YOKOO LIFE ヨコオライフ

横尾忠則さんは過去の糸井重里との対談で、
「生活と芸術は切り離して考える」と
発言なさっていました。

芸術の達成を、人格や人生の達成とするのは、
勘違いである、と。

では「美術家・横尾忠則」の生活とはなんなのか?
糸井重里とのおしゃべりのなかに、
そのヒントが見えるかもしれません。

過去のふたりの打ち合わせと対話の音声を
いま掘り起こし、探っていきたいと思います。

▶︎横尾忠則さんプロフィール

第22回 長生きの価値。
横尾
勇気というのは、
単にうまくなるだけのことじゃないんだよ。
いまこの絵のネコの後ろにぼくがいるんです。
糸井
いまは顔のない「ぼく」ですね。
横尾
この絵はここまで描けてるわけ。
これからだんだんしあがっていって、
もしかしたらこれは
「目鼻はちょんちょんと点をつける程度で
いいじゃないか」
という勇気が出てくるとする。
その勇気があれば、この顔は点だけでできるわけです。
その勇気がなければ、もしかしたら
写真とそっくりに描いてしまうのかもしれない。
糸井
そうですね、
写実に逃げるという方法だってありますよね。
横尾
そうなの。それが問題なんだ。
「写実」みたいなものがなければいいんだけど、
それがあるから、
絵を描く人はそこから自由になれない。
糸井
写実をますますスーパーリアリズムにしてしまって、
いまはそっちの居心地がよくなってますね。
横尾
うん。日本全体に
スーパーリアリズム方面が流行ってるよね。
技術もすごいでしょ。
糸井
それはそれでそういう考えなんだと思うし、
「お客さん」もいるんでしょうね。
横尾
でもそれはあくまでひとつの「考え」だと
思ったほうがいいんです。
ぼくは子どものころ、写真を見ながら、
映画俳優の顔をよく描いていたんだけれども、
もう、写真か絵かわからないぐらいに描いてた。
「そういうふうに描きたい」という考えが
あるからそう描けたんです。
例えば石膏デッサンふうに描きたければ、
そうしようという考えがあればできます。
それがなければできない。
技術は必要なものだけれども、
技術からは自由になれなくなります。
ものすごい技術を身につけている状態だと、
やっぱりそれを自分で見たいし、
人にも見せたくなる。
糸井
そうすると、
技術をつきつめるしかなくなりますね。
横尾
絵にしても何にしても、
才能というのはやっぱり、
「そうしようという考え」によって
成っていくんじゃないかな。
それにね、才能ということでいえば、
スポーツでも芸術でも、ある種、
偏っていないとできないんじゃないかなと思う。
あのクリクリと回転する子‥‥。
糸井
白井健三選手。
横尾
そうそう、白井はそうだと思う。
糸井
スケートの浅田真央ちゃんにも感じますよ。
対局中の羽生善治さんにも。
横尾
うん。みんな、それとなくだけど、
じつは「自分がしたいことしかしない」という
タイプでしょう。
糸井
そうですね。
横尾
そら、妥協することもあるかもわかんないけど、
基本的には、やりたくないことはやらない。
やりたくないことをしない場合、
社会的には評価はされないよね。
糸井
その人にまだ力がない場合はそうですね。
横尾
たいていの人は評価されたいわけだよ。
まったく無名の人であっても、されたいわけでしょう。
しかし、ある程度社会的に認識された人であれば、
「自分はこうしたい」ということを
もっともっと求めていけるようになります。
ダメになるか、よくなるか、
そこで分かれていくんじゃないかなぁ。
糸井
なるほど。
横尾
世間の欲に左右されて
ダメになっていく人だっているわけだよ。
かといって、最初はやっぱり
欲を持ってないとダメだとも思う。
糸井
そうでないと、まずは
「やる理由」がなくなっちゃいますもんね。
横尾
そうね。
野心とか野望とか、
競争意識は持っていたほうがいい。
ただ、それをどれだけ吐き出せるかが問題です。
吐き出しさえすれば、
社会的に評価されるなんてことは関係なくなる。
そして、吐き出しきった人は、
ある意味偏った、
人から理解されないかもしれない場所に行く。
そこから先に、今度は
「どうでもいい」という世界が待っているんだよ。
そうなると、技術はもう、
関係なくなるじゃないですか。
糸井
うーん、そうですね。
横尾
なにかをあらわしたいと思っている間はダメなんだ。
「あらわれた」というのはいいけどさ。
これは難しいですよね、難しいけども、おもしろい。
糸井
聞いてるだけでおもしろいです。
横尾
だからね、ぼくは、
年齢的に長生きしないと損だと思う。
糸井
それは思います。
横尾
長生きすればするだけ、
自分が新しいゾーンに入っていくからね。
知らないゾーンに入ったときは、
いつも初心者になれます。
そんなね、かんたんに
「初心に戻れ」ったって戻れないですよ。
糸井
なのに、長生きするだけで
どんどん初心に。
横尾
そうそう。
誰だって、先は見えないんだから。
糸井
未来が見えないという意味では、
全員が新人ですね。
横尾
そらそうですね。
糸井
見えたつもりになってる人は山ほどいますが。
横尾
社会的に発言しなきゃいけない立場の人たちは、
「見えてます」というふうに見せかけるでしょう。
そうしてるうちに、だんだんその欺瞞性が
自分に乗っかって、
それとわかんなくなってしまう。
糸井
そうなったら気づけないでしょうね。
横尾
気づかないでしょうね。
だって、みんなが評価してくれるんだから。
それが真実だと思っちゃうよ。
(金曜日につづきます)
2018-02-28-WED