- ──
- 和太先生と、仲が良かったんですね。
和太さんって、呼んでるくらいだし。
- 根本
- 学生の隣を併走してくれる人でした。
わたしなんかからすれば、
陶芸界の大御所だし、
重鎮だと思うんですけど、
決して緊張させないし、
若い学生を応援してくれる方でした。
- ──
- いい先生にめぐり合ったんですね。
- 根本
- はい、すごく尊敬していましたし、
今でも大好きです。
軽やかで、ひょうひょうとしていて、
紳士的で、すごく人を見ていて。
- ──
- ええ。
- 根本
- 人の本質的な部分を見抜いてくれて、
そこを認めてくれるんです。
何に対しても「真摯であること」を、
教えてもらいました。
- ──
- 作家でありつつ、教育者でもあって。
- 根本
- 博学で、博識で、頭がいいんだけど、
上品な人格者で、
一緒にいる人を、
気持ちよくさせるようなタイプの人。
大学の先生としては、
学生に集中させるのが上手というか、
「あなたのその緊張は、
無駄だから早くリラックスして
目の前の作品に集中して」
という空気感を、持っているんです。
- ──
- なるほど。
- 根本
- 工芸界では、
加守田章二さんの好敵手だと、
言われていました。
- ──
- そうなんですね。
- 根本
- 永六輔さんと雑誌で対談してたり、
テレビの『趣味悠々』では、
秋元康さんと共演したりしてます!
当時10代だったわたしには、
華々しくうつりました。
- ──
- いいなあ、とくいげで!(笑)
自分の師匠のことを、
それだけ自慢できる根本さんが、
すばらしいですよ。
- 根本
- そうですか?
- ──
- で、和太先生に負けないくらい、
根本さんも、和太先生を見てますね。
- 根本
- そうですね、見ていました。
わたし、制作のあいまに、
「SANZOKU」というブランドで
食器をつくってるんです。
- ──
- へぇ‥‥うわあ。何かすごい。
- 根本
- この食器のシリーズは、
陶器の作品とは
ちょっと感じを変えてるんですが、
それも、理由があって、
あるときに和太さんから、
「何だっていいから、
3つのことを主軸にがんばりなさい」
と、教えてもらったからなんです。
- ──
- 3つ。
- 根本
- わたしの場合、
今は「生きものの作品」と
「SANZOKU」と
「山形藝術界隈」なんですけど、
とにかく3つだ、
3つのことをがんばりなさいと。
- ──
- 理由は‥‥。
- 根本
- 3つあったら、
1つがダメになってしまっても、
他の2つが、
あなたを支えてくれるからって。
そうして1つずつ育てていれば、
おのずと、
それぞれが影響し合って、
成長していくよって。
- ──
- 何かもう、学校の先生っていうより、
人生の師みたいな感じです。
ちなみに和太先生の場合は、
他の2つは、何だったんでしょうね。
- 根本
- ねえ、何だったのかな。
気になりますね。
でも、もう聞けない‥‥
ああ、そうそう、
これ、大学院の指導計画書なんです。
和太さんが書いてくれたんです。
- ──
- えーっと、指導計画書というのは
つまり、根本さんを、
どういうふうに指導していくのか、
和太先生がが
学校に提出する書類のことですね。
- 根本
- そうです。これが、すごく‥‥。
- ──
- たいせつにとってあるんですね。
ちょっと読んでいいですか。
「根本裕子はたいへんおもしろい造形や
加色の意識と感覚を持っている。
ただ、それが陶という
多種の要素を有する材質のなかで、
造形の技術、素材、加色手段等が一致して、
ここというポイントに収斂する契機を、
まだつかんでいない」
- 根本
- つまり「未熟である」と。
- ──
- 「‥‥手びねりでも、ろくろでも、
つくる動作、段取り、仕上げを
具体的に決定して収斂していく方法論を
身に付けることを第一の目標として、
それを経て、
彼女本来の自由な発想の実現を目指したい。
今は、その段階を踏むことが、
将来、彼女に多方面の生活の基盤を‥‥」
‥‥読んでて感動しますね、これ。
- 根本
- ほんとですか。嬉しい。
- ──
- 「根本がつくりたいかたちを提示し、
それを、私とディスカッションしながら、
明確な作品として確定し‥‥」
一緒にやろうみたいなことじゃないですか。
- 根本
- そうなんです。
まさに一緒につくりましょうという提案で。
自主性というか、
学生の側の自由な発想の余地は残しながら。
- ──
- 大学の教授と学生の関係を見てると、
完全に上下みたいなケースもありますけど、
そんな感じじゃなかったんですね。
- 根本
- はい。
- ──
- 美術の世界って、そうなんですか?
- 根本
- いやあ、どうなんでしょうかね。
美大でも、トップダウンのところも
あると思いますけど。
たとえば、和太さんの場合、
それまでずっと手びねりをやってたので、
ご本人も、
大学でロクロを引きはじめたんです。
- ──
- ええ。
- 根本
- なので、いちばんはじめに会ったときに
「ぼくもロクロ初心者だから
みなさんと一緒に学びたいです」って。
- ──
- 和太先生から教わったこと、
ほんとうに、いろいろあると思いますが。
- 根本
- ええ、さっきも言いましたけど、
ひとつには、とにかく
「無駄に緊張しない方がいい。
そんなものははやく捨て去っちゃって、
目の前のことに集中しよう」
ということだと思っています。
- ──
- 製作中に、緊張ってするんですか?
- 根本
- いつもけっこうギリギリですね。
攻めた造形も多いので。
乾燥後はコツンと何か当たっただけで、
ポツンと落ちちゃうし。
ただの乾燥した土のかたまりなので。
- ──
- ああー、そうか。
- 根本
- いちばん緊張するのは、
やっぱり窯に入れるときですけど。
- ──
- 焼きあがって窯を開けてみないと、
仕上がりが、わからないんですもんね。
- 根本
- 陶芸って「決定」の繰り返しなんです。
- ──
- と言うと?
- 根本
- 土って、まだ固まっていないうちは、
ふにゃふにゃしてて、
あまりにも「自由」なんですよね。
でも、固まっちゃったら動かせない。
- ──
- 急に言うことを聞かなくなる。
- 根本
- なので、1回1回、
いちいち、ぜんぶ決定していかないと、
ダメなんです。
- ──
- 「ひとまず、これで」ができない、と。
- 根本
- そうです。
つねに、決定の繰り返し。決断の連続。
なので、制作に関しては、
あんまり悩まないようになりましたし、
いちいち緊張していたら、
ぜんぜん「先に進めない」んです。
- ──
- だから、和太先生は「緊張せずに」と。
- 根本
- ただ、今日も‥‥というか、
ここ1ヶ月、ずーっと緊張してたんで、
まだまだですね(笑)。
- ──
- 緊張? 取材があるから?
- 根本
- はい。そうなんです(笑)。
でも、これが、今日のわたしのお守り。
- ──
- 何ですか?
- 根本
- わたしが持っている、
ゆいいつの「和太守卑良作品」です。
- ──
- わあ、買ったんですか。
- 根本
- ほんとうにちいさな作品なんですけど。
じつはこの作品は、まだ学生のころに、
和太さんがつくっていたんです。
和太さんの部屋にあって、
ほしかったんだけど買えなくて、当時。
- ──
- へえ。
- 根本
- 和太さんも「これは、やめときなさい」
って言ってたんですが、
その作品に、和太さんが亡くなった後、
あるところで、偶然に、めぐりあって。
- ──
- 運命ですね。
- 根本
- だから、わたしのお守りなんです。
<つづきます>
2018-11-29-THU
※山形藝術界隈について
山形で、絵画・音楽・パフォーマンス等
それぞれの表現活動を行うメンバーが集まり、
既存の枠組みに捕われない
新たな作品制作・発表のあり方を模索する
実験的な活動を行なう芸術運動体。
この活動の支援活動として
根本が制作した「藝術の壺」を
リターンアイテムとして売っている。
現在、山形藝術界隈は「年間山形藝術界隈展」として
石巻のキワマリ荘(GALVANIZE gallery)にて
2018年3月から2019年2月まで
年間を通して企画・展示発表し続けている。
今回のインタビューは、その年間山形藝術界隈展より
「帰ってきた MOLE GALLERY」にて行われました。
石巻のキワマリ荘
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