やっぱり正直者で行こう! 山岸俊男先生のおもしろ社会心理学講義。

第6回 ウソとサギ師
糸井 先生の「正直は最大の戦略である」というお話は
ある意味「ほぼ日」の指針となっているんですが。
山岸 ええ。
糸井 これって、反対側からいうと、
「人はウソをつくものだ」という人間理解でも
あるわけじゃないですか。
山岸 ええ、そうですね。
糸井 お話していて、ふと思ったんですが、
ウソって、心理学的な見地からしたら、
じつは、ずいぶん複雑というか
難しいことなんじゃないでしょうか?
山岸 でしょうね。
糸井 このあいだ、亡くなっちゃいましたけど、
三浦和義という人が、
「ウソ発見器」に
まったく引っかからなかったんですって。
山岸 ほう、そうですか。
糸井 実際、ウソをついていたんだとしたら、
すごいことですよね、それは。
山岸 演技してたってことですからね。
糸井 でも、ウソとは意識しないウソなら、
だれでも日常的についてると思うんです。
山岸 はい。
糸井 たとえば、人の家でごちそうしてもらったとき、
こう‥‥「ん?」ってこと、あるでしょう。

それでも「おいしいですねぇ」と、言いますよね。
山岸 ああ、でもそれは、難しいですけど(笑)。
糸井 その「おいしいですねぇ」の
ちょっとした抑揚で‥‥バレちゃいますからね(笑)。
山岸 わたし、アメリカにいたときには、
よく「interesting」って言ってました。
糸井 え、「興味深い味」と?
山岸 けっして「おいしい」とは言ってないから、
ウソはついてません。
糸井 たしかにそうですが。
山岸 でも「まずい」とも言ってないわけですよ。

あくまで「interesting」ですから、
非常にユニークで興味深い味ですね‥‥と。
糸井 でも、言外に「おいしくはない」と
言っていますよ、それは‥‥。
山岸 んー‥‥それはね、バレてるんでしょうけど。

まぁ、そうだとしてもですよ、
「お宅のお料理がマズいだなんて、
 わたし、面と向かって言う気はないです」と
伝えているつもりなんです。
糸井 ‥‥先生、それは、かなり激しい発言です。
会場 (笑)
山岸 あ、そうですか。
糸井 あの、一般的に言いますとですよ、
赤ん坊を見たときに、
「かわいい」以外の褒め言葉って、
「見ためはかわいくない」という意味にとられても
いたしかたないといいますか。
山岸 「interesting」じゃダメですか。
糸井 ダメです。
会場 (笑)
山岸 なるほど‥‥それじゃあ
今までずいぶん失敗してますね、わたし。
糸井 山岸先生に、意外な落とし穴が(笑)。
山岸 わたし、そういう方面は
あんまり得意じゃないみたいです。
糸井 どうも、そのよう‥‥ですね(笑)。
山岸 でもね‥‥これ、おもしろい実験があるんですよ。
糸井 たいがい実験してますねぇ(笑)。
山岸 最近、よくやっている実験のひとつなんですが、
利己的な行動をとった人間と
利他的な行動をとった人間を
見分けることができるか‥‥というのがあって。
糸井 へぇ。
山岸 結論からいうと、これ、見分けられるんです。
糸井 え、どうやって、ですか?
山岸 その人がしゃべってる写真を撮っておいて、
利己的な行動をとった人でしょうか、
利他的な行動をとった人でしょうかと聞くと‥‥。
糸井 うわー、わかるのかぁ、それで。
山岸 けっこう、当たるんですよ、これが。
糸井 ちょっと話がズレちゃうかもしれないんですけど、
あれは‥‥歌舞伎の坂東三津五郎さんだったかな、
テレビ番組でお会いしたときに、
ご自身の芸能について
「型で表現するんだ」と言ってたんですね。
山岸 ええ。
糸井 西洋の演劇の場合は、
「こころの内面をどう表現するか」なのかも
しれないけれど、
「わたくしたちは、そうじゃない」と。

「型でやるんだ」と。
山岸 ほう、ほう。
糸井 ですから、「たとえばね」っていったら、
もう、すぐにできるんです。

なにしろ「型」ですから。

「わたくしがお墓参りに行ったとしたら、
 こう、拝むでしょう」って
演技をしてくださったんですが‥‥。
山岸 はい。
糸井 その姿が、つくづく「拝んでる」んです。
山岸 ほおー‥‥。
糸井 「じゃあこんどは、
 悲しみを表現してみましょう」と言って
「こうなふうにね‥‥」という姿が
もうね‥‥みごとに「悲しんでる」んです。
山岸 うん、うん。
糸井 もう、その演技にKOされまして。

日本的な「型」というもののすごさに
そのときに、気づかされたと言いますか。
山岸 歌舞伎役者さんとか俳優さん以外でも
そういうのが、すごくうまい人、
知ってますよ、わたし。
糸井 へぇ、それは‥‥?
山岸 サギ師。
糸井 は?
山岸 うまい。サギの人たちは、うまいです。
糸井 ああ‥‥「サギの人たち」って(笑)。
山岸 ふつう、われわれが
他人の感情を理解したいなと思ったときに
いちばんコストがかからないのは、
「自分がその立場だったら」と
こころのなかでシミュレートする方法。

これが、いちばん効率がいいんです。

でも、その一方で、この方法だと
自分のなかの感情を波打たせてしまうので、
相手がかわいそうになってしまって、
悪いことをできなくなってしまうんですよ。
糸井 なるほど‥‥だますには向いてないのか。
山岸 そこで、サギ師の場合は「型」なんです。
糸井 つまり、こころごと動かそうとすると、
かえってうまくいかないんですね、サギの場合。
山岸 逆に「型」どおりにやれば、
自分のなかの感情が波打ちませんから、
相手を悲しませるようなことも
平気でできる‥‥だいぶ話がズレましたが。
糸井 いや、おもしろいからいいです(笑)。


<つづきます>
2009-01-19-MON




(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN