さよならは、こんなふうに。 さよならは、こんなふうに。
昨年連載した
訪問診療医の小堀鷗一郎さんと糸井重里の対談に、
大きな反響がありました。
あの対談がきっかけとなって、
ふたりはさらに対話を重ね、
その内容が一冊の本になることも決まりました。



小堀鷗一郎先生は、
死に正解はないとおっしゃいます。
糸井重里は、
死を考えることは生を考えることと言います。



みずからの死、身近な人の死にたいして、
みなさんはどう思っていますか。
のぞみは、ありますか。
知りたいです。
みなさんのこれまでの経験や考えていることを募って
ご紹介していくコンテンツを開きます。
どうぞお寄せください。
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illustration:綱田康平
001 未来の自分のための母との時間。
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3年前、74歳で母がなくなりました。
とても元気で健康な人でした。
たまたまがんになって、
なんだかもったいなく死んでいきました。



母は満州の生まれで、
日本に帰ってきてなにもかもを
ゼロからはじめた一家に育った苦労人です。
子どもは兄と私のふたり。
夫を早く亡くし、
そこでも苦労していただろうけれど、
それを見せない、かっこいい人でした。



近ごろのがんは、本人のいる前で、すぐ告知します。
高齢だったこともあり、重度だったこともあり、
手術はせず入院もせず、
通院で抗がん剤治療することを選択しました。
本人も、治ることはないだろうとふんでいました。



治療で寿命が少し長くなる、そのあいだに、
土地やら権利書やらお金の書類やら、
すべてをきれいにしていました。
母が亡くなって、子どもの私が
処理に迷うようなものは何も
残されていませんでした。



私は、母のことがとても好きでした。



父が早く亡くなって、
兄もとっくに結婚していたので、
別々に住んではいましたが家族はふたりだけでした。
母の病気がわかったとき、私はすぐに
気持ちの準備をしておかないと
後に自分が崩壊してしまうと感じました。
とても恐ろしかったです。



考えたのは、生き残る自分の未来です。
のちの自分を保つための方法です。
母は近く、必ず死ぬのだから、
「きちんといっしょの時間を過ごし、
できるだけのことをした」と
あとに残った自分が考えられなければ
後悔にとらわれるだろう。
そのことを充分に考えて、
母のためにできるだけの時間を使うことにしました。



それから1年半して、母は亡くなりました。
「母が病気だったあいだ、
大人になってから、
いちばん長くいっしょに過ごし、
自分ができることは全部した」
と思えるようになったので、
あまり深く考え込まずにすんでいます。



母は、しゃべれなくなったり、
機械につながれることになるのは勘弁だ、
と言っていました。
病院もそのあたりは、
よく聞いてくれていたと思います。



最後は、本人から電話があって
「ちょっとつらいから戻ってきて」
と言われました。
急いで行くと、
母はこれまでになくかなりしんどそうでした。
「もう疲れた? 
もしかして、私のために生きてる?」
と訊いてみました。
すると母は
「そう」
と言いました。



「だったら、もういいよ。
お父さんのところに行きなよ」



母に伝えて、それがたぶん最後の会話で、
かけつけた親戚とワーワーあいさつしてるあいだに、
母はあっさり息をひきとっていました。
びっくりしたけど、
しめっぽいことも、ドラマチックなことも嫌いな
私のことを考えてくれたのかな、と思いました。



私が母となかよしなことは、
会社の人たちもよく知っていて、
心配してくれていたのですが、
さっさと復活して仕事しはじめたので、
驚かれました(笑)。
私が早く仕事に戻れたのは、
母が不安のなかですごした1年半の日々を
きちんと支えることができたという
自負が持てていたのと、
意思疎通が最後にできていたと
私が思えたからだと思います。



見送る人には、
見送っている最中にも、
あとにも暮らしがあります。
いずれにしても、暮らしを壊してはいけない。
保ち方は人それぞれで、
納得も人それぞれだろうけど、
見送られるほうもそう思っているにちがいないです。



これが私の
「さよならは、こんなふうに。」でした。



(M子)
2020-11-05-THU
小堀鷗一郎さんと糸井重里の対話が本になります。


「死とちゃんと手をつなげたら、
今を生きることにつながる。」
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『いつか来る死』
小堀鷗一郎 糸井重里 著

幡野広志 写真

名久井直子 ブックデザイン

崎谷実穂 構成

マガジンハウス 発行

2020年11月12日発売


発行を記念して、
オンラインのトークイベントを行います。



日時:11/25(水)19:00

全国の紀伊國屋書店と紀伊國屋WEBで
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