青木亮輔さん率いる、東京チェンソーズ。 今、あまり若者に選ばれない職業・林業を、東京でやっている人たちです。それも、なんだかずいぶん、楽しげに。難しいことも、当然あるでしょう。でも全体的に、すごく楽しそう。杉の苗木の植わった森で、話を聞きました。「今日の仕事」が、比喩でなく、具体的に、何十年も先の未来とつながっていること。ただ「木を伐る」だけじゃない、人や動物や森や水のためにやっていること。自然相手の仕事論は、スケールが大きく、大変そうで、何より、実におもしろかった。担当は「ほぼ日」奥野です。

青木亮輔さんプロフィール

第1回

30年かけて育てる仕事。

──
これは、赤ちゃんの木ですか?
青木
はい、杉の苗木です。
──
わー、かわいいです。
青木
でしょう?(笑)
──
苗木を、まじまじ見たのはじめてですが、
こんなにもちっちゃいんですね。

この木も、いずれは
まわりの木くらい、大きくなるんですか。
青木
ええ、10年後には、だいぶ大きくなって、
周囲に草が生えても
負けないような木に育っています。

そうすると、今度は「枝打ち」と言って、
枝を取ってあげたりします。
──
青木さんをはじめとした
「東京チェンソーズ」のみなさんが
やってらっしゃることって、
昔のながらの林業とは、
ちょっと違う雰囲気がありますね。
青木
あ、そうでしょうか。
──
象徴的なのが
東京美林倶楽部」の活動だと
思うのですが、
そのことについて、
ちょっと、詳しく教えてください。
青木
通常、山に木を植えて育てるのは
「山主」の役目ですが、
ぼくたちの「東京美林倶楽部」では
会員のみなさんと苗木を植えて、
それから30年かけて、
いっしょに木を育てていきませんか‥‥
という取り組みなんです。
──
30年!
青木
活動に賛同してくださる方には、
「5万円」の入会金をお支払いただいて、
1口あたり、
「3本」の苗木を植えていただきます。
──
そこから、
「30年のお付き合い」がはじまる?
青木
そうです。
──
30年というと、植えた木は、
どれくらいの大きさになるんですか?
青木
立派な「木材」として
使うことのできる太さに成長します。

もちろん、樹齢60年の木と並べたら
細く見えますが、
家を新築するときの資材にも、
ご結婚の記念品にも充分、使えます。
──
あ、それはいいですね。

自分で苗木から育てた木が大きくなって、
自分の家の一部になったり、
嫁入り道具になったりするわけですか。
青木
成長を見守るのが楽しいので、
植えたあとも「植えっ放し」ではなく、
夏の「下草刈り」など、
自由参加のイベントを用意しています。

苗木を植えたまま放置してしまうと、
周囲に雑草が
どんどん生えてきてしまうので、
カマで、下草を刈ってあげるんです。
──
それは、雑草に負けないように?
青木
はい。もちろん日常的なメンテナンスは
ぼくらがやりますので、
草刈りに参加できなくても大丈夫ですが。
──
単に「木を一本買いました」じゃなくて、
自分の木が成長していく過程を
見守ることができる、というわけですね。

この緑色のかわいい苗木が、
30年かけて
太く、たくましい木に育っていくのって、
ちょっとすごい「買い物」ですね。
青木
楽しみながら
山や森林づくりに参加していただいて、
林業が持っている長い時間軸、
最低でも30年、
長ければ60年、100年という時間を
感じてもらえたらといいなと思ってます。
──
木の寿命って、どれくらいなんですか?
たとえば、杉の場合は。
青木
一般的には「200年」と言われてます。

ただ、奈良の吉野には
300年くらい生きている杉もあるし、
有名な「屋久杉」なんか
「樹齢1000年」を超してますよね。
──
その長い「木の時間軸」にくらべて、
「30年」って
短いかもしれませんが、
人間にとってはそうでもないというか、
へんな話、植えたご本人が
亡くなっちゃっているということも‥‥。
青木
ええ、木を植えた方が、
その木をお使いになるとは限らないです。
──
次代へ引き継ぐ、というような?
青木
はい、自分の代で植えた木が、
次の代へ引き継がれて、
手入れをされながら育てられていって、
さらに次の代へ
引き継がれていったりもします。
──
成長していった木を「どう使うか」は、
やはり、人それぞれですか?
青木
そうですね。家を建てたり、
木材として売って学費や結婚資金にしたり、
伐らずにそのままにして、
さらに次の世代へ残すこともできます。
──
それは、つまり、山や森のために。

木一本で、
いろんな活かし方があるんですね。
青木
必ずしも「自分のために」だけではなくて、
「森のために」「環境のために」
「将来の世代のために」
と考えられるのが、
林業のおもしろいところだと思っています。

そんな大きなスケールとか、長いスパンで
何かを考えることって、
ふだんは、なかなか、ないじゃないですか。
──
はい、ないです。自分のことで言ったら、
明日とか明後日とか、
それすら無理で、
今日のことばかりに汲々としちゃいます。

林業って、それだけの時間軸の中で、
目の前の仕事に、取り組んでるんですね。
青木
やっぱり、あるていど射程を長くとって
森のことを考えるには、
10年後、20年後、30年後、60年後‥‥
それぞれの段階の木の姿を
イメージすることが重要になってきます。

どうも
イメージ通りじゃないなあと思ったら、
その都度、
対策を講じていく必要がありますから。
──
なるほど‥‥。

ところで、東京美林倶楽部の会員さんは、
どういう人が多いんですか?
青木
比較的、東京の方が多いですね。

みなさん、環境への興味関心が高くて、
「森林の保全に貢献したい」
「森へ入って、何か体験をしてみたい」
とおっしゃってくださいます。
──
へえ、都会の人ほど。
青木
そういった思いをお持ちの方に、
林業についていろいろ知っていただいて、
ゆくゆくは
檜原村の木を使ってもらえたらと思って、
東京美林倶楽部をはじめました。
──
親子で育てるのも、楽しそうですよね。
青木
ええ、実際いちばん多いのは、
ちいさいお子さんのいるご家庭ですね。
──
お子さんが大きくなった時点では
木も大きくなってるから、
家なのか、家具なのか、
何かしらに活かすことができますものね。
青木
年配の方も、たくさんいらっしゃいます。

高度経済成長期に
現役で一生懸命お仕事していた方などは、
自分は経済発展のことだけで、
あんまり自然について考えてこなかった、
だから、今、
木を植えることで森に貢献したいと、
そういうお気持ちを
持ってくださっている方も多いようです。
──
この一角には、
どれくらいの苗木が植わってるんですか?
青木
会員さまの木が「300本」です。

1口3本で「100口」募集しましたので、
ぜんぶで「300本」、植わってます。
──
考え方が今っぽくて、
楽しそうなことをされている印象ですが、
そうは言っても、
林業のならではの難しさも、ありますか。
青木
ええ、それは。おっしゃるように、
林業は、いろいろな問題を抱えています。

一般的には
仕事がキツくて危険、若者がいない、
給料が安い‥‥だなんて言われますけど、
たとえば、木の価格の変動。
──
はい。
青木
大きくなるまでの期間が長いので、
その間に、価格が変わってしまうんです。

たとえば第二次大戦の直後は、
木材の価格は、とっても高かったんです。
──
木が、貴重な時代だったから。
青木
そう、でも、それから60年後、
苗木が立派な木にまで成長したときには、
最安値というほど下がりました。

安いときで、
ここの杉、1本いくらだったと思います?
──
ぜんぜんわかりませんけど‥‥何万円?
いや、何十万円とか?
青木
2000円です。
──
え‥‥この立派な杉でも?
青木
何十年かけて育てて、その値段なんです。
──
でも、植えた当時は、もっと高かった。
青木
そう、ですから逆に言えば、
今から60年後には、
価格が上がっている可能性もありますが、
とにかく、価格が
将来の世の中の状況に左右されてしまう。
──
それも「相当な将来」ってことですよね。
青木
そうですね。
木が売れるかどうかもわからない、将来。

それが林業の宿命なんですが、
でも、ぼくたち東京美林倶楽部の場合は、
先に、お客さんが決まってるんです。
──
あ、そうか。
青木
最初に、お金をいただいていますから。

ぼくらは、そのお金で木を育てていって、
3本のうち2本を、
お好きなように、使っていただくんです。
──
残りの1本は?
青木
山に残していただきます。

そうすることで、
次世代の森林に貢献していただこうって、
そういう活動なんです。
──
では、100本の杉は、
30年、40年、50年と、この山に残る?
青木
はい、残ります。

<続きます>

2016-10-17-MON

もくじ

2016年10月30日の日曜日、
チェーンソーを使った「きこり」体験や、
自然観察会、
東京美林倶楽部の山をめぐるプチツアー、
本物のモミの木でつくる
クリスマスツリーのワークショップなど、
檜原村のゆたかな自然に
たっぷりふれあえるイベントが開催されます。
入退場は自由だそうなので、
都合のいい時間に参加することが出来ますよ。
秋の檜原村って、
空が青くて、空気が澄み切っていて、
森のなかで深呼吸をするだけで、
「あ~、きてよかった~」と思うと思います!
会場への行き方など、くわしいことは
東京チェンソーズのHPをごらんください。

日 程

2016年10月30日(日)

時 間

午前10時30分~15時

場 所

東京都西多摩郡檜原村「沸沢園」

内 容

①きこり体験:チェンソーを使った製材や丸太切り、薪割り
②東京美林倶楽部現地見学会:
これまでに苗木を植えた美林倶楽部の山を見に行くプチツアー
第1回‥‥11時40分~12時20分
第2回‥‥13時30分~14時10分
③自然観察会:
美林倶楽部の山での観察会(大人向け&子ども向け)
第1回‥‥10時50分~11時30分
第2回‥‥14時20分~15時
④本物のモミの木で作るオリジナル・クリスマスツリー
(持ち帰り可能な小さな木を使います)

料 金

無料(一部有料)
※モミの木ツリーのワークショップは
2000円(予定)とのこと。
※その他、軽食、お酒の販売、
東京おもちゃ美術館協力のおもちゃセットを用意した
キッズスペースがあります。
※詳細については、
東京チェンソーズのHPでご確認ください。