ゼロから立ち上がる会社に学ぶ 東北の仕事論。 陸前高田 高田自動車学校 篇
第6回  陸前高田で羊を飼うんだ。
松田 糸井さん、
「アニョープレサレ」ってご存知ですか?
糸井 いえ、知らないです。‥‥何ですか?
松田 フランスの海沿いで飼われている羊なんですが、
その地方は、海の塩分を吸う関係で
草が塩味を含んでるんです。

で、その塩味の草を食べることによって
羊の肉質が、とても柔らかくなるんです。
糸井 ほー‥‥。
松田 ぼく、いままでに食べた肉のなかでも
そのアニョープレサレが
いちばんおいしいなと思っていまして。
糸井 なにか、聞いただけで、おいしそうな。
松田 陸前高田の町も、
津波のために塩がしっかり入っていて、
作物をつくることができない。
糸井 ‥‥ええ。
田村 でも、ごらんになったかも知れませんが、
草はボーボーに生えてますでしょ。
糸井 つまり‥‥。
松田 この町で羊を飼って、
塩分の効いた草を食べてもらって‥‥
羊の肉を名物にできたら
おもしろいんじゃないかなぁって。
糸井 なるほど‥‥ジンギスカンだ。
松田 平地に羊が飼われていて、羊飼いがいて‥‥
人は高台のほうに住む。

12.5メートルの防潮堤を建てるよりも
ずっといいと思うんです。
糸井 でも、具体的に「飼う」って、どこで‥‥。
田村 こういう絵があるんです。
糸井 これは‥‥?
田村 この町を復興していくにあたって、
ぼくたちの「理想のかたち」を絵に描いたんです。
糸井 はぁー‥‥。
田村 この絵でいうと、低くて平らなところは、
すべて農地や牧草地なんです。
糸井 じゃ、そこで、羊を。
松田 はい。
糸井 ‥‥市場の一般的な羊の値段とは違う、
ちょっとハイクラスなものをつくりあげる必要性が
たぶん、ありますよね。
松田 プレミアムなもの、ですね。
糸井 ひとつの「ブランディング」ですけれども、
田村さん、
これ、経営者としての直感で‥‥やれますか?
田村 やれると思います。
糸井 その根拠は、何か‥‥?
田村 ぼく、遠野にも自動車学校を持っているんですが
あちらの人たちは、
非常に、ジンギスカンをよく食べるんです。
糸井 へぇ、そうなんだ。
田村 で、そのジンギスカン用の肉って、輸入してるんです。
糸井 なるほど‥‥。
田村 だから、陸前高田のアニョープレサレは
まずは羊の消費量の高い遠野に、供給する。
糸井 遠野の人たちは、高い羊でも食べますかね?
松田 そのへんはまだ、ちょっとわからないんですが、
ぼくたちは
観光でいらっしゃるお客さまに、食べてほしいなと
思っていて。
糸井 なるほど、「観光資源」として、ですか。
近くには、世界遺産の平泉がありますし。
松田 そうそう、そうなんですよ。
糸井 東京はじめとした都市部のお客さんを
どうやってつかむか‥‥が、大切でしょうね。
松田 はい。
糸井 もしかして、いままで「仙台」あたりを見ていた
東北の「市場的な視点」を
もう少し先、東京くらいまで伸ばしていくことが。
田村 そうそう、そうなんです。
糸井 でも、その羊は‥‥ちょっと興味あります。
田村 羊飼いには、地元のおばさんたちを雇って。
糸井 いいですねぇ(笑)。
田村 羊飼いのおばさんたちが
の〜んびり、羊といっしょに歩いている町。
糸井 うん、うん、うん‥‥。
この、まぁるいお花みたいなのは、何ですか?
田村 住宅にできればなあと思っております。
糸井 ああ、家か。
松田 拡大したものが、これなんですが‥‥。
田村 陸前高田は土地が狭いものですから、
できるだけ有効利用すべく、ロータリーの構造に。
糸井 ようするに「みんなの庭」をつくるわけだ。
田村 集合住宅としてのコミニティを
きちんと形成できれば
たとえばカーシェアリングもできるかなと
思ったりしていて。
糸井 なるほど。
松田 交差点も「ラウンドアバウト」にすれば
信号が必要ないので、電気代も削減できます。
糸井 ラウンドアバウトって、
あの、同じ方向にクルッと回っていく‥‥。
田村 車両がすべて左折で円に進入する方式です。
糸井 陸前高田のくらいのサイズの町なら、
できそう‥‥なんですか?
田村 交通量が「1時間あたり500台以内」であれば
成立するという話ですね。
糸井 町が小さいことを、うまく生かして。
田村 そうですね、はい。
糸井 なるほど‥‥「町のサイズ」という意味でも、
地元の人だけではなく、
おいしいものを目当てにしてる東京の人が
興味そそられるものを、つくりたいですよね。
松田 「陸前高田の羊」が現実的だなぁと思うのは、
子羊であれば
1年くらいの期間で出荷できるんです。

これが、カキやホタテの養殖となると
3年から5年かかりますから。
収入として
かたちにしやすいと思うんです、羊のほうが。
糸井 いま、お聞きしたようなアイディアを
四の五の言わずに
とにかくはじめちゃおうとしている速度感とか、
本気さとか‥‥これって
東京にいても、ぜったい産まれてこないです。
田村 陸前高田の市役所でも、
70人近くの職員が、亡くなっているんです。

だから、目の前の問題で精一杯なために、
この町の将来設計を考えているのは
外部の人なわけです、大学の教授だとか。
糸井 なるほど‥‥。
田村 それって、少しおかしいなと思っていて。

だから、すくなくとも
地元の人間による「叩き台」をつくったほうが
いいだろうと思って、この絵を描いたんです。
糸井 ええ。
田村 この町の将来を、どうしたらいいか。

先ほども申し上げましたが、
いまの計画では
防潮堤をつくって盛り土をするのに
5年かかると言われています。
松田 いなくなっちゃいますよね、みんな。
田村 ですから、通洋からもお聞きしているかと
思いますが、
まずは、ぼくたちがやれることとして、
12月に「なつかしい未来商店街」というのを
オープンしようと思っています。
糸井 ほう、なつかしい未来。
田村 コンテナの仮設店舗を一箇所にたくさん集めて
ひとつの商店街とする構想なんです。

そのための会社も、立ち上げました。
糸井 ‥‥そのお話、たぶん今日、これから
通洋さんに聞くんだと思います、ここで。
田村 あ、そうなの?
河野 ‥‥こんにちはー。
糸井 噂をすれば(笑)。
田村 おう、通洋。
河野 どうも。あ、糸井さん、こんにちは。
糸井 昨日お会いしたばかりですけど、東京で(笑)。
田村 お前の噂で持ちきりだよ。
河野 悪口言ってたんじゃないの?
田村 オレは言ってねえよ。
別に、ほめてもいねえけどな。
糸井 (笑)

<おわります>
田村社長、松田さんたちの
チーム・クレッシェンドのホームページは
こちらからどうぞ。
「冬の花火」や「箱根マラソン」の詳細が
掲載されています。
2011-12-02-FRI
写真撮影:相澤心也
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