ほぼ日刊イトイ新聞が、
Web of the Year 2003にノミネートされました。

めざすなら
めざしてしまえ、第1位!
Web of the Year2003。
つまりそれは、あなたが選ぶホームページ大賞。
Yahoo! Internet Guide が主催するこのイベントに、
ほぼ日刊イトイ新聞がノミネートされました。
ここはひとつ、ねらってみるのはどうだろう?
なにを? もちろん、第1位を!

「あなたが選ぶホームページ大賞」に投票してください!
人の方に
投票いただきました!
※2003年11月24日午前6時で集計。

解説 投票のやり方
第1回 本気で1位をねらう宣言。
第2回 援軍、続々と到着!
第3回 無理矢理出口調査?!
第4回 待ち受けるライバルたち
第5回 縁起はいいようだが、強敵ぞろい。
第6回 そ、そんなに必要ですか。
第7回 押した人も押せない人も。
第8回 ポチッとボタンの意外な魅力。
第9回 新・ポチッと押すとピコッと増えるボタン!
第10回 さらなる進化! ポチッと押すとなにが出る?!
第11回 最終兵器登場! さあ来い!
第12回 お祭りの終わった日に。
第13回 Web of the Year 2003 授賞式
     〜ハードボイルド風・前編〜

第14回 
Web of the Year 2003 授賞式
〜ハードボイルド風・後編〜


※前編はこちらからどうぞ



耳障りなサイレンが今日も窓の外で鳴っている。
俺は魚籃坂のオフィスで原稿を書いている。
ワシントンからあがってきた
マーケティングレポートを
今日中に翻訳しなくてはならない。
それにしてもスペルがめちゃくちゃだ。
ワシントン支局には英語がわかるやつがいないのか?

俺は英和辞書を放り出し、
壁にかかったデジタル時計を
──今日28回目くらいになるが──
見て時間を確認した。

午後4時を回ったあたりから、
俺の集中力は極端に低下し始めた。
幾度も修羅場をくぐってきたはずなのに、
我ながら情けない。

こんなときはセバスチャンの店に行って
アーリータイムスを流し込むのがいちばんだ。
しかし平日の夕方ではそうもいくまい。

北欧の経済状態に関する
重たいミーティングを終えて席に戻ると、
隣の席のナカバヤシが
そろそろ時間じゃないですか、と言った。
彼女は恐ろしく時間に厳しい。

ああそうだな、と俺は無関心を装って答えたが、
いまこのフロアーで俺ほど
現時刻を把握しているやつはいないだろう。
おそらくいまは午後5時15分34秒くらいだ。
もう2分すると俺は取材用のカメラをチェックして、
相棒のハリーといっしょに六本木へ向かうのだ。

そう。
「Web of the Year 2003」の授賞式だ。

地下鉄を乗り継いでもいいが、
ここからならタクシーで行ったほうがいいだろう。
俺は周到に計画を練りながら、
緊張をごまかすかのようにトイレに立つ。
手を洗いながら鏡を見ると、無精ヒゲが伸びている。
シェービングクリームを切らしていたので、
今朝剃りそこねてしまったのだ。

1分30秒後に戻ると、
席には相棒のハリーが立っている。
ぼちぼち行くか、とやつは言う。
俺はデジタルカメラを準備する。



オーケー、余興の始まりだぜ、とハリーは笑う。
幸運を祈ってますよ、とナカバヤシが言う。
俺たちは魚籃坂のオフィスを出る。
陽が落ちて急に寒くなった。
さっさとタクシーを拾おう。



幸運にもタクシーはすぐにつかまった。
ドライバーは若かったがサービスを心得ていて、
俺たちが会場の名前を告げると
承知しました、とだけ言ってクルマを出した。
あくまでも個人的な見解になるが、
「どう行きますかね?」と質問する
タクシードライバーほど腹立たしいものはない。
最善のルートを進んでくれればそれでいいのだ。
クルマは夜の東京を六本木に向かって滑っていく。

車内の空気はやや重かった。
オフィスを出るときは陽気に振る舞っていた
ハリーもどことなく緊張気味だ。



俺は耐えきれずに沈黙を破った。
──もしも、1位を
  とれなかったらどうする?

ハリーはなにも答えず、唇をかみしめた。
すまない、縁起でもないな、と俺は言った。
クルマは15分ほど走り、会場に着いた。



六本木、クラブT。
「Web of the Year 2003」授賞式会場だ。

入口では屈強なガードマンたちが
入念なセキュリティーチェックをしている。
隙をみて紛れ込もうとしたふたり組の少年が
黒服につまみ出されている。

イトイ・オフィスのものだ、と告げて
招待状を見せると、
俺たちはあっさり奥へ通された。
仄暗い廊下を抜けると、突き当たりに受付がある。
そこにはブロンドの美女と白髪頭の老人が立っている。
白髪頭の老人は俺たちを見てヒヒヒと笑い、
俺たちにドクロマークをあしらった
関係者用のパスをくれた。

ブロンド美女にエスコートされて俺たちは廊下を進む。
しばらく行くと大きな鉄製の扉があり、
近づくとそれはギ、ギ、ギ、と
大げさな音を立てて開いた。
なかから光とざわめきがあふれ出す。









俺たちは美女にしたがって席につく。
ハリーが美女にチップとして100ドル札を渡す。
あいかわらずハリーはブロンドに弱い。



どうやらこのテーブルは
エンターテインメント部門の受賞者が座る席のようだ。
今日招待されているのは3位以内が確定している
3つのサイトだから、俺たちのほかに、
あとふたつのサイトがここに座ることになる。
ふと見ると、目の前にセレモニーの進行を記した紙がある。



どうやら、俺たちがいちばん最初に着いたようだ。
おい、とハリーが俺の横っ腹をつつく。
──ほかのふたつのサイトがわかったぜ。
そこには、俺たちが事前に強敵と予想した、
ふたつのライバルサイトの名前が書いてあった。



──DASH WEB!



──あいのり!


やはりこのふたつのサイトが来た。
どちらも人気テレビ番組を
バックボーンに持つ巨大サイトだ。
『ドカベン』でいうなら、
雲竜ひきいる東海高校と
不知火ひきいる白新高校だ。


失礼、と背後から声がして、
空いたふたつの席にライバルたちが座った。



いよいよ役者はそろったわけだ。
──じゃあ、しっかりな。
ハリーはそう言い残して、後方の関係者席へ下がっていく。
オーケー。腹をくくろう。
俺たちには、あれだけ力を貸してくれた、
全国の読者がついているじゃないか。
ハトや鬼やバカボンのパパもついているじゃないか。


12月9日午後6時40分。
予定を少し遅れて会場の電気は消えた。
そこに、司会者の声が響く。
運命のセレモニーが幕を開ける。



レディース&ジェントルマン!

オープニングスピーチが終わり、
セレモニーは発表へと移る。
各部門ごとに、3位以内が確定した
サイトの代表者が登壇し、
結果がそこで読み上げられる。
つまり、そこで発表されるまで、
結果は誰にもわからない。
ちっ、俺たちの番はまだまだ先だ。

時間を持て余した俺を睡魔が襲う。
ここのところ徹夜続きだった。
俺は暗い会場で、つい、まどろむ。
会場に響くアナウンスがだんだん遠ざかっていく。
ゆらゆらと、俺は座りながら、深く短く眠る。

俺はサンタクロースとサルがダンスする夢を見る。
黄色い表紙の本がつぎつぎに運ばれていく夢を見る。
タオルに包まれた赤ん坊がにっこり笑う夢を見る。
──そこに、ハトもいた。
俺は夢のなかでハトを追いかける。
ハトは飛ばずに地面を歩いている。
よちよちと、俺の少し先をハトは歩いている。
けれど、決して追いつかない。
あと少しというところで逃げていく。
しびれを切らした俺が
ハトに向かって飛びついたそのとき、
俺の肩を誰かが揺さぶった。

「エンターテイメント部門の方、
 ステージ袖に
 スタンバイしてください」


ブロンド美女は流暢な日本語でそうささやいた。
寝ぼけた俺は思わず「クルックー!」と
ハト語で返事してしまう。

そして、いよいよ、俺は壇上へ上がる。
俺の横には、DASH WEB、そして、あいのり。
ガラにもなく、心臓のBPMが上がり始める。
まるで生まれたての小バトのようだ。
のどが渇く。
舌が歯の裏にくっつく。
俺は、ステージに立って、
司会者の言葉を待っている。

──発表します、第1位は‥‥! 
司会者が声を張り上げた。
俺は目をつぶる。
ハトよ、力を貸してくれ。



わっ、と歓声が上がる。
俺の左隣にいる男が右腕を突き上げて喜んでいる。
──第2位、ほぼ日刊イトイ新聞!
と司会者が続けるが、その声はずいぶん遠くに聞こえる。

俺たちは、負けたのだ。

その後のことは、よく覚えていない。
おそらくセレモニーは滞りなく進み、
ステージでは受賞者たちが、
にぎやかに記念撮影をしていたと思う。



俺は、ひどく惨めな気持ちで会場を出た。
第2位。とどかなかった。
ハリーが俺の肩を叩き、
ふたことみこと、気休めを言った。
俺は笑おうと思ったが、うまくできなかった。



俺は呆然と会場を振り返る。
あんなに大勢の読者に参加してもらったのに、
どう報告すればいいのだろう。
がんばった、では、理由にならない。

傍らでは、ハリーがオフィスの人間と電話している。
会場で、俺は結果を携帯電話からメールしていた。
どうやらデリバリー版の担当者が
それをもとに増刊号として編集し、
結果を待っている読者に流したようだ。

明日、どんなふうに報告しようか。
もうデリバリー版の読者には結果が知らされている。
いまさらごまかすことはできないだろう。
俺は悩みながら帰路につき、
なんの考えも思い浮かばぬまま、
オフィスの扉を開けた。



俺は、パワーブックのスリープ状態を解除し、
メールソフトを立ち上げて、
留守中のメールをチェックする。
そしてそこにずらりと並んだメールを見て、
俺は思わず声を上げそうになる。





















魚籃坂は、やたらとサイレンが鳴る街だ。
パトカーだか、救急車だか、消防車だか知らないが、
けたたましい警告音をまき散らしながら
始終行き来している。



ヘビースモーカーだったボスが突然禁煙して以来、
職場はあっさり禁煙になっちまった。
タバコ一本吸うのに
わざわざ屋上まで上がるなんて
馬鹿馬鹿しいと最初は思ったが、
屋上には、いいことがひとつある。



メールを読んでホロリとしたときに、
その思いを噛みしめながらひとりで一服できることだ。



深夜へ向かう魚籃坂に、
遠くからサイレンの音が響く。
いまは不思議とそれをうるさく感じない。

──俺たちはハトをつかまえ
  そこなったのだろうか?


いや、そうじゃない。
ハトは俺たちのもとに舞い降りていたのだ。
俺は半分ほど灰にしたタバコをもみ消し、
ひとり階段を下りながら、
クルックー、とつぶやいた。

(来年へ続く)

※たくさんのご投票をいただき、
 ほんとうにどうもありがとうございました!
 来年、1位をめざしてがんばります!



そういう精神的なアレはいいとして、
実際ハトはどうしたんだ?
授賞式会場に行かなかったのか?!と
疑問を持った方はこちらへ!
いままでに 人の方が
なんかちょっと興奮してハトをご覧になりました!

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メールの表題に「めざせ!」と書いて、
postman@1101.comに送ってくださいね。

2003-12-10-WED

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