2018 新春とくべつ対談! 油井亀美也宇宙飛行士+糸井重里 人間を信頼する、人間の仕事。 2018 新春とくべつ対談! 油井亀美也宇宙飛行士+糸井重里 人間を信頼する、人間の仕事。
JAXA/NASA Photo by Kimiya Yui
第2回 競争の中の「信頼」。
糸井
ぼくたちの会社の話になっちゃうんですが、
「夢に手足を」って言ってるんです。

翼でもなければ、力でもなく、「手足」と。
油井
なるほど、なるほど。
糸井
夢のままで終わってしまう人もいるけど、
本当に実現したいと考えていたら、
目の前にやることがあるはずだって思いで。

そのことを、
できるだけ実践しようとしいてるんですが、
いちどは宇宙飛行士をあきらめたけど、
できることをやりながら
ちょっとずつ前に進んでいった
油井さんの話を聞いて、似てるなと思って。
油井
やっぱり、一足飛びに、
翼を生やして飛んでいくことなんて、
できないですものね。

一歩一歩、進んでいくしかないです。
糸井
はい。
油井
わたしの名前には「亀」という文字が
入っています。
昔は「のろま」と言われたりしたんですが、
今は、すごく気に入っています。

と言いますのも、
夢というのは、一歩一歩進んでいくことで、
最終的に現実になる‥‥。
糸井
ええ。
油井
そういう実感が、わたしに、あるからです。
最近、よく思うのは、
世の中のスピード感がすごく早いですよね。

みんな、すぐに成果を求めたがるというか。
糸井
まったくそうですね。自分たちも含めて。
油井
英語の勉強ひとつにしても、
「何カ月で、こんなにも上達するんですよ」
といった売り文句がありますけど、
自分の経験からしても、
ひとつの言葉を身につけるのって、
時間もかかりますし、
やっぱり、すごくたいへんじゃないですか。
糸井
そうですよね。
油井
外国語というものは、一歩ずつ、一歩ずつ、
何年も続けていかなければ、
本当には自分のものにはならないわけです。

だから毎日、少しずつ手足を動かすことで、
一歩一歩近づいていけたらいいと思います。
糸井
それこそ、「亀さん」のように。

でも、宇宙というずっと遠いところの話を
しているはずなのに、
いつのまにか目の前の話に戻ってきますね。
油井
そうですね、はい。

NHKの番組でも話しましたが、
宇宙といっても、本当に目の前のこと‥‥、
たとえば「チームワーク」が大事だったり。
糸井
はい、とっても、おもしろかったです。

宇宙飛行士の人は、
アメリカやヨーロッパの人だけじゃなくて、
ロシアのクルーとも、
コミュニケーションする必要があって‥‥。
JAXA/NASA Photo by Kimiya Yui
油井
最初は、わたしも、
警戒したり緊張したりしていたんですが、
やっぱりロシアの人って、
宇宙開発の分野では経験値もあるし、
本当に慣れたもので、
わたしをあたたかく迎えてくれたんです。

すぐに、打ち解けることができました。
糸井
宇宙飛行士の試験を受けている間の
ドキュメンタリーも、
見させていただいたんですけど、
あれも、すごく、おもしろかったんです。

結局、宇宙の仕事って
コミュニケーションが欠かせないから、
ぜんぶが「人間の話」になるんですよね。
油井
そうかもしれません。
糸井
極端に言えば、宇宙の「宇」の字もなくて、
人間の話ばっかりしていた印象があります。
油井
はい、会社とかチームで仕事をする能力と、
宇宙飛行士の仕事は、
あんまり変わらないと思っています。
糸井
あの、チームでやる仕事には、
「競争」の要素と「協調や共感」の要素と、
両方があると思うんです。
油井
はい。
糸井
自分たちの会社のことで言うと、
わりと女性的なチームだと思っていて‥‥。
油井
あ、そうなんですか。
糸井
はい、男の子の場合って、
かけっこしたり、メンコで取りっこしたり、
どっちかというと「競争」ですよね。

でも、「ほぼ日」は、どちらかというと、
お手玉やらおままごとやら、
そういうことが好きな気がするんですよ。
油井
そうでしたか。
糸井
でも、どこか目に見えないところに‥‥
つまり、
「あこがれ」も「競争」だと思うんです。
「ああいう人に、なってみたい」という。

その意味で、両方の側の要素がなければ、
おもしろくないですよね、きっと。
油井
ええ、そのバランスは大事だと思います。
糸井
宇宙飛行士の訓練の場合には、
つまりは選抜試験ですから競争ですよね。

そのときの気持ちを
覚えていたら、教えていただけませんか。
油井
はい、試験なので、
やはり誰かに評価されているわけですが、
競争相手は
科学の研究者だったり、医師だったり、
一流の人たちばかりだったので、
自分をつくってもダメだと思ってました。
糸井
バレちゃうと。
油井
自分をしっかり見ていただいて、
それで判断してもらうしかないというのが、
はじめの数日で、わかったんです。
糸井
なるほど。
油井
そして、きっと誰が選ばれても、
同じように宇宙飛行士の訓練を積んでいけば、
誰でも、きちんと宇宙へ飛んで、
きちんと宇宙で仕事ができたと思います。

それくらい素晴らしい人たちだったので。
糸井
競争相手だけど、いいチームの話みたいです。
油井
そう、選抜試験が終わったときに思ったのは、
結果はどうなるかわからないけど、
受験できてよかった‥‥ということでした。

あれだけの人たちと友人になれたのは、
わたしの人生にとって、大きな財産ですから。
糸井
俺の代わりにお前が行く感じ、ですね。
傍から見ていると絆の強い同窓会みたいです。
油井
はい、そうかもしれないです。
糸井
究極的な競争の現場で、
そこまで思える信頼の関係性を築けることが、
すごくうらやましかったし、
素晴らしいなあと、思ったんですけど‥‥。

あれって「全員が一流だったから」ですよね。
油井
たしかに、ただの仲良しクラブではないので、
結果を出さなければなりません。

そういう意味では、各自が自分の仕事をして、
しっかり成果を出すことが大きな前提です。
そうしないと、
それだけでチームワークが乱れてしまいます。
糸井
その厳しさ、だからこその「信頼」だし、
絆のための絆じゃない、と。
油井
はい。
JAXA/NASA Photo by Kimiya Yui
<つづきます>
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