2018 新春とくべつ対談! 油井亀美也宇宙飛行士+糸井重里 人間を信頼する、人間の仕事。 2018 新春とくべつ対談! 油井亀美也宇宙飛行士+糸井重里 人間を信頼する、人間の仕事。
第3回 やっぱり「遊び」も必要。
糸井
宇宙だとか地球の話って、
子どものころって、当然、大好きですよね。
油井
ええ。
糸井
ぼくが小学校高学年くらいかなあ、
ガガーリンさんが、宇宙へ行ったんですよ。
油井
ああ、リアルタイムで見ていたら、
本当にセンセーショナルだったでしょうね。
糸井
本当に。当時はガガーリンさんの前後に、
ライカ犬だとか、
初の女性宇宙飛行士テレシコワさんとか、
そういう、
宇宙の話が華やかな時代だったんですよ。

なにせ、当時の人工衛星の姿を、
まだ、絵に描けるくらいですから、ぼく。
油井
すばらしい(笑)。
JAXA/NASA Photo by Kimiya Yui
糸井
少年雑誌の誌面や付録にも、
宇宙や未来のイメージが、あふれていて。

当然、まわりにも、
宇宙飛行士になりたいっていう子だらけ、
そういう時代だったわけです。
油井
ええ。
糸井
でも、その後、宇宙飛行士にはならずに
大人になったぼくは、
なんて言ったらいいのかなあ‥‥
宇宙だとか地球だとかって言葉を
軽々しく言う人に懐疑的になったんです。
油井
ああ、なるほど(笑)。
糸井
どうしてかって言うと、
宇宙だとか地球だとかいう言葉を使って、
気宇壮大に見せかけるというか、
なんだか、宇宙や地球を
うまく利用してるんじゃないか‥‥って。
油井
はい、わかります。
糸井
あと、自分が大人になっていくにつれて、
自分が生きている現実の、
おもしろさと辛さが両方わかってくると、
「簡単に宇宙とか言われても」って。
油井
そうですよね。
糸井
ぼくは広告の仕事やっていたものですから、
「宇宙」とか
「地球」って書いてあるコピーは、
もう、それだけで、信用できませんでした。
油井
あはは(笑)。
糸井
さっき自分の会社の言葉で「夢に手足」と
言いましたけど、
その「手足」から目を逸らして、
宇宙とか地球をながめているような発想が、
「口ばっかし」な感じがして。
油井
たしかに、そうだと思います。

あまりにも自分とかけ離れていたら、
実際の目標として、
見られなくなってしまいますから。
糸井
で、まあ、そんなふうにしてですね、
宇宙や地球に対して
ひねくれた人間になりました(笑)。

ですから、今日の油井さんみたいな、
「宇宙の話」を
「人間の話」に翻訳してくれる人が
そばにいたら、
もっときっとおもしろかったんです。
油井
いやいや。
糸井
でも、ひとつの転機のようになったのは、
何年か前に
映画の『アポロ13』を観たことです。

つまり、あの物語って、
映画だけど、実際の話なわけですよね。
油井
ええ。
糸井
あの映画を観てから、ぼく、
宇宙の話ができるようになったんですよ。

ようするに、「風邪ひいちゃう」だとか、
「目視で帰ってくる」だとか、
事態を打開するために、
地上の仲間から「頭を借りる」だとか‥‥。
JAXA/NASA Photo by Kimiya Yui
油井
ああ、なるほど。「人間の話」。
糸井
そう。
油井
たしかに、わたしたちも実際に、
地上のエンジニアと一生懸命考えて、
どうしたら問題を解決できるか、
そういったことは、
規模や形は違えど、
日常的にやっていることですからね。
糸井
そうなんですよね。

そういう意味で、あの映画は
宇宙や地球に対して
「ひねくれた」自分にとっては(笑)、
見方を変えてくれる、
すごく大きなきっかけになりました。
油井
軌道上で‥‥つまり「きぼう」の中で、
何らかの不具合が起きたとき、
宇宙飛行士は、地上に報告をしますね。

※「きぼう」は、
 国際宇宙ステーションに設置された
 日本実験棟の名称。
糸井
ええ。
油井
ただ、わたしたちも、
ずっと起きて作業をしているわけにも、
いきません。

そこで、ある時点で寝るんですが、
その間にも
地上がすごい勢いではたらいてくれて、
起きたら、解決策が届いていたり。
糸井
おお。
油井
そういうことは、よくありましたね。
糸井
想定外のことが起こるんですものね。
どんなに訓練を積んでいても。
油井
そうですね、生命に関わるようなことは、
もちろん起きませんが、
細かいことになりますけど‥‥
たとえば
ケーブルをつないだら雑音が多かった、
だったら
別のケーブルとつないでみようかとか。

でも、別のケーブルはどこにあるのか、
探そうと思っても
国際宇宙ステーションの中には、
さまざまな「部品」が何百万もあって。
糸井
何百万! そんなにですか。
油井
自分たちでは、どこに何があるかとか、
まったくわからないんです。
糸井
つまり、地上と宇宙との間には、
情報の交換が、日常的に、
絶えずなされているということですね。
油井
そうですね。宇宙の環境っていうのは、
すべてが「はじめてのチャレンジ」、
わたしたち人間が、
はじめてやることばかりなんです。

ですから、計算上はこうなったけれど、
実際にやってみると
思った結果にならなかった‥‥
そんなことは、絶えずあるんです。
糸井
そうなんでしょうねえ。
JAXA/NASA Photo by Kimiya Yui
油井
でも、想定していた結果が出ないことが
わかっただけで、
それは失敗じゃなく「成果」なんです。
糸井
なるほど。
油井
そういう成果をひとつひとつ積み重ねて、
一歩一歩、前に進んできた結果、
はじめてガガーリンさんが飛んだときの
単純な装置にくらべて、
現在は、6名の宇宙飛行士が住み続けて、
何百もの実験が行われている、
国際宇宙ステーションは、
そういった場所に、進化してきたんです。
糸井
宇宙ステーションが
最先端の技術の結晶である反面、
同時に、宇宙飛行士さんたちを見てると、
ユーモアを混ぜてきますよね。

Twitterなんかにしても。
油井
ええ、はい(笑)。
糸井
ぼく、ああいうのにすごくホッとします。
油井
やはり、四六時中緊張しているわけには
いきませんから、抜くところは必要です。
糸井
人間ですものねえ。
油井
あたりまえですけど、宇宙飛行士同士で、
くだらない冗談も言い合います。
糸井
前任の宇宙飛行士が隠しておいた何かが
見つかった‥‥みたいなのも。
油井
はい、次の人にメッセージを残してたり。
糸井
ふるいお寺の天井裏に、
宮大工の人の書いたものがあるのとかと、
同じような感じですよね。

そういう話を聞くと、
なんだか一気に親近感が湧いてくるなあ。
油井
あるときに、
地上から食料や生活物資を運んでくる
「こうのとり」という
日本の補給船の中の荷物に、
エンジニアの名前が書いてあったんです。
糸井
それ、きっと、うれしいでしょう。
油井
はい、非常にうれしかったです。

宇宙で仲間の存在を感じると言いますか、
一体感が増すと言いますか。
糸井
宇宙の仕事には関係ないという意味では、
「遊び」かもしれないけど。
油井
でも、そういう「遊び」のおかげで、
毎日の作業がスムーズになる気がします。

あの「遊び」がなかったら、
国際宇宙ステーションという場所は
もっともっと、つまらない場所になって、
成果が減ったり、
ミスが増えたり、
そういう可能性があるだろうと思います。
<つづきます>
2018-01-03-WED