- ──
- 昔、プロ野球の西武の石毛宏典選手が、
シーズンオフになると、
自主トレでロクロを回していたんです。
- 根本
- あ、そうなんですか。
- ──
- なので、そのときから、「陶芸」って、
感情をコントロールしたり、
気持ちに作用したり、
精神集中みたいなことに役立つのかな、
というイメージがあって。
- 根本
- そうですね、どうなんでしょうね。
たぶん相手が「土」という自然なので、
人間との相性が
いいんじゃないかとは思っています。
- ──
- 何かそんな感じします。
- 根本
- 土は生きている‥‥みたいな話が
最初のほうで出ましたが、
実際そこが微生物の世界だってことは、
土を触っているとよくわかります。
どんどん「分解」されていくんです。
- ──
- 分解?
- 根本
- そう、長く土に触れている手の指紋は、
どんどん薄くなっていく。
土が乾かないように
湿ったタオルで覆ったりするんですが、
そうしておくと、最終的には、
ドロドロに溶けてしまったりもします。
- ──
- タオルが。分解されて。
- 根本
- だから、わたしは、
そんなふうに生きている粘土の粒子を、
指紋を溶かしながら、
ひっつけたり合体させたりして、
土の塊をつくっているなあと感じます。
- ──
- 指先を微生物に分解されながら、
感情を分解できたら‥‥と思いながら。
ちなみにですけど、根本さんは、
自分の作品を世の中に発表するときは、
どういう気持ちになりますか。
- 根本
- 恥ずかしいです。
- ──
- あ、そういう気持ち。
何だか、わかるような気もしますけど。
- 根本
- だって、頼まれてもいないのに、
自分の夢の中をことを、
大声で話してるようなものですから。
ある意味で、
ものすごーくプライベートな部分を
さらけ出すようで、
ちょっと‥‥勇気が要るんですよね。
- ──
- 作品って、ただひとりの時間の中で、
うまれてくるものですもんね。
- 根本
- 誰がいいと思うかわからないものを、
「すいません、どうでしょう」って。
はじめて会う人に、
自分の手料理をふるまうような感覚。
- ──
- ああ、それは、
わかりやすくドキドキしますね。
- 根本
- 自分のことは常に懐疑し開示し続けつつ、
その自分をどこまで許せるか、
そして他人を、どこまで信じられるか。
「信じる」ってことに
とても近い行為だと思います。
だから恐いとも感じます。
作品を発表するって、
何だか、そういうところがありますね。
- ──
- 信じる‥‥キリスト教とか宗教って、
ご自身の中では、
どういう位置づけなんでしょうか。
神さまっぽく見える作品もあるし、
根本さんにとって、もしくは
根本さんの制作にとって、どのような。
- 根本
- そうですね、
礼拝にはごくたまに行っています。
でも、わたしは、
自分では「無宗教」だと思っています。
- ──
- 礼拝に行くけど、無宗教。
- 根本
- 子どものころから、
宗教に関してはつねに考えていて、
そのときどきで、
いろいろと変化しているんです。
今は、神さまはいると思ってるけど、
だからといって、
宗教だとか神さまに対して
「こうでなくちゃいけない」
みたいなことはあまり思わないです。
- ──
- 存在は、信じてるけど。
- 根本
- 信じてる‥‥否定できないって感じ。
- ──
- なるほど。
- 根本
- 心の中で「信じたい」と思っている
自分がいる‥‥気もします。
でも、今の「みんなの神さま」って、
「Googleさま」ですよね。
- ──
- ああ、何でも知ってるって意味では。
ネットの世界では万能感ありますね。
でも、根本さんのつくる作品と
インターネットって、
ちょっと遠い気もするんですが。
- 根本
- 2週間くらい前に、
スマホを洗濯しちゃったんです‥‥。
- ──
- うわ、洗濯かあ。
- 根本
- そう、一瞬水没とかじゃなく、洗濯。
- ──
- 洗いが10分、すすぎが3回‥‥的な。
その後「脱水」されるとはいえ。
- 根本
- そう(笑)、バックアップとかを
まったくとってなくて、
データがぜんぶ飛んじゃいました。
やっちゃったことあります?
その損失感たるや、ものすごいですよ。
- ──
- あ、そうですか。写真とか?
- 根本
- 自分は毎日、土に触ったり、
自然のものに関わったりしてるから、
そういうの、
別に平気でしょと思ってたんですが、
露骨にショックですね。
- ──
- 我が身に降りかかると。そうですか。
- 根本
- 自分の人生の一部を失くしたような、
そういう気持ちが、
ここ2週間ずーっとつきまとってて。
あたまでは、わかってるつもりです。
ほんとうに大切なもの‥‥
つまり「本質」ではないってことは。
- ──
- ええ。
- 根本
- でも、つくってる途中の写真なんかが
ぜんぶ失くなっちゃったし、
いろいろべんりで、
制作するのにも使っていたので、
すでに「第三の手」みたいになってた。
それがちょっと、自分でも意外でした。
- ──
- 作家が「第三の手を失くす」‥‥って、
けっこうな事件ですよね。
- 根本
- そんな感じ‥‥だったんです。
- ──
- 思った以上に「依存」していた、と。
- 根本
- みたいですね。
自分は、ぜんぜんそんなことないって
思っていたんですけど、
思いたかっただけだったのかなあ。
- ──
- あの、今と昔の作品をくらべると、
より本物の生きものに近くなってると
思うのですが、
そのことに理由はありますか。
- 根本
- そうですね‥‥見た目については、
具体的になってきているとは思います。
でも、作品に対する姿勢は、
そんなに変わってないように思います。
- ──
- そうですか。
- 根本
- はい。以前は、神さまのような作品や
神さまと人間の中間みたいな、
存在のあやふやな作品もありましたが、
最近は、
人間そのものに興味を持っているので、
作品の表情が、どんどん
豊かになってきていると感じています。
- ──
- なるほど。
- 根本
- 人間に興味を持ちはじめたことで、
今まで内面に押さえられていた表情が、
ぐーっと、外に出てきたというか。
今では、神さまも信じたいし、
人間も信じたいって思いはじめてます。
- ──
- それは、後から振り返ると、
大きな転換点かもしれないですね。
きっかけって、何か思いつきますか。
- 根本
- 「急激に、決定的に」というよりも、
「ゆるやかに」ですが、
やっぱり、
個人的な震災体験があると思います。
どこかで何か大きなことが起きたとき、
自分は当事者でいられるのか‥‥とは、
あれ以来、よく思うようになりました。
- ──
- 当事者。どこにいたとしても?
- 根本
- そうですね。
震災を経験して、一生懸命想像すること、
イメージをふくらませることで、
今、ここからは見えない出来事にも、
すこしでも、
関心を持つことが重要なんじゃないかと。
- ──
- なるほど。
- 根本
- 見えない放射線のことを、
どこかで意識しながら毎日を過ごすうち、
ものの本質というものは、
実は、ちいさなチリみたいな感情の中に
ひそんでいるのではないか‥‥って、
そんなふうに、思うようにもなりました。
- ──
- それで、分子にも興味が及んで。
- 根本
- そうですね。あれは、
感情を司るホルモンの分子記号なんです。
- ──
- やはり、根本さんは、
ものの「本質」をつかみたいですか。
- 根本
- はい。それは。つかみたいです。
- ──
- 陶芸家である根本さんの場合は、
土を触ることで‥‥作品をつくることで。
- 根本
- 本質をつかみたいし、
もっと世界を深く理解したいと思います。
普遍的かもしれないけど、
今は、見えないものの中に、
その本質が宿っている‥‥のかもしれないと、
感じているところです。
<おわります>
2018-11-30-FRI