さよならは、こんなふうに。 さよならは、こんなふうに。
昨年連載した
訪問診療医の小堀鷗一郎さんと糸井重里の対談に、
大きな反響がありました。
あの対談がきっかけとなって、
ふたりはさらに対話を重ね、
その内容が一冊の本になることも決まりました。



小堀鷗一郎先生は、
死に正解はないとおっしゃいます。
糸井重里は、
死を考えることは生を考えることと言います。



みずからの死、身近な人の死にたいして、
みなさんはどう思っていますか。
のぞみは、ありますか。
知りたいです。
みなさんのこれまでの経験や考えていることを募って
ご紹介していくコンテンツを開きます。
どうぞお寄せください。
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illustration:綱田康平
009 10年くらいよくわかんなくて、どんどん好きになって。
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7月に夫が亡くなりました。



3月に検査のため病院に行き、
私も呼ばれ、ふたりで担当医の話を聞きました。
肺、肝臓、腹膜に癌があり、ステージ4、
緩和ケアしながら抗がん剤治療をすることに。



びっくりしすぎて、ふたりで
「うわー、こりゃ大変だ~」と、
なぜか笑ってしまって、
「まず、やることやっていくべ」と、
そのまま夫は入院しました。
ひとり帰宅して、
「どうしよう、大丈夫。
どうしよう、明日は仕事だ、そのあと病院だ。
どうしよう、大丈夫、やれる、やってくぞ」
が頭の中でぐるぐるしていました。



20日ほど入院して、
その後は週1回の通院です。
ちょっとドライブしたり、
買い物して、好きなものを作って、食べて。
好きなギターのメンテして、
アンプ繋げて弾き出すのを
注意したこともありました。



「こんなにずっと二人で居たことなかったね。
定年後はこんな感じなのかね」
と、4月、5月、6月の半ばまで、
溜まった腹水を抜いたり、
透析して点滴したり、
抗がん剤治療したり、
通院しながらも呑気に過ごしていました。
そのときはふたりとも生きてくことしか頭になくて、
余命どれくらいとか聞いていませんでした。



6月に吐血して入院。
出血箇所は処置して、
「ごはんを食べられるようになったら退院」を目標に
過ごしていました。
夫ははじめて
「もうダメだな~何も食べたくない」と言いました。
私は「ちゃんと食べれるようになって、
家に帰るんだよ、家に帰ろう」としか
言えませんでした。



亡くなる4日前に担当医から
「門脈が塞がって静脈瘤ができている、
肝臓がダメになるか、静脈瘤が破裂するか、
どちらにせよ危ない。1か月もつかどうか」
と言われました。
それでもピンとこないまま、
息子たちと夫の両親をを呼び寄せ、
「みんないるからがんばろう、
細く長くやってくよ、家に帰ろう」
と伝えました。
夫も気丈にうなずいてくれました。



亡くなる日、
私は午前中仕事してから病院に行きました。
「痛い、痛い」とベッドの柵を掴んで
汗だくの夫をはじめて見ました。
看護師さんも点滴の準備などしていて、
私は夫の汗を拭いて枕のタオルを取り替えて、
担当医から薬の説明を受けて、
そうこうするうちに吐血、吐いたものを受けながら、
口元拭きながら、
「Tちゃん、大丈夫だよ、全部出して、苦しいね、
痛み止めするからね、ちょっとがんばるよ」
と言いました。
見ると目がしっかりしていなかったので、
ほっぺた叩いて
「Tちゃん! まだダメ! ダメだって! しっかり!」
と、目がちゃんと合うまで
ほっぺたピタピタしながら大声で話しかけました。
看護師さんたちが処置をしてくれてる間に
長男に連絡、ふたりで看取りました。



いくら息子が
「父さん、もっと生きて介護でもなんでもさせてよ」
と言っても、モニターの数値はどんどん下がって。
最後は「ありがとう、がんばったよね、
大丈夫、家に帰ろう。ありがとうね、
ずっと、ずっとね」としか言えませんでした。



夕方、家に連れて帰りました。
いつも寝てた、ギター弾いてた、
好きな本も雑然とある部屋に、
いつもとは違う向きで横になって、
祭壇ができて、お花であふれました。
次男三男も帰って来て、
久しぶりに5人で一緒に寝ました。



お見合い結婚で、
10年くらいよくわかんなくて、
どんどん好きになって、
大好きのてっぺんで死んでしまいました。
いまも留守番してる感じです。
夫が病院から帰ってくるのを待ってるような。



寂しいし、泣けてくるし、何よりつまらない。
そう言うと息子に叱られますが、
夫のいない毎日は、ほんとうにつまらないのです。
今日やること、明日やることのくり返しで生きてます。
やることがあってよかったです。



(K)
2020-11-13-FRI
小堀鷗一郎さんと糸井重里の対話が本になります。


「死とちゃんと手をつなげたら、
今を生きることにつながる。」
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『いつか来る死』
小堀鷗一郎 糸井重里 著

幡野広志 写真

名久井直子 ブックデザイン

崎谷実穂 構成

マガジンハウス 発行

2020年11月12日発売


発行を記念して、
オンラインのトークイベントを行います。



日時:11/25(水)19:00

全国の紀伊國屋書店と紀伊國屋WEBで
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