やっぱり正直者で行こう! 山岸俊男先生のおもしろ社会心理学講義。
糸井重里が「ほぼ日の母」と呼ぶ本があります。 1998年に出版された『信頼の構造』です。 この本を書いた北海道大学の山岸俊男先生が、 新しい著書を出されました。 タイトルは『日本の「安全」はなぜ、消えたのか』。 これが、またしても、おもしろかった! その、おもしろかったことを口実に、 先生にご足労いただき、いろいろ話をうかがいました。 「信頼」を得るには、やっぱり「正直」。 「武士道」や「品格」が、なぜダメなのか。 せっかくなので、われら乗組員こぞって聴講生に。 社会心理学って‥‥おもしろそうです、先生!
山岸俊男先生のプロフィール

第1回 正直は最大の戦略である
糸井 えー、山岸俊男先生です。
会場 (拍手)
山岸 こんにちは。
糸井 今日はギャラリーといいますか‥‥
聴講生がいるんです。

ま、うちの社員なんですけど(笑)。
山岸 ええ、慣れてますから。
糸井 あ、そうか(笑)。
山岸 よろしくお願いします。
糸井 ええと、お会いするのは何年ぶりでしょう。
3年‥‥4年ぶり、くらいかなぁ。
山岸 そのくらい経ちますかね。
糸井 その間、先生の根本的なテーマは
変わっていないと思うんですが‥‥。
山岸 ええ。
糸井 「信頼」。
山岸 はい。
糸井 ぼく、梅棹忠夫さんという学者の書かれた
『情報の文明学』という本が
「ほぼ日刊イトイ新聞」の「父」だと
思っているんですね。
山岸 ええ、ええ。
糸井 情報が社会をかたちづくる時代の到来を
1960年代の段階で、予言的に書いた本。
山岸 そうですね。
糸井 で、山岸先生の書かれた『信頼の構造』
「ほぼ日」の「母」だと思っていて。

‥‥勝手に(笑)。
山岸 いや、うれしいです(笑)。
糸井 その『信頼の構造』という本は
その次の『安心社会から信頼社会へ』ともども、
「ほぼ日」というちっちゃな船に乗り込んで
大海へ漕ぎだそうとしていたときに
読んだんですけど‥‥もうびっくりしまして。
山岸 はい。
糸井 あの本のなかで言われていることを
こころに留めておいたら、
自分たちのとるべき戦略だとか、
ルールのつくりかただとか‥‥
いろんなことが
だいぶ変わるだろうと思ったんです。 
山岸 そうですか。
糸井 で、実際、そういうふうにやってきて、
つくづく「よかったなぁ」と思ってるんですよ。
山岸 そう言っていただけると、うれしいですね。
糸井 何度か「ほぼ日」でも話していただいてますが、
正直は最大の戦略である‥‥と。
山岸 ええ、あの2冊を書きあげた時点から
かなり時間が経ってますけど、
いまでも
社会の構造は変わってないと思います。
糸井 うん、うん。
山岸 つまり「人を信頼する」ということが、
日本では
「互いの関係を強くすること」としてしか
捉えられていないんですよ。
糸井 それ以外の「信頼」もあると。
山岸 ええ、信頼というものには
「関係を広げていく」というかたちも
あるんだってことが、
世のなかの常識として根付いてない。
糸井 そういう問題意識って
外国で研究されていたときに、生まれたんですか?
山岸 そうですね。アメリカで暮らしていると、
まずは「受け入れて」、
それから「どうしようか」と考えるんです。
糸井 隣人を。
山岸 日本だと最初に「選ぶ」ところから入るでしょ。
糸井 ええ。誰かとつき合うかどうかについて。
山岸 この差は「信頼とは何か」を考えるうえでも
かなり大きいだろうな、とは思ってましたね。
糸井 大統領選挙のニュースなんかを見てると、
情勢によって敵味方の陣営が
くるくる入れ変わったりしてますよね。
山岸 はい。
糸井 「おまえとは一生、握手しないぞ」って
はじめから、決めつけてないというか‥‥。
山岸 そうですね。

最終的に、
もともとの敵と握手することになるなんて、
ふつうにありますから。
糸井 ああいう関係性って、たしかに
ぼくら日本人からすると、新鮮ですよね。
山岸 いちばん極端な例が、ローマ帝国でしょう。
糸井 ほう。
山岸 敵対する国を次々と支配下に取り込んで
大きくなっていきましたよね。
糸井 ええ、ええ。
山岸 つまり、かつて敵味方の関係にあったとしても、
いちど仲間になったら「信頼」するんです、彼らは。
糸井 なるほど‥‥。
山岸 このことの説明のしかたとして
よく「宗教のちがい」が持ち出されますが。
糸井 キリスト教的な一神教と、アジアの多神教。
山岸 たぶんそれは、ないだろうと。
糸井 先生のお考えでは。
山岸 どうしてかというと、
ローマ帝国は多神教だったんです。
糸井 はぁ‥‥。
山岸 多神教であっても、
開かれた関係のつくりかたをしてる。
糸井 それじゃあ、何がちがうんでしょう。
山岸 戦略でしょうね。
生きていくうえでの戦略のちがい。
糸井 その「戦略」という言葉は、
先生の著作のなかでも
折に触れて出てくるキーワードですね。
山岸 つまり、
日本では握手のまえに「選ぶ」ほうが
生きやすかった。
糸井 逆にアメリカでは、
まず握手しちゃうほうが、生きやすかった。
山岸 そういうことです。

<つづきます>
2009-01-12-MON




著者:山岸 俊男
発行:集英社インターナショナル
価格:¥ 1,680 (税込)
ISBN-13:978-4797671728


昨年(2008年)の2月に刊行されて以降、
版を重ねる山岸先生の最新刊。
先生の研究の「集大成」とも言える内容ですが、
学術書ではなく、あくまで一般書なので、
くわしいことは知らなくても、
肩の力を抜いて、一気に読めてしまいます。

ぼくの気持ちに「ぴたっ」!ときまして
ひざを打ちすぎて痛くなっちゃうくらの納得の本です。
「武士道」だの「品格」だのが、どうしてダメなのか。
説得力のある論を提出してくれてます。
                  (糸井重里)

※2008年11月17日の「今日のダーリン」より抜粋

‥‥と、糸井重里もたいへん感銘を受け、
そのことがきっかけで、
今回の公開対談も、実現したのでした。






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