矢沢 デビューから40年経つのに、
まだ約2時間のライブをやってるけど、
お客さんにとっては、
そこにいる人が何歳だろうが、
デビュー何周年だろうが関係ないからね。
永ちゃんが62歳だろうが、30歳だろうが、
「いいから、俺たち、いかせてよ」
っていうのは変わらないから。
糸井 また、永ちゃんは永ちゃんで、
お客さんに合わせてやってるわけじゃないしね。
客席から見てるとさ、
ステージでほんとにノッてるときって、
誰のためにやってるんじゃなくって、
自分のためにやってるって感じがするもの。
矢沢 あーー(笑)。
糸井 ときどきさぁ、永ちゃんが勝手に泣くじゃない。
なに? それは? って思うけどさ。
つまり、お客と関係なく、勝手に
なんかを思ってるわけでしょ。
だから、お客はアレを見て、
「あ、永ちゃん、いっちゃったよ」って(笑)。
あれ、自分だよね、対象は完全に。
矢沢 ひょっとしたら、
そういうふうな動きができてるときが
いちばんいいのかもしれないね。
自分のために、演じてるような、歌ってるような、
そういう動きが出てきた瞬間が、
最高にかっこいいんじゃないかな。
糸井 そりゃもう、そうだよ。
見てるほうは、それを見に行ってる
みたいなところあるから。
矢沢 うん。
それが出たときには一等賞だよね。
糸井 うん。
矢沢 だから、新しいアルバムの話に戻るけども、
そういうところが今回のアルバムにもある。
俺がうれしくなるから、
このアルバムができた、みたいな。
糸井 うん、そうそうそうそう。
矢沢 聴きたかったら買って聴いてね、みたいな。
そういうところに行けたら最高だね。
糸井 いや、もともとそういう世界で
やってた人だから、永ちゃんは。
だから、今回はアルバムに
『Last Song』なんてつけちゃったおかげで
より自由になったんじゃない?
矢沢 ああー、そうかもね。
糸井 もう、「Last」って言っちゃったんだから、
もしも最後だとしたら
勝手にさせてくれよ、みたいな。
矢沢 あ、でもね、つくるときは、
そういう気持ちもないことはなかったですよ。
糸井 ああ、そう。
矢沢 それはね、おセンチに
『Last Song』っていうタイトルなんだから、
というんじゃなくてね、
シンプルにね、あー、32枚目のアルバムだ、とか、
俺、デビューから40年だよ、とか、
まぁ、新しい名前のついた扉
けっこう、俺、けっぱぐったし、みたいな。
糸井 うん。
矢沢 まぁ、はっきり言って、
新しい扉は、そうとう開けてきましたよ。
だから、もういいんじゃない、これで? みたいな。
スティル・ロックシンガーで、
俺が日産スタジアムでやるって言ったら
みんなチケット買ってくれて、
こんなしあわせなことはないよ。
というときにね、アルバム? 
アルバムはエネルギーいるよ。
6ヵ月も、7ヵ月も、スタジオこもって
疲れるんだよ、もう、かったるいから、
アルバムなんてしばらく見たくもないね、
って、ほんとに思ってるんだから。
しばらく関わりたくもないよ。
で、ヘタしたら、ずっと関わらなくなって、
ほんとに本人がもういいじゃん、と思ったら、
それはそれで、つくらなくてもいいんじゃない?
というところも、なくはない。
糸井 うん。
矢沢 でもね、俺、自分に言うわけ。
「おまえの好きにやれば」って。
「やるも、やめるも、好きにすれば。
 それで、またさ、おまえのことだから‥‥」
糸井 「おまえ」って自分ね(笑)。
矢沢 自分に言ってるの(笑)。
おまえのことだから、
アルバムはしばらくお休みするっていっても、
武道館の最終日みたいなもんだろ? って。
糸井 つまり、もうやりたくないと
さんざん言ってたくせに。
矢沢 そう。
武道館の最終日なんてね、
もう、いつものスタンドマイクをぱっと見てね、
「おまえの顔、しばらく見ないと思ったら、
 せいせいするよ」
みたいな感じでやってますからね。
最後だ、みたいな。
ほいで、終わった、サンキューってなったら、
こいつ(スタンドマイク)としばらく会わなくて済む。
糸井 正月だ、みたいな。
矢沢 「バァーイ!」みたいな感じ。
それでまぁ、2月、3月、4月ぐらいになったら、
あいつ、元気してるのかな、って思っちゃうのね。
糸井 「あいつ」(笑)。
矢沢 あいつ。
で、5月ぐらいになんかで会うじゃない。
ぱっと、テレビ番組かなんかで、
歌わなきゃいけないってとき、
パッと(スタンドマイクを握る仕草)
‥‥これだよな、これ。
これだよ、これ。
こうこうこうこう、こういう感じ。
もう、スクっとくるもんね。
クッと握ったときの、ヒタっとキマる感じ。
糸井 うらやましいね、それは(笑)。
矢沢 うん。
あ、スタート、きた、これだよな、
角度決まってるんだもん、
斜め何十度角度みたいなさ、
それで、あ、やっぱステージはいいよなぁ、
と思っちゃうのね。
だから、この、アルバムもそうだと思う。
しばらくつくらないつもりだけど、
1年ぐらい期間を空けたら、
メロディーもまたぼんぼん湧くだろうし。
そして、いても立ってもいられなくなったら、
またつくればいいんだし。
糸井 うん、うん。
矢沢 だけど、まぁ、『Last Song』にするのも、
いんじゃないッスか、っていうとこもある。
まぁ、そんな、62歳。40周年。
だって、糸井さ、俺‥‥
けっこう真面目で走ったじゃない?
糸井 そう、くそ真面目だった。
矢沢 ねぇ、くそ真面目に走ってきたから
まぁ、しばらく、いんじゃないすか。
糸井 いや、あの、終わりっていうのを聞いたとき、
みんな、なんか思ったと思うけど、
「本人が言うんだったらいいんじゃない?」
って思う人は多かったと思うよ。
「やめないでください」って
ふつうは言うじゃない?
だけど、永ちゃんだからなぁ。
本人が言うんだったら、いいんじゃない? みたいな。
お客さんとの関係、そうなってるよね。
矢沢 そうだね。それは、うれしいねぇ。


(つづきます)





2012-08-10-FRI

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