デヴィッド・ルヴォー対談 だから演劇はやめられない。 ──昔の日々と、今の日々。──  ゲスト 宮沢りえ[役者と演出家編]/木内宏昌[演出家と劇作家編]
 
[役者と演出家編]その5 鍛えられている状態であるということ。
ルヴォー ところで、『おのれナポレオン』の時のこと。
ファンタスティックでした。

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『おのれナポレオン L'honneur de Napoleon』
2013年、三谷幸喜さんが、
野田秀樹さんを役者として迎えて
作・演出した、ナポレオンをモチーフにした作品。
天海祐希さんがアルヴィーヌ役を急病のため降板、
その代役を宮沢さんが急遽つとめたことで話題になった。
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宮沢 (笑)いや、あれはわたしのことより、
やっぱりそれでもやろうという、
共演の野田秀樹さんのお芝居に対するどん欲さが!
公演期間はぜんぶで1週間もないんですよ。
それでも「あと3日もできるんだよ!」っていう、
そのために何ができるかを考えるっていうのはすごい。
ルヴォー それは、やっぱり野田さんの
リーダーシップが優れているっていうことでも
ありますよね、
「止めない」と、断言すること。
宮沢 そうですね。
ルヴォー 責任は、お客さんに見せること。
宮沢 そう。そう思います。

▲『昔の日々』演出中のルヴォーさん (撮影:星野洋介)
ルヴォー ぼくは、9・11の時、ニューヨークにいたんですよ。
当然、その日、予定はすべてキャンセルになりました。
さらに2日後、劇団の芸術監督の人から電話が来て、
「公演をすべてキャンセルしようと思う」
っていう話を始めたんですね。
「演劇をやるべき時期じゃないような気がする」って。
ぼくは「逆だ!」って言ったんですよ。
「完全に逆だ、それは」って。
宮沢 本当にそう。
ルヴォー ジョージ・バーナード・ショーの芝居だったんですけど、
「芝居をキャンセルしたら、
 ウサーマ・ビン・ラーディンが、
 『バーナード・ショーの作品をキャンセルさせちゃって、
 申し訳ないことをした』って言うと思うか?」って。
そういう危機が起きた時は、優先すべきは、
やっぱり人に広く話しかけていくことだと思うんです。
語りかけていくこと。
宮沢 そうですね。
ルヴォー だって、そういうことをその時しないんだったら、
なんのために演劇をやるのかっていう話です。
で、野田さんは、「やる」って思った。
そして、りえさんも、
「やれる」って思ったっていうことがすごいことだと思う。
あのとき「ファンタスティック!」って
ツイートをしたんですが、
そういうものであるっていうことを、
ぼくも言いたかったし、
その可能性を追求するということの美しさが、
そこにはあるから。
そしてその決断をしたのが
野田さんとりえさんの2人であるということも
とてもうれしかった。
そういう時に、たやすく折れることを、
普通の人は選んでしまう。
宮沢 そうですね。
ルヴォー やっぱり勇者でなければ。
宮沢 そのためには、クリアな心と頭と
健やかな体を保ち続けてね、
死ぬまでクリエイターでいたい(笑)。
ルヴォー うん、そうでなきゃだめ。
その1日、2日で、どうやって、
せりふを入れたのかっていうのは、
ぼくには想像もつかないんだけど。
宮沢 ‥‥追い込まれるとできるんですよ、誰でも(笑)。
ルヴォー いや、全員じゃないですよ。
本当にその準備を、頭、心、体が受けて立つことが
できるからだと思うんですね。本当にそう思うんです。
あらゆる意味で、fit(フィット)って言いますが、
鍛えられている状態であるということが、
どれだけ演劇に重要かって、
わかっている人は案外少ない気がします。
頭も体も心もすべてです。
りえさんは、その思考の部分にしても、
もうずっと長く続けていける方だと思います。
その資質を全部持っている方だと思う。
宮沢 もっと成長したいと思います。
ルヴォー サンキューベリーマッチ。サンキュー。
宮沢 サンキューベリーマッチ。いつから本番ですか?
ルヴォー 怖いこと言わないで(笑)!
準備ができたら開けます(笑)。
宮沢 絶対に行きます。
ルヴォー ひとつ、絶対したいことがあるから、そこの場にいて。
宮沢 なぁに? あぁ、うれしい。
ルヴォー 写真撮っていい?
宮沢 もちろん。一緒に?
ルヴォー りえさんを撮りたい。
その後にも、一緒にも撮りたいけど、
りえさんを撮りたい。いいですか?
誰にもあげないから!
宮沢 白黒写真? 素敵ですね。
ルヴォーさんに会えて、すごく幸せです。
いっぱいエネルギーをもらいました。
明日の稽古は、いっぱい失敗してみます(笑)!

(撮影:永石勝)
2014-06-12-THU
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