祝・新潮文庫になったよ。

黄昏

浅草・スカイツリー篇
 
第10回
時代劇らしいシチュエーション。

糸井 最近、時代劇をいくつか観て思ったんだけどね。
ウン。
糸井 つっこまなくていいんだよね、時代劇って。
「そりゃないだろう」とかって言わなくていい。
ん?
糸井 たとえば現代ドラマだとさ、
ドラマみたいなセリフが連発されると
観てて居心地悪くなっちゃうんだけど、
時代劇はいかにも時代劇みたいなことを
どんどん言っても平気なんだ。
「目を見ればわかる」みたいなこと
言ってていいんだよ。
「お女中、いかがなされた」
「持病のしゃくが‥‥」
糸井 そうそう。
「しばらく見ないうちに、美しくなられて」
なんて言ってればいいわけでさ。
「ごむたいな! 人を呼びますよ!」
「ふふふふふ、誰も来ぬわ」
糸井 そりゃ「十手プレイ」だろう(笑)。
あれは違うよ、ひねりすぎ。
むしろ現代劇だ、あれは。
ハハハハハ。
糸井 そういうひねったことがなくていいから
観ていてラクなんだ。
ちょっと昔の時代劇なんか、
時代劇みたいなセリフばっかりだよ。
時代劇だからね。
糸井 時代劇だからさ。
でも、最近の時代劇を観ててもさ、
オレたちがよく知ってるような
シチュエーションって
じつは、なかなかないんだよな。
たとえば、さっきの「誰も来ぬわ」の、
本来のシチュエーションも、ちっとも出て来ない。
糸井 こう、フスマのむこうに蒲団があって。
「人を呼びますよ」っていう展開ね。
糸井 そこで、本来の「ふふふふふ、誰も来ぬわ」。
本来の、ね(笑)。
それが、最近、ないんだよ。
昔は、いっくらでもやってたのに。
糸井 かならずね。
あとは、「お主も悪じゃのう」も
あんましやんないよ、最近は。
糸井 ああ、そう。
やっぱり、笑われるのがイヤなんだろう。
あのへんはさ、時代劇っぽさを超えて、
コントっぽくなってるからさ。
あとさ、掛け軸の裏の仕掛けも出てこない。
糸井 掛け軸の仕掛け?
こう、掛け軸の裏っ側にヒモがあってさ、
それをグッと引くってぇと、
畳がバタンって。
糸井 あーー、そういうやつ。
で、下に落ちると岩屋になってて、
そうこうするうちに
水が吹き出してくるね。
糸井 それはさ、昔の時代劇のなかでもさ、
おんなじものをつかってたんじゃないの?
え? あッ、そーか、
おんなじセット、使い回し。
糸井 そうそうそう。
「じゃ、あのB棟のやつ、つかおうか」
っていうようなことでさ。
「今回も、例の床の間のヒモ、
 引っ張りますか?」って。
一同 (笑)
糸井 そうそうそう。
だから、それを、なんかの理由で
取り壊しちゃったんだよ。
アハハハハハ。
一同 (笑)
糸井 もうあれはないんだよ。
B棟、壊しちゃったからなぁ。
じゃあ、「誰も来ぬわ」がないのは?
糸井 それはね、赤い蒲団を焦がしちゃった。
ハハハハハ、行灯を倒して。
糸井 そうそうそう(笑)、
行灯も蒲団もいっぺんに
なくなっちゃったから、
こう、一回、足が遠のいた
定食屋みたいなもんでさ。
「なんか、行かなくなっちゃったね」と。
あいわかった。
一同 (笑)
(そろそろ、終盤。まだつづきますけど)
2014-06-26-THU
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写真:山口靖雄
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN