第4回 矛盾を探す仕事


建築を依頼する人たちの
「このかたは、じつは
 こういうふうに生活したいんだな」
という要望は、
見えてくるものなんですか?
結果的には、
「見えていると言えるような状態」
になりますね。

最初に家をたのまれると、
「どんな家がいいですか?」
と、ききますでしょう?
ええ。
そうすると、
人によってずいぶんちがいますけど、
たとえば、
ポートフォリオが用意してあって、
そのなかに、
いろいろな雑誌から
切りぬいた写真があって、
「こんな見晴らしがよかった」
「地下はこれで、
 1階はこうで、2階は……」と、
すごく、
こまかいところまで決めてから
持っていらっしゃることがあるんですね。

もちろんはじめは、
「わかりました、それでやりましょう」
とやってみるんですけど、
アタマのなかで考えられた理想ですから、
たとえば、土地に合わなかったりするんです。
あぁ! なるほどなぁ。
もしもそういう空間ができても
のぞむだけの見晴らしがなかったり、
おおきさが、周囲と合わなかったり、
たしかに、
いちばん上の階は気持ちがよくなるけど、
それでは、
いちばん下の階は真っ暗になってしまう、
だとか……
そのとおりにやっても、
うまくいかなくなるんですよ。

「どうしたらいいのかな?」

そこで考えはじめると……

「あ、こうしたらいいかも!」

それは、
いちばん最初に言われたことと
正反対だったりするわけですね。

だから、いいのかなぁ、とは思うけど、
「こんなふうに考えてみました。」
と、ダメもとで見ていただくんです。

すると、
「あ、そうだったんだぁ!」
と言ってくださる場合もあれば、
「いや、そうなんだけど、ちがって……」
と言っていただくときには、ぼくの側の
そのかたのインプットがちがうわけだから、
もういちど、考えなおしていくんですね。

そういうやりとりが、あるわけです。

やりとりをしているうちに、
だんだん決まるようになる……
そのプロセスをとおしてですが、
相手の潜在的な「不快」は、
見えるようになるわけですね。

「うーん……
 とてもいいんだけど、
 ちょっとちがう!」

こういう場合の「ちょっと」は、
じつは、おおきくちがうんです。
「ちょっとちがう」を発見することは、
どんな分野にせよ、
ものすごく、むずかしいことですよねぇ。
なんだか、自分の仕事と、
共通点が見えてきました。

「ちょっとちがう」の発見は、
問題意識の発見ですから、
そこまでたどりついたとしたら、
もう、できたも同然になりますよね。
あとは、答えを探すだけですから。
しかも、
そういうふうに
「ちょっとちがう」
という言葉が出たときには、
矛盾があるんですよね。

たとえば、具体的に言えば……
「すごく、解放感がほしいんだ」
「でも、人から見られたくない」
とか。
あります、あります。
解放感とプライバシー、
両立できたらいいですもんね。
ええ。
これは、
要望としては、矛盾しているわけですが……
しかし、矛盾しているほどラクなんです。

矛盾しているなら、
仕事はクイズになりますから。
やらなければいけないことは、たとえば、
「解放感を得ることができて、
 しかもプライバシーを守る」ということは、
むずかしそうなんだけれども、
それを解くことをすればいいわけですから。
あぁ、
「もとめる快がある」
ということか……。
すべての「快」を満たさなくても、
「あぁ、快だ!」
と、ひとつ思えるだけでも、
うれしいですもんね。
そうなんです。
「快」が見えるときが、
いちばん、ラクな設計なんです。
矛盾を発見できるということが、
建築の仕事の核なのですねぇ……。
そうです。
住宅で、矛盾がわかりやすかったものは、
小田原の海に面している土地の家でした。

海に面してはいる土地でしたが、
海と土地とのあいだに
西湘バイパスという道路がありまして、
しかもその土地は
西湘バイパスよりも1.2メートルほど
さがっていまして……
海のほうを見ると、
海は、すぐそこなんですけど、
クルマがびゅんびゅん通るんです。

海を見ようとすると、
トラックの運転手さんと目が合う……。

これをどうしたらいいのか?

そういうものが、いちばん、
解決策を、見つけやすくなるんです。

問題は、はっきりしている。
答えを、つくればいいわけですから。
答えは、どうなったんですか?
(次回に、つづきます)

2006-05-29-MON


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