荒俣宏、インターネット荒野への旅

(雑誌『編集会議』の連載対談まるごと版)

稼ぎのすべてが書籍に化ける、と言われていた、
博覧強記の怪人・アラマタヒロシさんが、
なんと!インターネットの荒野の用心棒になる、と?
インパク開催1か月前に荒俣宏さんと、
たっぷり語り合った。

第1回 いやあ、どうもこんにちは。

第2回 本への愛情が、醒めちゃったんです。

第3回 部分を愛することができるようになった。

第4回 カミは死んだ。

第5回 荒俣さんの愛の経費って、億単位でしょ?

第6回 何かをしている個人を発見した。

第7回 おもしろいことをする前の、胎内にいる。

第8回 多重人格と、商品以前の企画。

第9回 虚業が、21世紀の実業になるのかな。

第10回 インパクで、やってみたいことは。


(※今回で、この対談は最終回になります。
  話題は情報化に関していちばん重んじたいこと、
  つまり、インパクで何をやりたいか、についてです)

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糸井 インパクが成功するかしないかで言ったら、
どんなに成功しても
成功とは言われないと思うんですよ。
荒俣 言われないですね。
糸井 じゃあ失敗してもいいのかと言えば、
失敗はしたくない。
やっぱり単純に、ソフトこそが
インターネットでいちばん大切なものなんだ、
ということが漠然とわかりさえすれば、
それがぼくのしたい仕事なんだろうなあ、
そういうイメージを持っています。
荒俣 糸井さんの言い方だと
「町人の祭り」というイメージで
みんなが納得すると思うのですが、
ぼくのやりたいところがそこで、
国や大企業よりも
怪しい個人が出したもののほうが
たとえ中がエロであっても勝つ、
というようなところを見せたいんです。
糸井 無数の「深川丼」とか「お母さんのカレー」とか
そういうものが山ほど出るのが理想ですよね?
荒俣 フランスの三ツ星のシェフを連れてきて
出した料理よりも、その辺のおばさんが
適当に作ったチャーハンがうまい、
というようなことを見せたい。
糸井 見せたいですね
荒俣 そうなると、インターネット社会にとって
大きな力になると思うんですよね。
糸井 個人に実は力があるとわかった時に、
ひとつひとつの企業パビリオンのサイトや
地方事業のサイトが「そっちがいいなあ」と
思ってくれたら、その場所は変わりますから。
荒俣 変わりますし、
ちょっとした一念でそうとうに
いろいろなものを生みつけられます。

今までの万博は各国のパビリオンだったり
各企業のパビリオンだったりして、
三菱電機は三菱電機のパビリオン、
ソニーはソニーのパビリオンだったんだけれども、
21世紀の博覧会は、ネットの性質上、例えば
「糸井重里が作ったソニーのパビリオン」
だったりするんですよ。
ある個人の個性やカラーが、企業を代表する。
そうなると例えば、
ソニーはこういう人間を使う、とか、
こういう個性があるんだ、とかいうことが、
よくわかるようになるんじゃないでしょうか。

ぼくは日本のシステムの中で
法人は税法上も法律上も守られるのに
個人だけは何でもいじめられるというのが
いちばん気にいらなかったんです。
それで法人には、カラーが出ない。

この法人がコーヒーが好きなのか
お茶が好きなのかもわからないし、
ソニーの奴が来た時には
コーヒー出していいのか
お茶出していいのかわからないでしょ?
隣の家にソニーの人が引越してきた時にも、
どんなおじさんなのかは、全くわからない。
糸井 うん。
荒俣 これは21世紀的でないんですよ。
つまり・・・まったく個性がない。
パーツがない。

トータルしかないわけで、
つまり、人格しかないのと同じですよ。
ソニーがスケベなのかどうなのかがわからないと、
これからの新しい商品は、出ないと思います。

今まではハードを作っていたから、
個性がわからなくてもよかったのですが、
情報を提供することになると、
その情報を提供する人間が明確にならないと、
まったく意味がないというか・・・。
そこのところをインパクで予行演習できます。

「私はこの企業の人間です」ではなくて、
「この企業は、俺なんだ。俺が企業だ」と
パーツの側にいる奴が全員言えないとだめですよ。

ぼくは、インパクがそういう個人にとっての
訓練のスタートだと思うので、たぶん、
誰がどのサイトを作っているかの顔が見えないと、
まったく意味がないと思います。
それなら、単なる会社案内になります。
糸井 うん。
荒俣 今だって、農業が既にそうなってるじゃない?
新潟県から出るコシヒカリじゃもうだめなんです。
「どこ産のなに郡の誰の農家から出た米」
というように言っていまして。
農業は案外進んでいるのかもしれないです。

本来は、例えば「日立」がソフトなんじゃなくて、
「日立のだれだれ君」がソフトなんですよ。
糸井 農業は、おおぜい食わしていけなくなって
はじめてそういうことが分かったんですよね。
荒俣 大企業がまとめてリストラやるのは
ある意味では逆方向の可能性ありますよね。
つまり、会社の法人性を保つために
人をつぎつぎと切っているわけだから。
逆に言えば、給料払わなくても
あんたもソニーだというようにしても
いいわけですよね?
糸井 それは、「ほぼ日刊イトイ新聞」でもやっていて、
読者に給料は払わないし、逆に月謝もとらないけど、
でも会員証は配るというのは、
そういうところから考えたんです。
荒俣 その方向なんじゃないかなという感じがするんです。
糸井 つまり、前に話した
「おともだち」の関係ですよね。
荒俣 まさにそうですね。
企業で持っている人間というか。
昔の各マスコミや出版社なんかは
そういう感じだったじゃないですか。

給料はもらってないけど何となく来て
新聞なんかに勝手に書きたい原稿作っている奴が
けっこう、いましたよね?
糸井 いいことですよね。
荒俣 そういうやつを置いておけるということが、
けっこう企業のカラーになってたりする。
外国の新聞でも
「この記者がいるから、この新聞を買う」
というスタイルになっていますよね。
そういう広がりはとても重要だと思う。
日本の新聞がだめなのは、
結局は会社の新聞だからで。

例えば新聞社員たちはみんな常に
「自分の意見」としてではなくて
「朝日新聞の意見」として書いていますもん。

エンターテイメントと宗教と生活が
渾然一体となってるというのが、
ぼくは農業の核だと思っています。
意外と進んでいるかもしれない農業をテーマに
いろんな催しを開いても、いいと思います。
今まで、あらゆるものを分離しすぎていましたよ。
糸井 そうだよね。
荒俣さん、おもしろいなあ。


(対談は、今日でおわりです。
 このふたりが関わっているインパクは、
 ほぼ毎日更新されているので
 こちらのページをどうぞご覧下さいね)


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2001-01-10-WED

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