糸井

話を聞いててあらためて思うけど、
永ちゃんはわかんないことがあったら、
ほっとかないよね。

矢沢

かもしんない。
疑問が湧くたんびに訊いて、調べて。

糸井

うん。

矢沢

たとえばキャロルでデビューして、
ワー、キャー、言われて。
あこがれてたビートルズみたいに、
売れて、お客さんが来て。
でも、ちょっとしたら、あれ？　って思うわけ。
まあ、ぶっちゃけて言うと、
待遇とか、ギャラとか、ぜんぜんよくならない。
思ってたサクセスと、ちょっとこれ、
ズレてるなってことに気づくわけよ。

糸井

若いバンドマンなんかは、
デビューできただけでよろこんで、
ギャラとか関係なくやっちゃうけど‥‥。

矢沢

ダメダメダメ。
ぼくの場合は、なんでだろう、と思うわけ。
で、訊いたり、調べたりする。

糸井

やっぱり、もともと、永ちゃんは好きなんだね、
わかって、発見することが。

矢沢

好きなのかもしれないね。

糸井

だから、すっごく素直に人に訊くよね。

矢沢

そうね（笑）。
だから、分かれるんじゃないかな。
何が分かれるかっていったら、
それをおかしいと思いながらも、
「でも、こういうものじゃないの？」
ってことで、そのまんま行く人と、
「おかしいから、おかしいんだよ」
と言う人に分かれるんじゃないかな。

糸井

そうだね。

矢沢

でも、おかしいことを「おかしい」と言うと、
何かとたいへんだけどね。
そこから前に進めなくなる場合もある。

糸井

あと、苦手なことも手を出さなきゃならない。

矢沢

そういうこと。
苦手なこと、めんどくさいことも
抱えなきゃいけなくなる。
だからこそね、さっきも言ったけど、
21年前、イトイが、イトイ新聞を立ち上げて、
自分の発信する場所をつくるんだって言ったとき、
「やった！」と思ったね。
まさにそういうことをイトイが
自分で引き受けることにしたってことだから。

糸井

ああ、そうか（笑）。

矢沢

だからね、ぼくにとってはね、
イトイがこういう場所をつくったっていうのは
もう、キラキラしてる話なの。

糸井

（笑）

矢沢

キラキラしてる話。
だって、かっこよかったんだよ。
あ、もちろん、いまも、かっこいいんだよ？

一同

（笑）

糸井

ははははは。

矢沢

その、「立ち上げる」って言ったときの気持ち？
ほんとキラキラしてたよね。

糸井

あれが、だから、49歳のときだからね。

矢沢

49歳、立ち上げる、いいじゃない。
もう、あれよ、ここで行かなきゃいつ行く？
っていうとき、あるじゃない。

糸井

それはさ、いまふたりでいるから、
無理して言うわけじゃなくて、
永ちゃんの影響受けてるよ、やっぱり。

矢沢

ふーん。

糸井

自分の根っこにあるからね。
あの、矢沢永吉の半生をまとめた
『成りあがり』という本には、
あとがきっていうのがあって、
ふつう、あとがきって本人が書くものなんだけど、
あの本のあとがきはなぜか俺が書いてる。

一同

（笑）

矢沢

はっはっはっは。

糸井

いま思うと変な話だけど。

矢沢

いや、ぜんぜん変じゃないよ。
だって、あの本自体、
ぜんぶ、糸井が書いてんだから！

一同

（笑）

糸井

まぁ、語ったのは永ちゃんだけど、
手を動かしてつくったのはね。

矢沢

それは、のちにちゃんと言ってるけどね。
あらためて、この場ではっきり言うけど、
あれは永ちゃんが書いたんじゃなくて、
糸井重里が書いた本だよ。

糸井

まぁ、そうだよ。
最初から言ってるよね（笑）。

矢沢

言ってないものも多いじゃない？
芸能人が書いた本ってさ。

一同

（笑）

矢沢

だけど、「糸井重里」っていう名前は、
あの本で一躍世に出たんだよ。

糸井

誰これ、みたいな（笑）。

矢沢

あのときは無名だった糸井重里。

糸井

そういうぼくがなぜか
永ちゃんの本のあとがきを書いてるんだけど、
ものすごく熱いのよ、書き方が。
つまり、ふだんの自分じゃない
みたいになってるわけ。
いま読んでも、どうしてこんなに
熱くなってるのっていう感じで、
自分が書いた文章に思えないんだけど、
でも、ときどき、
すごく重要な決断をするときには、
あそこに自分が行くのよ。

矢沢

ふーん。

糸井

やっぱりね、いくつになっても、
負けちゃいけないときとかさ、
あるじゃない、やっぱり。

矢沢

ある。

糸井

若いころ、あの仕事をやって、
あのあとがきを書いたときの気持ちっていうのは、
自分のなかに残ってるんだよ。