糸井 永ちゃんが何十枚もアルバムを出せたり、
2000回のライブを休まずできたりする秘密は
やっぱり、プロデューサーが
自分だったっていうことだと思うんだよ。
たとえば、仕事入れすぎてたら、
どっかに穴開けちゃったと思う。
でも、矢沢っていうプロデューサーが
「矢沢にそんなに仕事させるな」って言って、
これぐらいなら、ちょっと無理すれば
できるだろうって組んでいった。
だから、いまの矢沢があるんじゃないかな。
矢沢 まぁ、ねぇ。
でも、けっこうハードだったよ(笑)。
糸井 いや、ハードなのはわかってるけど(笑)。
それにしても、たとえば旬のアイドルみたいに
「寝てないんです」みたいなことは
しないでやってたわけで。
矢沢 あ、それは、ないねぇ。
糸井 プロデューサー矢沢は、
アーティスト矢沢にそんなことさせるなって
ぎりぎりのところを組んでるんだよ。
酒飲む時間はつくっておいたり。
矢沢 そら、そうだ。
酒飲む時間なかったら、もたないっすよ。
ふふん。
糸井 (笑)
で、街から街へたいへんですよ、って言ってるけど、
「そこまでは、お前、やれよ」って
プロデューサー矢沢が最初に言ってる。
矢沢 あー、なるほどね。
糸井 あと、いまって、アーティストが
きちんとアルバムをつくることが
すごくたいへんになってる。
でも、永ちゃんの場合は、
スタジオつくってあったじゃない。
あれも、プロデューサー矢沢のおかげだよね。
矢沢 あー、そうなのかな。
糸井 だって、きちんとスタジオにこもって、
ミュージシャン雇って録音するのが
みんな、なかなかできなくなってるからね。
矢沢 どうなっちゃってんの。
糸井 レコード会社がお金出してくれる時代じゃないから
こんなスタジオで自由に録音するのは
そうとうたいへんなんだと思うよ。
でも、永ちゃんの場合は、ありがたいプロデューサーが
これをつくってくれてたわけで。
矢沢 あっはっはっは。
糸井 で、そういうことって、
最初からぜんぶわかってたわけじゃないじゃん。
矢沢 そうなのよ。
糸井 アーティストが録音できない時代が来るぞ、
って先読みしてここをつくってたわけじゃないでしょ。
矢沢 こうやって、こうやってって、
やってるうちに、重なっていっちゃったんだよね。
糸井 必要なことを積み上げてるうちに。
矢沢 そう。あと、あれが要る、あれも要るな、って。
糸井 おもしろいねぇ(笑)。
矢沢 あれもいる。これもほしい。
やっとかなきゃ、やっとかなきゃって
やってるうちに、こうなった。
だから、最初から読めてたわけじゃないよね。
糸井 なんだろうねぇ。
読めてないっていうけども、
他の人だって同じように読めてないわけだから、
やったか、やらないかの違いが出るわけで。
矢沢 強いて言えば、あれじゃない、
みんながうっすらと思うけど
なかなかやるというところまでいかないのを、
矢沢、やっちゃうんじゃない?
矢沢、タッタカタッタカタッタカやっちゃう。
糸井 自分で決められるっていうのがあるよね、ひとつ。
矢沢 うん、自分で決められるっていうのもあるし、
たぶん、ぼくは、あのー‥‥
形がほしいんだろうね。
糸井 へぇー。
矢沢 形がほしいのよ。
糸井 ‥‥はじめて聞いた。
矢沢 形がほしいから、
形を先に押さえちゃうというのかな。
スタジオとかもさ。
糸井 たしかにそうだ。
矢沢 そうなのよ。
スタジオとか、ナニとか、カニとか、
倉庫とか。
糸井 そうだ。
矢沢 だから、はっきり、形を持っちゃうじゃん。
別荘とか。屋敷とか。
糸井 ほんとだ。
ふわふわしたところで、
何回もその話してる、みたいなことってないよね。
矢沢 ないね。
だから、ぼくはひょっとしたら、
理想だけとか、話の上だけとか、
っていうのはダメなんだね。
はっきりした形がほしい。形がほしいんだね。
そのくせあれだよ。
このあいだ、お金の話を糸井としたでしょ。
糸井 うん。イベントでね。
矢沢 あのときにも話したけど、
矢沢、生きてるうちで、そんなたくさんのものは、
要らないんだってこともわかってる。
あの世には、なんにも持っていけないんだ
ってことは、もう気づいた。
糸井 うん。
矢沢 あの世に、死ぬときに、なんにも持っていけない。
生まれたとき、裸で生まれて、
裸で逝っちゃう、ひとりで逝くんだってこと、
知ってるの。
糸井 うんうん。
矢沢 それで、そんないっぱいの物がなくても、
ポイントのものさえあれば、人は生きていけるの。
これはもうわかってたうえで
「形がほしいんだ」って言うから、
これがおもしろいんだよ。
糸井 ああー、そうだね。
矢沢 だから、スタジオ建てたりしてるけど、
これ、うちの新人アーティストは使えるわけだからね。
糸井 ああー。残していく意味のあるものだ。
矢沢 うちに所属したアーティストは
けっこうラッキーなんじゃない?
ここ、自由に使えるし、
練習もレコーディングもできるんだから。
糸井 うん。
矢沢 だから、そういった意味じゃ、
ぼくが、形で残したものっていうものは、
いろんな形で貢献できるよね。
糸井 できるね。
矢沢 これからのロック、若い連中たちが、
なんかのことでうちと関わりもったら、
練習もできる。レコーディングもできる。
もっと言えば、ツアーもできる。
糸井 そうだね。イベント会社も形としてつくってるから。
その仕組みもあるんだもんね。
矢沢 その仕組みも、全部持ってる。
だから、いいことよ。
で、本人は、生きていくのに
そんなにいっぱいのものは要らないって思ってる。
糸井 うん。
だから、音楽やっていくのに、
このスタジオがなかったら困るなっていうことで、
楽器1本が必要なのと同じ意味で
つくってるわけだよね。
矢沢 そういうことです。


(つづきます)





2012-08-13-MON

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