評判の構造を探る。
山岸俊男さんの、あたらしい実験。
「前に話してたあの実験が、実現しそうですよ」
アメリカで長く研究生活を送っていた
山岸さんから、久しぶりにメールが届いた。

インターネットでの参加型実験だって言うし、
なんだかとてもおもしろそうなので、
サササッとお会いして、内容を伺ってみました。

<新実験、はじめました>


みなさん、こんにちは!

2年前のほぼ日「信頼の時代を語る」に登場の
『社会的ジレンマ』(PHP新書)著者・山岸俊男さん。

その山岸さんが、おとといから、WEB上で
公開実験をしはじめたことを、ごぞんじですか?

参加すると、実力に応じて賞金も出るという実験。
どうやら、ほぼ日読者のみなさんも
よろこびそうな、参加型の実験らしいのです。

そこで、山岸さんご本人のクチから、
「いま、何をどう考えて、この実験をはじめたよ」
ということを、伺うことにいたしました。

気軽に、読んでみてくださいね!





ほぼ日 おひさしぶりです!
山岸 おひさしぶりです。
おととし、糸井さんと対談をした際に
チラッと話した「ネット上での信頼の実験」が、
ついに実行できそうなんですよ。

ほぼ日 たのしみにしてたんです。

その資料を読みましたら、
インターネットオークションのような所で、
信頼関係が、どう築かれるかについてのようですね。

山岸 ええ。

「売り手は、商品について
 充分な情報を持っているけど、
 買い手は、商品について
 限られた情報しか得られない社会」
での信頼のありかたを、
ここのところ、研究しています。

今のネットオークションのような場での
信用問題って、11世紀の地中海貿易に活躍した
マグリビ商人たちの抱えた問題に、似ているんですよ。

・・・あ、このへん、
いきなり説明になっちゃって、いいですか?

ほぼ日 はい。
それをうかがいに来たので、大歓迎です(笑)。

山岸 マグリビ商人というのは、
11世紀の地中海貿易を取りしきっていた
ユダヤ人グループのことです。
本拠はエジプトのカイロにあったのですが、
地中海全般に代理人を飛ばして商売をしていた。

そうすると・・・その頃、商品を作るのは
遠くにいる人が、しかも代理人を通してですから、
相手が何をやっているのかもわからなかったんです。

商品に対する情報を、
買い手にほとんど与えられていない状態ですから、
不正直な商売をしようと思えば、いくらでもできた。
その時、どうやって、不正直な商売を
起こらないようにさせるかと言いますと・・・。

ほぼ日 どうしたんですか?
山岸 当時は、要するに集団を閉じてしまったんです。
マグリビ商人たちは、自分たちの
決められたグループのみでしか商売をしない。

その間で評判をまわしていきますから、
「悪さをするヤツは追放する」というかたちで、
うまくいっていた・・・これが従来の社会での
評判のありかた、といっていいでしょう。

ネット市場での商品って、写真とかが
わずかに載っている場合もありますけれど、
ほとんどの場合、その商品についての情報を
買う側は、知らされていないじゃないですか。

そこが、マグリビ商人たちと同じ問題を
持っているところなんですけど。

しかし、マグリビ商人たちと
インターネット市場とが違うのは、
商売をする集団を閉じることができないですよね?
ネット市場を閉じてしまったら、
インターネットじゃなくなってしまうわけで、
追放してしまうことができなくなる。
じゃあ、不正直な商売がまかりとおるのか?

でも、実際のネット市場は成立しているし、
どうやら、評判もちゃんと効いているようです。
それは、なぜなんだろう?


そこから、研究が、はじまりました。
この問題を、実験で調べてみたかったんです。

少人数の実験をおこなってみました。
「ネットオークションにおいては、
 ウソをついたほうがトクか?
 正直なほうがトクか?」というものですけど。

名前を変えられない市場では、
正直なほうがトクするという結果が出ました。
しかし、ネット市場では、現実に、
いくらでも名前を変えられますよね?

その要素を実験に入れると・・・。
確かに、市場の品質は、ずいぶん落ちてきます。
しかも、一見、
「不正直なほうがトク」という結果なんです。
それって、イヤな世の中でしょう?
そのままだと。

ほぼ日 (笑)ええ。イヤですね。
「わたし、またダマされたよ!」とか。

山岸 うん。
だからね、
「世の中悪くなる一方なの?」
っていうことになるんですけれども・・・

だけれども、じゃあ、
評判や信頼は姿を消すのかというと、
今のところ調べた限りでは、現実の世界でも、
何らかの評判が効いているのです。

それは、何だろうか?
不正直じゃないほうがうまくいく、
という場合は、どのような時なのだろうか?

それを、たくさんの人が参加する実験で
一緒に探っていけば、
これからのネット社会のような市場での
信頼や評判のかたちが、わかるのではないか?

・・・そんな風に、考えております。

じつはぼくらの研究チームは、
いままでと違う評判の仕組みがある、
ということに気づきはじめているのですが、
その仮説を、今回の実験で検証できるか。
それも、たのしみにしています。

ほぼ日 ふーん。
少人数での結果をふまえたり、
すでに仮説を立てたうえで、
実験にのぞんでいるんですか。

実験がおわったら、
その仮説、教えてくださいね。

山岸 ええ。

いまは、まずみなさんに、
実験に参加していただきたいと思ってます。

これ以上の詳しい内容をいまお話してしまうと、
実験に差し支えがでてしまうかもしれません。
だから、まだあまり詳しい話はできないんです。
すみません!

だけど、ちょっとだけお話すると、
実験ではいくつかの市場が用意されていて、
かならずしも「正直者が得をする」とは
かぎらないようになっているんですよ。

どんなときに正直者が馬鹿をみて、
どんなときに正直者が得をするのかを
調べたいと思っています。

もしよかったら、
こちらのページ(クリックしてね)での
実験に、参加してみてください。

民間の研究所(NTT)と組んでやっておりますので、
守秘義務などがあり、
確実なお約束はできないのですが、
今後、この実験の結果を、
ぜひ、ほぼ日で話せるといいなぁと思っています。

ほぼ日 たのしみです!


(※山岸さんのチームが考えている実験を、紹介しました!
  もしかしたら、あと数回、つづくかもしれません)

山岸俊男さんへの激励や感想などは、
メールの表題に「山岸俊男さんへ」と書いて
postman@1101.comに送ってください。

2002-08-22-THU

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