小林薫さんは、めずらしく糸井重里が
「薫ちゃん」と「ちゃん」づけで呼ぶ相手です。
30年くらい前からのつき合いなんですって。
その、「薫ちゃん」こと小林薫さんが、
映画『深夜食堂』の完成報告を兼ねて、
久々に「ほぼ日」を訪れました。
ときにのんびりと、そして急に深く、
昔の話と、いまの話を、軽々と行き来しながら、
ふたりの話は愉快に弾んでいきました。
ここでしか読めない話が多いかもしれない。
小林 薫さん・プロフィール
【第1回】 2015-01-29VAN99ホール 【第2回】 2015-01-30自転車 【第3回】 2015-01-31状況劇場 【第4回】 2015-02-01唐十郎 【第5回】 2015-02-02井戸 【第6回】 2015-02-03笠智衆 【第7回】 2015-02-04「じゃ」 【第8回】 2015-02-05酒
糸井
いやぁ、なんとか言い訳したいんだけど(笑)。
その、「イトイはすぐ帰る」ということについて。
小林
いやいや、実際、帰ってるから。昔から。
──
それは社内でも昔から評判です。
パーティー、コンサート、試写会、
個展、懇談会、打ち上げ‥‥。
だいたい「楽しかった!」「じゃ」って。
小林
そうだよね(笑)。
糸井
だいたい、なんだろう?
そもそも、ずっと居られる人のほうが
すごいなと思うよ(笑)。
小林
すごいですよね、考えてみたら。
糸井
しかも、「腹いっぱいだ」とか、
「飲みすぎた」とか言いながら、
「まだ酒飲んでます」じゃない?
小林
そう。
糸井
あれ、俺はできないんだよ(笑)。
小林
いや、そっちのほうが賢明だと思いますよ。
ああいう場から、さっと帰ってたら、
身のまわりから争いごととかなくなると思う。
だいたい、飲んだら、最終局面で、
なんか些細なことからもめたりしますから。
糸井
あぁ、最終局面でね(笑)。
小林
そういうのが楽しい夜を台無しにするわけ。
で、翌朝の目覚めがメチャクチャ悪い。
ズルズルいるタイプって、そういう場面を
何度も経験してると思うんですよ。
だから、糸井さんみたいに断ち切ればいいのに、
まぁ、できないんですよね。
糸井
それができるのは、
俺がまったく酒を飲まないというのが
大きいんじゃないですか。
小林
ああ、そうですね。
糸井
酒を飲んでたら、
帰りたくても酒が引き止めますよね。
小林
あ、そう考えるとわかりやすい。
イトイさんの情が薄いわけでも、
怒ってるわけでもなく‥‥。
糸井
酒でしょう。
小林
あぁ、そうか。
糸井
よかった。少しはわかってもらえた(笑)。
小林
飲んでないから、温度が違うんだな。
酒を飲んでる者どうしだと、
正直、そんなに楽しくもないのに
「わーっ、楽しいなぁ!」みたいになっちゃうから。
糸井
そうだよね(笑)。
小林
だから、「帰るわ」っていう人がいると、
「え? もう帰るの?」ってなるけど、
だいたいはお酒の力でその場が持ってるから。
糸井
昨日、ちょうどね、
お酒を飲まない人どうしで食事に行って、
そのうちのひとりがしみじみ言ってたんだけど、
「お酒を飲んで、その人の話が
 おもしろくなるっていうことは
 まずないですよね」と。
小林
あーー、なるほど。
それはね、酒飲みにはわからないのよ。
糸井
まぁ、酔っぱらうことによって、
その人の愛すべき一面が出たり、
愉快なキャラクターになることはあっても、
「話がおもしろくなる」ことはない、と。
というか、ふだん話がおもしろい人の話も
たいてい「おもしろくなくなる」と。
小林
それね、酒飲みの、100人中100人が、
気付いてないと思いますよ。
糸井
だからって、いっしょにいたくないわけじゃ、
まったくないんだけど、
まぁ、そういう傾向があるよね。
同じ話を何度もしたり、
やけに真面目に語り出したりとかさ。
小林
いや、厳しい指摘だけど、その通りだと思います。
たしかに、同じ話を繰り返す。
気づかないで3度目、とかってあるよね。
「この人、3度目だぞ、この話」って。
糸井
うん(笑)。
小林
あれ、でも、なんで楽しいと思うんでしょうね。
本人たちは。
糸井
楽しいんだよね?
小林
楽しいんですよ。
糸井
感覚を共有してるのかね。
「楽しい」っていう感覚や感情を。
小林
あ、そうですね。
お酒とともに、その感情が入ってくる。
糸井
だから、そこのところが、つまり、
「安く」なるんじゃないですか。
小林
あ、そうだ。
糸井
ハードルが低くなる。
小林
そうだね。
いや、なんか自分の日々をこう振り返ると、
そのへんは厳しい指摘だな。
糸井
はははは。
小林
ハードル低いところで笑ってるんだな
とかって思うと、悲しいな。
糸井
くりかえすけど、だからけしからんとか、
そういうことを言いたいわけじゃないよ。
楽しくなってる人といるのは基本的には楽しいし、
そういう人どうしが集まって楽しくしてるのは、
やっぱりうらやましいですよ。
だいたい、何度も言うけど、俺が帰るのは
楽しくないからじゃないんだ。
帰るべきときに帰ってるだけなんだ。
一同
(笑)
小林
いや、なんかね、まぁ、
今日みたいなのは特別なんですけど、
ぼく、男どうしで、シラフで、
集まって話したりしないんですよ。
その、なんか、酒飲みって、
「シラフで、ちゃんと話できないよね」
っていう空気が常にあるんですよ。
糸井
ああ、それはなんとなくわかる。
ぼくは、いま、こうやって、友だちと会って
無駄なこと話すことも仕事になってるんで、
そういう意味では、助かる。
小林
あぁ。
糸井
だって、俺が、仕事抜きで
「薫ちゃん、今度、会って話をしない?」
って言われたら、困るでしょ?
小林
俺、別に付き合うけどね。
一同
(笑)
糸井
変わらないなぁ、そういう返しが(笑)。
小林
はははは。
糸井
まぁ、やればできるのかもしれないけど、
「ヨイショ」っていう声が必要でしょ、やっぱり。
小林
でも、なんだろう、あの、
落語家が一席こう、高座に上がるような気分で、
「えぇ、お話ししましょうか」っていうのも、
ちゃんと付き合ってもいいですよ(笑)。
糸井
じゃあ、今度本当に試してみるか(笑)。
すみません、時間が来たみたいなんで、
取ってつけたように、『深夜食堂』の話を(笑)。
小林
あ、そういえば、そうだった。
糸井
まぁ、無理にぼくが説明しなくても、
みんな感じてると思うけど、楽しみですよ。
なにより、この映画の実現を
まわりの人たちみんなが願っていて、
仕事してる人ひとりひとりが、
きちんと集まってるのがいいなと思うんだ。
小林
ありがとうございます。
糸井
応援します、ほんと。
小林
どうも、どうも。
今日はお時間をいただいて。
糸井
こちらこそ。
薫ちゃん、酒も飲めないのに、ありがとうね。
小林
(笑)


(小林薫さんと糸井の対談はこれで終了です。
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。)
2015-02-05-TUR

映画 深夜食堂

2015年1月31日公開
映画『深夜食堂』公式ページ:
http://meshiya-movie.com/

繁華街にある小さな食堂を舞台にした
さまざまな心温まる物語、『深夜食堂』。
漫画からはじまり、テレビドラマとしても
たくさんのファンに愛されている
『深夜食堂』が映画になりました。
主演はもちろん、小林薫さん。
寡黙なマスターとお客さんたちの
素敵なストーリーをスクリーンでどうぞ。

監督:松岡錠司
原作:安倍夜郎
出演:小林薫、高岡早紀、柄本時生、
   多部未華子、余貴美子、ほか

©HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN