もくじ
第1回人間は太るようにできている 2010-10-07-Thu
第2回日本人も、どんどん太る? 2010-10-08-Fri
第3回飢餓と飽食。 2010-10-12-Tue
第4回肥満が家庭を崩壊させる? 2010-10-13-Wed
第5回太りやすい人、太りにくい人。 2010-10-14-Thu
第6回1日20キロカロリーの積み重ねが‥‥。 2010-10-15-Fri
第7回食事抜きダイエットが失敗する理由。 2010-10-18-Mon
第8回辛くないトウガラシ。 2010-10-19-Tue
第9回脅迫型より報酬系 2010-10-20-Wed

糸井
それでは、高橋先生の言葉でいうと、
「肥満」というのは、いったい何なんでしょう。
高橋
もともとは、皮下脂肪をつけるための、
「加齢による適応」‥‥です。

糸井
「人間は、太るようにできている」という
今日のテーマとも、
通じてきそうな考えかたですね。
高橋
年齢が若いうちは
たくさん食べて、たくさん動けるから
まだいいんですが‥‥。
糸井
はい。
高橋
だんだん歳をとってくると
自分自身で獲物が捕れなくなりますし、
それから
「夜の寒さがこたえます」なんてときに、
歳のせいで動けなくなっていても、
皮下脂肪があれば
熱のインシュレーション(保温・保冷)を
してくれますからね。
糸井
なるほど、なるほど。
高橋
つまり、皮下脂肪が溜まるということは、
加齢における適応なんです、間違いなく。
歳をとったときの勲章みたいなものでね。
糸井
じゃあオレ、適応できたみたいだわ(笑)。
高橋
身体全体にぐるりと平均1センチの厚みで
皮下脂肪がつくと
だいたい「10キロ」になるんですよ。
糸井
へぇぇ!
高橋
で、糸井さんが「腹が減った〜」なんて言ってた
高校時代にくらべて、
いま「プラス10キロ」あたりにいるなら、
それは、
「適正な脂肪の付きかた」だと思っていいでしょう。
糸井
うわ! ぼくは今、まさにそんな感じです。

高橋
そのあたりに収まっているのなら、
「加齢による適応」の範囲内だと思います。
糸井
はー‥‥そうですか。
高橋
美容的な理由から
それ以上、皮下脂肪を減らしたいとなれば、
また別の話になりますけど。
糸井
つまり、オレはおおむね、いいと。
うれしいなぁ(笑)。
高橋
皮下脂肪って、適正についているぶんには
何の問題もないんです、基本的には。
糸井
ええ、ええ。
高橋
だから、平らかにね、粛々と歳を重ねた結果、
ついてきた皮下脂肪と、
不摂生でボコっとついちゃった内臓脂肪とでは
まずファンクション(機能)が違うし、
こう言い切っちゃうと
厳密には間違いも含まれるかもしれないですが、
問題になるのは、内臓脂肪のほうなので。
糸井
なるほど、なるほど。
高橋
身長の伸びも止まって、
もうこれ以上、体重の増える要素がないとき、
プラス10キロくらいまでは
皮下脂肪が増えたせいだと思うのですが、
それ以上になると
内臓脂肪が体重増加に寄与しはじめます。
糸井
そういう仕組みだったんだ。
高橋
人間は「短い飽食と長い飢餓」の時代には
冷蔵庫がないわけですから、
皮下脂肪や内臓脂肪として貯蔵するわけです、
エサをね。
で、この場合の「内臓脂肪」というのも
ついたり、なくなったり、
つまり、ダイナミックに増減していれば、
それは別に悪いことでも何でもないわけ。
糸井
ええ、はい。
高橋
でも、それが溜まり続けてしまった状態を
メタボリック・シンドロームと言うんです。
糸井
そうか、そうかーー‥‥。
高橋
メタボに陥ってしまったとき、
生体が、これはどう考えても異常だと判断すると、
たとえばインスリンの働きを下げて、
これ以上、
脂肪として蓄積しないように作用するんです。
インスリンが働かなければ、
当然、血糖値が下がってきませんから、
食欲が抑制されます。
つまり、食べようとも思わなくなるはず‥‥。
糸井
はず。
高橋
はず。
ところが「ストレス」を理由にしたりね、
説明のしかたは
いろいろありますけれど、
本来ならば食べようとも思わない状況でも、
人間は、食べることができる。
そこにあるのは「食という快楽」です。

糸井
ああ‥‥なるほど。
高橋
やはりぼくらは、意志を持った動物ですから、
「さはさりながら、やっぱり食べたいなぁ」
とかなんとか言って、
生体的には
食べる必要なんかまったくないのに、
食べることができちゃう。
おいしいものを、いろいろとね。
糸井
そういう環境にいますしね。
高橋
だから「肥満」や「メタボ」の問題に関して
基本的な理屈を言うなら
「たくさん食べても、
 そのぶん、エネルギーを消費すればいい」
ということなんですが‥‥。
糸井
ええ、わかりやすいです。
高橋
加齢による皮下脂肪の増加であれば、
10キロくらいまでなら
まぁ、円満かなぁと判断しています。
糸井
なるほど、そうでしたか。
高橋
仮に1年に1キロずつ溜めていくとすると
10年で10キロ、溜められます。
糸井
ええ、溜められますね。
高橋
この「1年で1キロ」というペースは
誰が証明をしているわけでもないんですけど、
私としては円満な数字だと思っていて。
糸井
はい。
高橋
でね、その「1年に1キロ」を
1日あたりに換算すると、
「20キロカロリー」になるんですよ。
糸井
え、そんなちょびっとなんですか?
高橋
1キロの脂肪というのは、8000キロカロリー。
糸井
ほう。
高橋
その「8000キロカロリー」を365日で割ると、
1日あたり「20キロカロリー」と出てくる。
糸井
つまり、たった20キロカロリーの積み重ねを
10年続けると‥‥10キロ太っちゃうんだ!
高橋
そうです。
ここで、さっきの「NEAT」の話でいうと
脳という器官は
身体の5分の1のエネルギーを消費してます。
糸井
ええ、ええ。
高橋
人が、一日に「2000キロカロリー」のエネルギーを
使うとすると
脳だけで、400キロカロリーを消費している計算。
そうするとね、
「20キロカロリー」という数字は、
「400キロカロリー」の「5%」じゃないですか。
糸井
つまり‥‥。
高橋
座りっぱなしのデスクワークだとしても
朝から晩まで必死に考えてる人と、
なーんにも考えないで
ぼんやりパソコンをカチカチやってる人では
いずれ、
かなりの差がついてくると思ったほうがいい。
糸井
なるほど、一生懸命、頭を回転させることで
一日に20キロカロリーぐらいは
よぶんに消費することができる‥‥ということですね。
高橋
そうです。
座りっぱなしでNEATが低い職業だとしても、
一生懸命、頭を使っていれば
充分、肥満に対抗する手段になると思うんです。

 

第7回 食事抜きダイエットが失敗する理由。