| 糸井 | ぼくは岡本敏子さん (岡本太郎記念館前館長。
 岡本太郎さんの生涯のパートナー。2005年没)
 に頼まれたことがきっかけで
 壁画『明日の神話』再生プロジェクトをはじめ、
 いろんなことに、
 お手伝いするように関わってきました。
 だけどもともと岡本太郎さんのことを
 研究したおぼえはないんですよ。
 
 岡本太郎記念館の庭には
 大きな木やら彫像やらが、ごろごろあってね。
 たまたま自分の家が記念館に近いので、
 前の道を、よく
 「へんなものがあるなぁ」と
 思いながら通っていました。
 
 これだけ人を「気にさせる力」ってすごいな、
 というのがぼくの
 いちばん平たい、岡本太郎さんの印象です。
 
 あの岡本太郎のめずらしさを
 おんなじくらい表現できるかと言ったら、
 そうそうできるもんじゃない。
 まぁ、「めずらしさ」という要素は
 誰もが持っているものだけれども、
 「これだけ持たせたヤツはいねえぞ」
 と(笑)。
 
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  | 平野 | うん(笑)。 
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  | 糸井 | きっと、岡本太郎という人は、 自分のめずらしさを破りながら生きていた。
 だからこそ、ずっと
 「めずらしい人」だったと思うんです。
 
 でもそのめずらしい生き方というのは
 特殊な技術や能力のせいではありません。
 太郎自身は、
 「俺でもできるんだぞ」
 と言いたかったでしょう。
 「俺でもできるということは、
 おまえら全員、できるぞ」
 というメッセージがあった。
 それが、いつのまにか
 「太郎さん、できちゃってすごいなぁ」
 という話になってしまいました。
 
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  | 平野 | 今年は岡本太郎生誕100年で、 ドラマの放映があったり
 いろんなイベントが開催されました。
 その最後とも言うべきいま、
 こんなことを言うと
 びっくりされるかもしれないんですが‥‥
 岡本太郎に元気をもらいましたとか、
 エネルギーをもらいましたとか、
 そういうことは
 今日で終わりにしませんか、って言いたいんです。
 
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  | 糸井 | うん。 
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  | 平野 | 「太郎が大好き」とか、 「岡本太郎記念館に来ると元気が出ます」とか、
 言われるのは、もちろん、すごくうれしい。
 だけど、なんていうのかな‥‥。
 
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  | 糸井 | ちょっと神社みたいな感じ? 
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  | 平野 | あ、そうです。 とてもうれしいことだし、
 そこからはじまるんだとも思うけど、
 太郎を拝んだり、太郎にすがるのは、
 もう終わりにしたい。
 
 だって、岡本太郎はふつうの男ですからね。
 
 若い人たちと話をしてると、
 太郎をスーパーマンだと思っている
 ふしがあります。
 最初から種族がちがう、鋼鉄の人。
 サファリパークで、
 柵の外から猛獣を見てるような
 感じっていうのかな。
 
 こういう状況が続くと
 神格化して崇拝する人も出てくるし、
 その裏返しで、本質ではないことで否定したり、
 批判したりする人も出てくる。
 それはつまらないことでしょう?
 101年目から次のステージに行けるといいなぁ、と
 思っているんです。
 
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  | 糸井 | そんな、尊敬してるヒマねぇだろう、 ということなんでしょうね。
 
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  | 平野 | 敏子がね、 (平野さんは敏子さんの甥っ子さんです)
 よーく言ってたことがあるんですよ。
 
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  | 糸井 | うん。 
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  | 平野 | いろんな人が 「先生、さすがですね、
 岡本先生は天才ですから
 わたくしどもにはとてもとても」
 と言う。
 無性に腹が立つんだ、
 蹴飛ばしてやりたくなるんだ、と。
 太郎だって、生まれたときから
 岡本太郎だったわけじゃない。
 
 太郎は決意して、覚悟して、
 岡本太郎になったんだ。
 それを、死ぬまでやりきった。
 
 つらかったと思うし、
 言えないことがいっぱいあったと思うけど、
 でも、彼は最後まで、岡本太郎を降りなかった。
 そこがすごいし、愛おしいんだ、と。
 
 そんなことも知らないで、
 「先生さすがですね、すごいですね」
 甘ったれるな! と。
 
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  | 糸井 | うん(笑)。 
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  | 平野 | そう、敏子は言ってましたね。 
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  | 糸井 | 人って、みんな その人に「なっていく」わけですよね。
 なっていくために
 「どういうのがいいのかな?」
 という気持ちがあって、
 そこに近づこうと思うから、なっていくのです。
 
 そこをわかってて、
 岡本太郎の死後、復活キャンペーンをやった
 岡本敏子という人は、
 すげぇプロデューサーだなぁと思いました。
 「よし、それを伝えましょうよ!」
 という気持ちで、ぼくは敏子さんに、
 いい意味でだまされてみようと思ったのです。
 
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  | 平野 | 「もし自分が岡本太郎をやって、 殺されずにそのまんま
 太郎であり続けることができたら
 それを見て、自分のようなやつが
 だんだん増えてくるはずだ」
 太郎はどうやら、そういう日本をつくりたいと
 言ってたらしいんです。
 逆に言うと、ものすげー(笑)、
 がんばったんだと思うんですよ。
 
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  | 糸井 | うん、そうですね。 
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  | 平野 | 『今日の芸術』という本がありますが。 
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  | 糸井 | はい。有名な本。 
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  | 平野 | あの本には、 のっぴきならない状況に自分を追い込んで
 ふんばるんだ、
 みたいなことが書いてある。
 
 太郎も、腹くくって、覚悟して
 やってきたわけですよ。
 生まれながらの
 鉄の意志を持ったスーパーマンでは
 けっしてなかった。
 そこを間違えてはいけないと思うんです。
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  | (つづきます) 
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