祝・新潮文庫になったよ。

黄昏

浅草・スカイツリー篇
 
第9回
苦手なこと。
糸井 逆に、伸坊が苦手なことって、なに?
南 苦手なことは、いくらでもあるよ。
糸井 伸坊、ラブシーン、どう、ラブシーン。
一同 (笑)
南 まぁ、あの、ラブシーン、苦手です。
でも実際に困るのは、あいさつだね。
「それでは、ひとことお願いします」って。
糸井 ああー。
南 とくに、まじめな人が集まってる場合。
ちょっとおもしろいこと言ってくれ、
みたいなのはいいんだけど、
ちゃんとしたあいさつしなくちゃいけない
シチュエーションっていうのが、ダメ。
糸井 でも、これまでにオレは何度か
伸坊のあいさつを聞いて感心してるよ。
伊丹十三賞の最初のあいさつとか、
すごくよかった。
南 あれは、書いたのを読んでるから。
その場でなんか言うってのがダメなんだよ。
糸井さんは、なんにもなしで、
その場ですらすらしゃべるでしょう?
あれができないんだ。
なんか違う話になっちゃいそうで。
糸井 それはオレもそうだよ。
南 それでも、ちゃんと着地するじゃない。
糸井 あ、そうだね。そこはいつも平気だ。
南 オレはそれができないし、
失礼があっちゃいけない、とか思うから。
だから紙に書いちゃって、もう読むだけにしちゃう。
糸井 書くとさ、なんていうか、
「よくなる」でしょ。
南 ん?
糸井 書いてるときに、
いいのが書けちゃうときあるじゃない?
それが困ったなぁって思うんだよ。
南 あーー、そうか、そうか。
糸井 実際、何回か書いてみたことあるんだけど、
いいのが書けちゃうのがイヤなんだよね。
それがウソだとは思わないけど、
なんだかいいことをすらすらしゃべっても、
ちょっと違うような気がするんだ。
なんか、そういうあいさつってあるじゃない。
よすぎるだろうそれは、みたいな。
南 ははははは。
糸井 だからね、冗談抜きで、
伸坊のあいさつはいつもいいんだよ。
まぁ、伸坊のあいさつを
そんなにたくさん聞いてるわけじゃないけど、
でも、いつも伸坊のあいさつは
いいなぁ、って思うもん。
書いてるのを読んでたって、いい。
ウソをついてないあいさつって、
なかなか難しいじゃない?
南 ああー。
糸井 で、同じように見えるんだけど、
赤瀬川(原平)さんだと、
ちょっとヘタなんだ(笑)。
一同 (笑)
糸井 赤瀬川さん、上手じゃないの。
上手じゃないって、失礼なんだけど、
伸坊のピタッとくる感じではない。
でも、そうかぁ、
伸坊はあれ、苦手だったのか。
南 うん。
糸井 いや、だいたい人ってさ、
苦手なことをやってるのに対して、
まず、同情しないよね。
南 うん、そうかも。
糸井 伸坊があいさつが苦手だということを、
人は同情しないでしょ。
おなじように、いろんな普段の仕事の中で、
ほんとは苦手な人に苦手なことさせてるのに、
「なんでできないんだよ」
なんて言ってることが
多々あるんじゃないかと思う。
南 ああー、あると思うね、それは。
オレも、自分でね、絵を描いたり、
線引っ張ったりしてるわけだけど、
必ずしも得意なわけじゃないんだよ。
糸井 そうなの?
南 ウン。
線をちゃんと引くとかさ、けっこう苦手。
あの、高校生のときにね、
地図をつくってる会社でバイトしてたの。
そこでね、地図をつくるために、
でっかい方眼紙みたいなものを
つくっといてくれって言われた。
糸井 紙に線を引いて。
南 そう、けっこう大きい紙に、
こんなでっかい定規をつかって、
2ミリ間隔で線を引けと。
で、オレは器用なようで器用じゃないから、
定規で長い線を引いたりすると、
こう、だぁーってインク引っ張ちゃったりする。
それがわかるからさ、
「それ苦手なんで」って言うんだけど、
きれいじゃなくていいんだ、って言うわけ。
写植貼るときのガイドにするだけで、
それをそのまま印刷するわけでもないから、
汚くてもいい、わかればいいんだからって。
糸井 そうか(笑)。
南 でも、そんなさぁ、キッタナイ線をガイドにさぁ、
オレだったら写植貼りたくないし。
糸井 うん、うん(笑)。
南 それでどうしようかと悩んで、
どうしたかっていうと、
とうとう、次の日、休んじゃった。
糸井 ああーーー、なるほど。
それはさ、まさに「苦手」だね。
南 「苦手」だろう?
糸井 休んじゃうってのはすごいなぁ(笑)。
思いもしなかったよ。
南 だって、
行ったらやんなきゃいけないじゃん。
糸井 あははははは。
そんなこと言える人、
なかなかいないよ。


(おしゃべりは苦手じゃない二人。つづきます)
2014-06-25-WED
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写真:山口靖雄
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN