですよ。
だから主人公はギターと歌ができなくちゃならない。
その点、渡辺くんは『黒猫チェルシー』という
ものすごく瞬発力のあるバンドをやってますから、
歌とギターは大丈夫。
で、それともうひとつ、
主人公を演じるにあたって重要な条件があったんです。
それは「ほんものの童貞マインド」を
持っているということ。
なにしろみうらさんの童貞時代の話ですから。
その大切な役を、明らかにモテるだろうっていう、
かっこいい役者にやらせたくないじゃないですか。
そんなことしたら‥‥もう、腹が立つでしょう?
ですから、カクジツにリアル童貞で、
不器用な文化系の男子というイメージで、
たどり着いたのが、渡辺くんだったわけです。

なるほど(笑)。
渡辺大知くんだけでなく、
全体にとても魅力的なキャスティングですが、
この方々もトモロヲさんのイメージ通りで?

そうですね、峯田くんにはやっぱり出てもらって。
京都の話なんで、関西弁が話せる人を探しました。
童貞も関西弁も、ネイティブじゃないと。
『くるり』の岸田繁くんには、
いつか出てほしいと思ってたんです。
で、今回、岸田くんは京都出身だし、
ちょうどいいと思ってダメ元でお願いしてみたら、
これが、すごく前のめりに受けてくれて。
うれしかったですねえ。
あと、お父さん役はリリー・フランキーさん。
お母さん役は堀ちえみさん。
しかも堀ちえみさんは5人の子どものお母さんですから、
すごいリアリティですよね。
このふたりにもダメ元でお願いしたら受けてもらえて、
ほんと、ありがたいことです。

「ほぼ日」とも縁の深い、
みうらじゅんさんの自伝的小説が原作ということは、
ストーリー的には、青春映画になるのでしょうか?

青春モノです。
でも、ほとんどの青春モノがそうだと思うんですけど、
上映2時間なら2時間のあいだに主人公が何かを経験して
大きく一歩、おとなに成長したりするじゃないですか。
この映画の主人公は、たいして成長しません。
セックスのことで頭がいっぱいになってる高校生3人が
夏休みに、隠岐島のユースホステルに行くんです。
「そこはフリーセックスの島だ!」
というまちがった情報を仕入れて。
もう、言っちゃいますけど、
けっきょく最後まで、この3人は童貞のままなんです。
女の子とはなんにもできず、大人にはなれない。
そのかわり、様々な人との出会いがあるんです。
それによって、ほんのちょっと、半歩くらい、
いや、半歩以下ですかね、足の指先ちょっとくらい、
わずかに成長するんです。
「この夏、大きく成長しました!」
なんて、ねえ? 実際はないでしょ?
そんなにドラマチックなもんじゃないですよね。
あがいてあがいて、ほんのちょっと成長したのかも?
っていうのが本当のところでしょう。
すくなくとも、みうらさんの青春はそうだった。
そういうですね、
今までの青春映画ではこぼれ落ちてきた部分を、
この映画で描いてみようと思ったんです。

文科系男子の不器用な夏の物語、
8月15日から全国ロードショーが始まります。
(関西地区は8月8日から公開スタートです)
上映スケジュールなど、
詳しくはこちらのオフィシャルサイトでどうぞ。

さて、ふたつめのお知らせです。
さまざまなお仕事をされている田口トモロヲさんですが、
こんなことまでされているとは、
みなさんご存じなかったのでは?

3枚並んだこちらは、タオルのデザインです!
トモロヲさんは、奥様のイラストレーター、
ヨシヤスさんといっしょに、
「温泉タオル」を作っていたのでした。
せっかくですので、このお話もうかがいましょう。
なぜに、タオルなのですか?

ぼくら2人は、フジロックフェスティバルが好きで、
ここのとこ毎年行ってるんです。
初めて行った年、雨で下がビショビショだったんです。
ほんとにぬかるみ状態で、
みんなスニーカーがドロドロになっちゃってて。
「こんなときオシャレな長靴があったらすごくいいのに」
っていう話をしてたんです。
で、次の年の夏フェスに行ったら、
オシャレな長靴がすごい流行ってたんですよ。
ほらね! やっぱり!! と(笑)。
じゃあ次は何だろうと考えて、思いついたのがこれです。
フェスでは頭にタオルを巻いてる人が多いんで。
かっこいいタオルがあれば、よろこばれるだろう、と。
それからいろいろ考えて、たどり着いたのが、
薄い「温泉タオル」だったんです。

今までにない、かっちょいい温泉タオルを目指してます。
なんか、儲けとか、ほとんどないみたいなんです。
でも広がることが面白いと思ってるんで、
どうかひとつ、よろしくお願いします。
ん? そうなの? ほぼ日さんもタオルを作ってる。
ああー、じゃ、タオル対決ということで(笑)

「LOVE & TOWEL」の詳しくはこちら。

トモロヲさん、
この日はご自宅にまでお邪魔させていただいて、
「映画」と「タオル」のたっぷりとしたご案内を、
ありがとうございました!
みなさま、よろしければこの夏は、
トモロヲさんの「映画」と「タオル」を、ぜひ!!

 
 

2009-08-03-MON

メールを送る ほぼ日ホームへ 友達に知らせる
 
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN