デヴィッド・ルヴォー対談 だから演劇はやめられない。 ──昔の日々と、今の日々。──  ゲスト 宮沢りえ[役者と演出家編]/木内宏昌[演出家と劇作家編]
 
[演出家と劇作家編]その4 政治を志したいと思ったこともある。
木内 世の中に演劇が必要のない人っていうのは、
いると思いますか?
つまり、演劇と関わらない人はいっぱいいる。
仕事にしているぼくに向けても
「仕事になってるの?」って訊く人もいる。
演劇は結婚相手としては最悪な職業だとも言われる。
ルヴォー 当然そうですよ。みんな言ってますよ。
木内 それは世界的にそうですか(笑)?!
ルヴォー 世界中で、それはたぶんそうだと思う。
だって、「演劇やってます」なんて、
結婚しようと思った相手の親に言ったら、
「それはわかりましたから、
 生活のためには何をされてるんですか?」
って言われますよ。
木内 あぁ‥‥映画監督もそうですかね。
ルヴォー 当然ですよ。
表現とか芸術の仕事をしているとね、当然。
それを生活の手段にできたら、
それはほとんど奇跡のようなもので。
木内 ルヴォーさんは演劇でできること、
表現手段を愛しているのだと思いますが、
演劇でできないことをやりたくなったりはしますか?
ルヴォー したくなることもあります。
若い時は政治を志したいと思ったこともある。
木内 えぇっ?
ルヴォー 演劇をやめようと思ったことはないんだけれど、
政治っていうものも、やはり身近に感じられて、
やりたいという気持ちになったことがありました。
20歳、21歳くらいの時に、
政府の命令によって取り壊しが決まりかけた劇場を
存続するために立てこもったりしたんです。
自分が指揮して。
そんなことしてたから、政治家の人と
いっぱい知り合いができたし、
弁護士とかも知り合いができたし、
労働党から「参加しませんか?」と誘われたこともあって。
木内 政治家として?
ルヴォー 考えたこともありました。
でも、自分には制度っていうものは
窮屈だと思って、やめておいたんですけど。
政治の世界に入るとしたら、
やりたかった仕事は1つしかなくて、
外務大臣。
自分が政治に参加することを
やっぱりやめようと思った時に、
入党した人が今の外務大臣だから、
その時目指していたら‥‥。
木内 なっていたかもしれない?
ルヴォー いえ、そういうようなところまで行ける時間は
経ってるんだなぁと思ったということです。
そんなことを振り返って考えたりもします。
なぜ今考えるのかというと、
政治と、政治が人にどういう影響を及ぼすかに
すごく興味があるからなんです。
そうじゃなくて選んだこっちのほうの道が
あまりにもおもしろいから、
今から変えようとはまったく思いません。
言葉だったり、政治だったり、文化だったりの、
この人間の生活における大きな集団について
考える機会に、この仕事はなっているわけだから。
それを自由な個人として追求できるわけだから。
政治のように、制度から来る縛りに応えなきゃいけないとか
要求をされない立場じゃないですか。
個人としてそれをやれるということ、
世界を自分で発見しながら体験できるっていうことが、
今は、できているから、それを変えるのは考えられない。
もし外務大臣だったら、
常に自分の本当の感情を押し殺して、
何かの成果を得るために動かなきゃいけない。
それは立派で当然のことだけれど、
自分にはそんなに興味を持てる話ではないんですね。
ちなみに労働党に入らないっていうことを決めた時、
同じ年に入ったのがトニー・ブレアです。
木内 首相にまでなった人じゃないですか。
ルヴォー ね、そんなにおもしろくなさそうだ。
木内 たとえば映画を撮りたいなんて、
思い浮かんだりはしませんか?
ルヴォー 舞台と映画は同じ領域に存在はしているけれど、
その必要な技術はそれぞれにありますよね。
でもその仕事の中心にあるのは、
いかにしてストーリーを伝えるか。
それが核にあると思っていますから。
そもそも映画も大好きだし、
実は、今年撮るかもしれませんよ。
木内 えっ?! どこで撮るんでしょう?
ルヴォー ヨーロッパで。
木内 へぇ!
ルヴォー 可能性があるんです。
今、それを実現しようと頑張っているところ。
まだ決定ではないので、
「実現しますように」のおまじないをかけています。
でも、本当にやりたいと思っているんです。
木内 それは演劇にはできないことですか?
ルヴォー この話に関しては、映像のための話だと思います。
もちろん演劇で伝えることもできる物語でもあるけども、
演劇でやるにはシンプルすぎると思う。
映像だと、シンプルさが深さにも繋がり得るけど、
同じ話を演劇でやると、
単純すぎてしまうかもしれない。
木内 なるほど、わかります。
ルヴォー 舞台の演出と映画監督には、つながりはありますよね。
ただ、カメラを通して物語を伝えるっていうことに、
今ちょっと興味があるんです。
しかも撮る機会を与えられているなら、
やってみたいと思っているんです。
木内 日本で映画を撮ってみたいとは思いませんか?
ルヴォー 撮ってはみたいけど、
これっていう題材は思い付かないです。
自分の観点で撮った日本、
映画にしてみたいという気持ちはあるんですよ。
すごく個人的な部分を扱うという意味で。
木内 それは観てみたいです。
観てみたいといえば、ルヴォーさんはブロードウェイで
『屋根の上のバイオリン弾き』や
『ガラスの動物園』を演出していますよね。
将来そんな作品も観られたら、うれしいな。
ルヴォー 日本で『屋根』ね‥‥とても人気ですよね。
日本では森繁久彌さんから始まったんですよね。
『屋根』って、そういう作品なんです、
このスターのためにある、となってしまう素質を持ってる。
そういえばぼくがブロードウェイでやった時、
作家のジョセフ・スタインが、
日本で初演した時の話を教えてくれたんです。
日本の初演を観て、
「これは日本のミュージカルだ」って
突然気が付いたって。
そうだ、父と娘と伝統と。そのままですよね。

(つづきます!)
2014-06-11-WED
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