撮影:渡辺常二郎
AOMORI MUSEUM OF ART
Photography by Tsunejiro Watanabe

第14回 公共建築をつくるには


青木さんの建築事務所は、
目のとどく範囲の小集団ですよね。

それだと、「品質保証」は、
自分でやらないとダメですよねぇ。
はい。

自分の手のとどく範囲でやるから、
おおきな組織とは
ちがうことができるんですもんね。
小集団だと、
「一生懸命」の表現の出しあいにもなるし、
くだらない徹夜も、しちゃうものだし……
ええ、ええ。
でも、そういうの、よくないですよね?
(笑)よくないです。
かといって、
大企業みたいに、何時から何時まで、
と決めるのもウソだし……。
フランスに出張する前、
いそがしかったんです。

だから、
ぼくが外国に出てしまうと、
会社は、どうなるんだろう?
と心配していたら……帰ってみたら、
問題、なにも起きていないんですよ。

帰ってきた日は、
机にすわっても、やることないんですよ。
(笑)いいですねぇ。

「もしかしたら、オレって
 必要ないのかもしれない」
と、心配になるぐらいの組織が、
ほんとは、いちばん、いいんでしょうね。
ええ。
小集団で仕事をしていれば、
毎日のように
トラブルや事件が
起きてくるじゃないですか。
ええ。
そのときに
「このことはこうしよう」
と、対応できるだけの
余裕のある自分でないとダメですし。
いつも、「いっぱいいっぱい」だと
やっぱり、いけないんですよねぇ……。
そうですねぇ……
なんかこの会話は、最後は
中小企業の懇談会みたいに
なってきましたけど、
青木さんも、ぼくも、
「経営が、いちばんむずかしいことだ」
という意識が、たぶん、
自分のなかに、あるんでしょうね。
ええ。

自分の事務所を
つくったはじめのころには、
ジレンマがありました。

「いい仕事をしないと、
 いいスタッフが来てくれない」

「しかし、
 いいスタッフがいないと
 いい仕事はできない」

どうすればいいんだろう?

解きようがない矛盾だな、と思いましたから。
それ、わかるなぁ!

品質管理のことばかりがアタマにあると、
新卒を、とりようがないんですもんね。
だけど、新卒が仕事をしてゆくあいだに、
ノウハウが、鍛えられていくのでしょう。

……ということを考えると、
最初から新卒しかとっていない
青木さんのところは、
進化したところからはじまったのでしょうね。
はい。

新卒じゃない人が来たことは
ほとんどないです。
新卒じゃない人だと、二段階、
必要になっちゃうんですよね……。

ある経験があるから、
その経験を一回消去してもらわないといけない。
そうしないと、その人なりの
凝り固まった仕事の進めかたになりますからね。

創造的な仕事でなければ
経験は便利なのでしょうけど、ぼくの場合は、
消去してもらわないと仕事になりませんから。

でも、消去、したがりませんからね。
だから、やっぱり、新卒のほうがいいですよ。
建築の学科の出身者がはいる会社だから、
新卒の人たちの「建築のための言語体系」は、
ある程度、学校で鍛えられているんですか?
いえいえ、それはぜんぜん鍛えられていません。

「学校でうまくいかなかったし、
 先生からは『ちがうだろう』と言われて、
 やろうとしていたことが、できなかった』

とか、そういう不器用なヤツって、
いるじゃないですか。
そういう人しか採用できませんし、
そういう人が好きですから、
ぼくは、そういう人を採るんです。

そういう人の、本来、
やりたかったことを伸ばしてあげたら、
ものすごい成長するのが、おもしろいんです。

ただ、だんだん、
器用な人がはいってくるようになると、
おもしろみは、減るんですけどね。
もう、今じゃ、
青木さんの事務所にはいるというのは、
「有名な事務所にはいること」ですから、
エリートが来てしましますよね。
それが問題なんです。

「三月に卒業しますから、
 四月からつとめたいんですけど……」

最近、わかってきたのは、
こういうふうに言ってくるかたは、
「将来を考える余裕のある人」なんですよね。

むしろ、四月か五月ぐらいになってから、
「このまえ、学校が終わったんですけど、
 仕事をしたいんです」
と言ってくるという……これはスゴイですよ。

学校が終わるまで、
次のことを、考えていなかったんですから。
そういう人に、はいってほしいんです。

そういう子で、
おもしろいことをやっている人、いますから。

今までの、いろいろなスタッフを見ていても、
正直に言いまして、
「学生時代から建築設計のうまいヤツ」
なんて、ほとんどいないんです。

むしろ、写真を撮るのが好きで
こういう写真を撮っていましたとか、
地図を見るのが好きで、
こういうおもしろい地図を見つけたとか、
建築とぜんぜんちがうところで
「コイツはおもしろい!」と言って
採用しているのが、実情なんですね。

つまり、
学校時代に自分の興味を失わずに済んだ、
という力を、評価したいんです。
なるほどなぁ……。

採用した新卒たちは、四年間で去る。

勇気を持って、そのルールを
守ってきた青木さんが、すごいですね。
それは、悩むときもありますよ。

学部の四年生を採るのをやめて、
経験のある人も採ろうかな、と考えたり……。

でも、どこかで、思いとどまる。

それから、
一年経って、二年経って、となると、
「やっぱり、方針をかえないでよかったなぁ」
と思うことが、多いんです。
そうなんだろうなぁ!

いやぁ、話していて、
ものすごくおもしろかったです。

どうもありがとうございました。
こちらこそ、とてもたのしかったです。
ありがとうございました。
今度、また、
こういう対談の第二弾、やりませんか?
ええ、ぜひ。
(青木淳さんと糸井重里による建築の対談は、
 いったん、こんなふうに、おわりました。
 読んでいただいてありがとうございました!
 またの登場を、たのしみにしていてくださいね。
 postman@1101.com
 対談の感想などは、ぜひこちらに、件名を
 「青木さん」として、おおくりくださいませ!)

2006-06-13-TUE


これまでの「建築っておもしろそう。」
第1回 ルールがないと、なにもできない
第2回 はじめに「不快」があった
第3回 がんじがらめを抜けだすために
第4回 矛盾を探す仕事
第5回 人の業、神の業
第6回 二面性を持てること
第7回 「いい建築家」とは?
第8回 職場は四年制です
第9回 自分が変わる仕事
第10回 危機を乗りこえる
第10回 危機を乗りこえる
第12回 ヒントをもらうものは
第13回 ほんのすこしの変化
第14回 公共建築をつくるには



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