ゼロから立ち上がる会社に学ぶ 東北の仕事論。 陸前高田 高田自動車学校 篇
セキュリテ被災地応援ファンドのこと 東日本大震災で被災した企業の姿から学ぶ 「東北の仕事論」シリーズ。 第4弾は、陸前高田の高田自動車学校に 登場いただきます。 震災当初、自衛隊や警察のテントが立ち並び、 救援物資の拠点ともなった場所で、 「ふんばろう東日本支援プロジェクト」の 西條剛央さんが 重機免許のプロジェクトを実施したのも、この学校。 そして、社長の田村滿さんは、 八木澤商店の河野通洋社長が尊敬する大先輩。 とにかく、いろんな人の話に、 「ダジャレ好きなヒゲのおじさん」として出てくる、 陸前高田のリーダー的存在なんです。 そんな田村社長が、若き仲間と思い描く 「この町の未来」について、糸井重里が聞きました。
第1回  コールミー 滿ちゃん プリーズ。
糸井 八木澤商店の九代目の河野通洋さんとの
話のなかにも‥‥。
田村 ええ、ええ。
糸井 「ふんばろう東日本支援プロジェクト」の
西條剛央さんとの話のなかにも、
「ヒゲのおやじの田村さん」が出てきて。
田村 すんまへん。
糸井 いや(笑)、テレビのニュースを見ていても
自分とこの敷地に
自衛隊のテントなんかを張らせていたりとか。
田村 ええ、そうですね。
糸井 警察関係もいたみたいですし‥‥。
田村 救援物資の拠点にもなってましたし、ここは。
糸井 はー‥‥。
田村 その物資を運ぶにしても
行政の対策本部のほうが手いっぱいだから
うちのほうで
やってくれないかって、お願いされたり。
糸井 ‥‥なんか、みんなの話を聞いていると
震災直後のあらゆる申し出を、
ろくに検討もしないで
「いいよ、いいよ」ってオッケーしていたフシが‥‥。
田村 そうです、そうです。
糸井 やっぱり(笑)。
田村 ご存知かもしれませんけれど、
陸前高田は
下(低地)が津波で流されてしまったので、
広い場所というのが、
ここ以外には、なかなかないんですよ。
糸井 なるほど。
田村 ぼくは、ぜんぶ受け入れています。

なぜかというと、
みなさん、この地域を何とか助けたいって
来てくれてるわけですから。

ですからもう‥‥大歓迎だよな?
松田 はい、そういうみなさんの役に立てるなら、
それだけで嬉しいですね。
糸井 うん、うん。
松田 あ、私、陸前高田の出身で
いまは盛岡でワインバーをやっている
松田宰といいます。

ごあいさつが遅れまして‥‥。
糸井 いえいえ、こちらこそ。
糸井重里です。
田村 ‥‥ですから、我々としては
「お願いします」というだけでしたね。
糸井 ああ‥‥。
田村 わたしたちも、この松田も、うちの社員たちも
あの「3月11日」からこのかた、
ずーっと、
ひとつのことを話し続けてましたんでね。

「生き残った我々の存在価値って何?」と。
糸井 なるほど。
田村 津波に流されてしまったけれど、
このまま、地域がなくなってしまっちゃあ、
我々も存在できないんだって
ずうっと、みんなで話し合っていたんです。

だから、
地域のためになることなら何でもやるぞと。
糸井 大変だったという言葉では足りない、
お辛いことが、多かったと思うのですが。
松田 そうですね、それは‥‥。
田村 ‥‥中小企業家同友会の仲間で
少林寺の道場を開いている奴がいるんです。
糸井 はい。
田村 その弟子のなかのひとりに、
奥さんと3人のお子さんがいらっしゃった
30代の弟子がいたんです。
糸井 ええ。
田村 津波で、
奥さんと2人のお子さんは亡くなりました。

で、本人は、
あとひとり行方不明になっていた男の子を
必死になって探すんです。
糸井 ‥‥はい。
田村 ぼくの友だちは師匠ですから
どうにか、その弟子を救いたいと思うんですが
彼のあたまは
お子さんを捜し出すことで精一杯で。
糸井 そう‥‥なんでしょうね。
田村 道場主は、
「こいつ、もしかしたらば、
 その男の子が見つかった時点で
 命を亡くすんじゃないだろうか」
と思うわけです。

だから、どうしても、阻止したいと思って
いろいろ話をしたりするんですが‥‥。
糸井 ‥‥ええ。
田村 結果的にお子さんは、見つかりました。

お弟子さんが、そいつのところに
「見つかったー!」って、走って来たんです。
糸井 はい。
田村 その2日後に、彼は遺体で見つかるんです。
糸井 ‥‥そうですか。
田村 そういうことは、いっぱいあるんですよね。
松田 でも、でもですね、
「つらいときの笑顔」って、最高なんです。

私がやっている盛岡のワインバーに
陸前高田から、
飲みに来てくれたお客さまがいるんですね。
糸井 ええ。
松田 盛岡のホテルにお泊まりになり、
そこで、一週間ぶりにお風呂に入って‥‥。

でも、もうひとつやりたいことがある、と。
糸井 はい。
松田 それは「ワインを飲むことだったんだ」って。
糸井 なるほど、なるほど。
松田 そのかたが、本当に美味しそうに
ワインをお飲みになっている姿を見ていたら
この仕事をやっていて
本当に、本当によかったなと思いました。
田村 こいつ、
海辺に建ってた「キャピタルホテル1000」てのに
勤めていたんです。

でも、震災前に独立してワインのバーを、な?
松田 はい。
糸井 じゃあ、この地域のことをよーくご存知で。
松田 はい、それはもうお世話になりましたので。

ですから、今度の震災が起きてからも、
陸前高田に対して
盛岡から何かできることはないか‥‥と考えまして
田村さんと
「チーム・クレッシェンド」を結成したんです。
糸井 クレッシェンドって‥‥。
松田 イタリア語で「月」という意味なんです。

「三日月が、だんだん満ちていって
 さいごには、満月になるように‥‥」
という思いを込めて、
これから復興へ向けた活動をしていこうと。
糸井 なるほど。
松田 それに、満月の「満」は
この「田村滿」さんの「満」でもあって(笑)。
糸井 はー‥‥、そうか!(笑)。
田村 ぼくのは旧字体なんですけどね。
松田 ぼくたち、まわりの人間には
「滿(まん)ちゃん」って呼ばれてます。
糸井 滿ちゃん。
田村 そう、コールミー 滿ちゃん プリーズ。
<つづきます>
2011-12-02-FRI
写真撮影:相澤心也
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第1回 コールミー 滿ちゃん プリーズ。 2011-11-25-FRI
第2回 猛獣が泣いた。 2011-11-28-MON
第3回 津波てんでんこ。 2011-11-29-TUE
第4回 海と生きる。 2011-11-30-WED
第5回 冬の花火。 2011-12-01-THU
第6回 陸前高田で羊を飼うんだ。 2011-12-02-FRI
 
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