デヴィッド・ルヴォー対談 だから演劇はやめられない。 ──昔の日々と、今の日々。──  ゲスト 宮沢りえ[役者と演出家編]/木内宏昌[演出家と劇作家編]
 
[役者と演出家編]その3 アントニオ・バンデラスほどの役者でも。
宮沢 『海辺のカフカ』の主役の子は、
お芝居が初めてなんですね。
演出の蜷川幸雄さんにも、
「今のセリフ違う! もう一回。
 こう言うんだよ! こう言うんだよ?!」って、
わたしたち「千本ノック」って言ってるんですけど。
ルヴォー (笑)
宮沢 わたしが今まで、素敵な演出家の方だったり、
共演者の人から教えてもらって気付かされた発見を、
彼にどう提供できるんだろう?
(胸のあたりに手を当てて、扉のしぐさをして)
もっとここを開くっていうこと。
彼は、その鍵がまだ開いていなくて、それを‥‥。
ルヴォー それはむずかしいところですよね。
不安があったりすると、もっと扉が閉まってしまう。
それは当然ですよね、不安になったら人は扉を閉めるから。
そしてそれは初舞台の人に
限ったことでもないと思うんです。
宮沢 そうですね。それはそうかもしれない。
ルヴォー 「あなたはひとりじゃない」
って言ってあげるのがいいかもしれない。
よかったら、彼にお話してあげて。
ぼくがブロードウェイで、
『ナイン(Nine)』っていうミュージカルを
演出したことがあるのだけれど、
稽古中にね、主演のアントニオ・バンデラスさんが、
やけに今日は頑張ってるな、
なんだか妙に力が入ってるなっていう日があったんです。
ぼくはこう言いました。
「あのね、アントニオ、
 あなたは主演俳優でいて、いいんだよ。
 その許可を貰ってるんだよ、君は」
すると、バンデラスは、「えっ?」って。
そんなこと考えたこともないっていう顔して僕を見ました。
あれだけの映画スターである彼でも、
「“俳優そのもの”でいてもいい」と
初めて思ったんだなと。
それまでは「“俳優である自分”を見せなきゃ」って、
どこか思ってたみたいなんですよ。
宮沢 なるほど。
ルヴォー 「(俳優としての自分の価値を)示さなきゃ」って、
彼ほどの人でも考えるんです。
彼が思うんだったら、誰でも思うんじゃないかな。
宮沢 もちろん。
ルヴォー だって、誰にだって、
演じるって、とても怖いことだから。
宮沢 そう。恥ずかしいし、今でもそうです(笑)。
ルヴォー やればやるほど楽になるものでもないしね。
宮沢 ない。もう本当に慣れない。
ルヴォー やればやるほど、やっぱり自分をさらけ出すことへの
負荷が大きくなるばっかりでしょう?
でも、それって美しいことだと思うんですよ。
そういう時こそ“生きて”くるでしょ?
でもね、何かうまくいってないっていうのは、
自分がまずいんだって思うことが多いと思うんだけど、
それは何かが生きてるから、
うまくいかないということなんだと思います。
もう毎日、毎秒、失敗を許すっていうことですよ。
恐れるんじゃなくて。
失敗っていうものと、
仲良くやっていくっていうことも必要ですね。
宮沢 いや、本当。
ルヴォー だって、絶対に失敗しなくなる日は来ないから。
失敗と仲良くなれば、
失敗によって追いつめられることがなくなる。
宮沢 そうですね。でも、なかなか仲良くはなれないなぁ。
歩み寄ろうという努力はするけど(笑)。
やっぱり失敗を見られるのは
恥ずかしいことじゃないですか。
でも、そこを通らなければ、
今まで自分も気付かなかった自分っていうものには
出会えないっていう。
ルヴォー そう、やらなかったらね、出会えない。
宮沢 そう。だから、わたし、優等生のお芝居は、
なんとなくはできるけれども、
なんかそれじゃ自分がつまらないし、
やっぱり、今までこんな自分を知らなかったっていう
自分に出会いたい。
でも、それをみんな、稽古場でみんながいる前で
やるっていうのは‥‥。
ルヴォー そうだ。本当にその通りだ。
偉大な俳優ほど、常に屈辱っていうところに
自分を置いている時がある。
言ってみれば、凡庸な人ほど、
その恥ずかしさを感じてないことのほうが多い。
宮沢 あぁ、なるほど。
ルヴォー 大昔、すごく若い演出家だった頃、
ロンドンのロイヤル・ナショナル・シアターで
演出をしていて、
正直言って、一緒に組みたいと
あんまり思っていなかった役者と仕事をしたんですね。
でも、ナショナル・シアターが「この役者で」
って言うから、やってたんですけど。
そのとき俳優は、
「こいつは若い演出家だから、この若造に教えてやらねば」
と思っちゃったらしいんですよ。
たしかに演出家は、俳優によって教えられるものですよ。
それはそうなんです。
ただ、彼の教えようとしていたことは、
あまりにつまらなくて(笑)。
宮沢 (笑)どうしたんだろう!
ルヴォー 1日目で、すべてが裏目裏目に出てきちゃって。
「幕開けはこうしましょう」っていう提案をしたら、
その俳優が、「あのね」って。
「このセリフ、僕ならふた通りあると思うんだ」(笑)。
宮沢 ふた通りしかないの?!
ルヴォー そこなの、そこなんです!
でもね、彼は「この俳優という技を見せてやる」
くらいに思ってて、
「こういうふうにも言えるし、こういうふうにも言える」
みたいな(笑)。
で、座って見ながら、「そんなことをよく言えるよね、
この人(笑)。イマジネーション皆無じゃん」
と思って。で、なんかね、
自分でそんなつもりがないうちに
自分の声が聞こえてきて(笑)。
「もちろん、3つ目がありますよね?!」
思いより先に自分の声が先に出てきちゃった(笑)。
宮沢 (笑)
ルヴォー 結局、「このままではだめだ」って思いました。
体験をする前に、もう自分の手で
コントロールしようと思っちゃってる人だから。
芝居は、そのコントロールしたい気持ちを
放棄しなきゃいけないでしょ、まず。
宮沢 そうですね。
ルヴォー それを1回放棄して、突入してから、
ちゃんと行くべき道を探すだけの、
俳優としての規律みたいなものを発揮する、
それが正しい順番じゃないですか。
宮沢 本当にそう思います。
ルヴォー 目覚めた状態で、
コントロールというものを一旦放棄する。
そこからしか始まらない。
怖いですよ、それは。
宮沢 本当に怖いです(笑)。
  (つづきます!)
2014-06-06-FRI
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