川上弘美さんと
相づちを打ち合う。
『MOTHER2』を切り口に
「そうそうそう!」
作家の川上弘美さんは
『MOTHER2』を何回となくやったファンで、
『MOTHER2』をつくった糸井重里は
川上弘美さんの小説やエッセイのファンで、
ゲームを切り口にいろんな話が盛り上がりました。
前回大好評いただきました
「男女が同居するということ。」に続き、
ふたりの放談をたっぷりお届けします。
『MOTHER』ファンも、そうでない人も、
ごいっしょにその場にいる気分で、
ほんわりとお読みくださいませ、なんですよねー。
そうそう。

第13回
必然性と辻褄の合わなさ加減


糸井 受け手に必然性を感じさせるというのは
たしかに難しくて、『MOTHER2』でも
乱暴なことをしている場合はあるんです。
「ここは、一切合切、考えなしに飛びますよ」
っていうふうなことを、
知っててやってることはあるんですよね。
川上 ああ、はい。
糸井 ただし、その、
「必然性もへったくれもねぇぜ」っていう、
急に入れ墨見せちゃう
みたいなことをやるときには、
「知ってますよね?」っていう
サインだけは入れとくんですよ。
川上 そう! それなんですよね。それそれ!
サインが入ってないと
「えっ!?」って思いますよね、やっぱり。
糸井 川上さんの作品にも、
そこはものすごく丁寧に入ってますよね。
川上 はい。でも、みんなそうじゃないかな?
だから、散文書く人間っていうのは、
地道な人が多いと思いますよ、わりと(笑)。
糸井 はぁ〜。僕はね、散文を書くとなると、
それが、できないんです。

川上 できないんですか。できますよ(笑)。
糸井 いや、あのね、できないんです。
川上 気にしなきゃいけないところが
多過ぎるからですか?
糸井 あの、そうじゃなくてね、
なんといったらいいんだろう、
急にパーフェクトを求め始めちゃうんです。
川上 あー! そうするとできないですね。
糸井 はい。
川上 そこは、言葉の表記の話と同じですけど、
いい加減さと厳密さが、両方要るんですよ。
で、小説を書くときに、
そこでパーフェクトを求める人は
やっぱり書けないと思う。
糸井 あ、そうか。またしても、
短文の発想で長文を書こうとしてるんだ。
川上 そうです、絶対そうなんですよ。
言葉をぜんぶ吟味して、吟味しつくして、
きちんとやりたいっていうのが
きっと、あるんじゃないですか?
糸井 たいした吟味じゃないんですけどね(笑)。
自分なりに、やりたいんでしょうねえ。
川上 (笑)。そのへん、ゲームをつくるときは
どうだったんですか?
糸井 ゲームをつくるときは、
乱暴に運ぶところと、繊細にやるところが
使い分けられるんですよね。
やっぱりさっきのサインの話になるんですけど
お客さんに対して、
ここはいい加減な感じで楽しんでくださいとか、
マルデタコを出したあとに
ミタメタコを出すようなことが、
平気でできるんですよねえ。
川上 (笑)

糸井 それは、作詞のときと似ていますね。
あの、たとえば作詞するとき、
1コーラス目をまず書きますよね。
そのとき、2コーラス目のことなんか、
じつは考えてないんですよ。
川上 えっ、そうなんですか。
糸井 ほんっとにそうなんです。
1コーラス書いたあと、それをずっと見ながら、
「2コーラス目、どうしよう?」と思うんです。
同じことを角度を変えて言おうか、
それとも話を進めようか、
逆転させるのはどうか、
光を違う場所に当ててみようか……。
2コーラス目をつくるのって、
たんにそれが必要だという
制約にすぎなかったりするんです。
また、その制約があるおかげで、
2コーラス目のほうがよくなったりもする。
ひとつ生んだら、つぎを生むときは
自己模倣したり、並び順を変えてみたり。
そういうことについては訓練というか、
経験を積んでいるもんですから。
ゲームのときはそれが使えるんですよね。
川上 でも、何か、ものをつくるときは、
いつもいっしょなんじゃないかな?
たぶん、散文を書くときも同じなんですよ。
糸井 そっか。
川上 最初の土台みたいなものもなく、
いきなりピュッて逸脱することは
やっぱり難しいですよ。
ほら、まったくオリジナルなものはないって
よくいいますよね。
糸井 はい。
川上 それとおんなじ。
まずそのつくり始める前の、
絵のかたちであるとか文字だとか、
その土台からしてもう、あるものなんで、
そこをどうずらしていくか。
それも、その、ずらし過ぎないで、えっと、
受け取る側がわかるくらいの飛躍でずらしてく。
そのへんはみんな同じなのかな。うん。
糸井 その飛躍の具合によって、
サインを出したり出さなかったり。
送り手と受け手のサインがしっくりいくと、
気持ちいいわけですよね。
川上 あ、そうか!
それで気持ちがいいのか(笑)。
『MOTHER2』がなぜ好きなのか、
ひとつ、わかった。
それがうまくいってないと、混乱したり、
ストレスになったりしますもんね。
糸井 こないだ観た映画で、
まさにそれがうまくいってなくて
イヤだったんですけど、
ラストシーンの重要なところで、
一方の男が離れて行っちゃって、
急いで追いかけて探すっていう
場面があったんですよ。
ところが、その人たちは、遊園地みたいな
閉ざされた場所にいるんですよ。
それで、「どこかへ消えてしまう」という
盛り上がりがちっとも感じられなくて
「そんなに必死に探す必要ないだろう」
と思っちゃうんですね。
それがどうにも不愉快で、困ってしまって。

川上 そういうのありますねえ(笑)。
気にかかっちゃうんですよね。
だからね、なんかそういう映画やドラマ観てて、
いちばん困っちゃうのがそれなんですね。
そのお話自体がイヤだとかそういうのよりも、
やっぱりその辻褄の合わなさ加減とか、
辻褄の合い加減とか、そのへんなんですよ。
おもしろいですよねー。
糸井 だから、川上さんの作品で、
急に妖精が出てこようが、
人間が熊になろうが──。
川上 そうなんですよ! それそれ。
よくそれ、私は言われるんです。
「変なものが突然出てくるけど
 なぜか違和感がない」って。
違和感はないはずなんですよ。
糸井 ないように書いてんだもんね(笑)。
川上 そうそうそうそう! そうなんですよ。

糸井 だから、川上さんの作品に関しては、
ほんとにぼく、よくわかるんですよ。
川上 ありがとうございます(笑)。
(おわりです)

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2003-08-20-WED

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