祝・新潮文庫になったよ。

黄昏

浅草・スカイツリー篇
 
第8回
ラブシーンと仲人。

南 お芝居をするのは苦手だとしてもさ、
お芝居の演出だったら、できるでしょ。
糸井 ああ、できる、と思う。
南 それはやりたいとは思わない?
糸井 べつに、やりたくはない。
南 ハハハハハ。
お芝居はやりたいけど。
糸井 芝居は、できないのに、やりたいんだよ。
南 でも、できそうな演出はやりたくない。
糸井 だって、演出って、なにがおもしろいの?
一同 (笑)
南 はははは。
糸井 あ、いや、その言い方は語弊があるな。
あくまでも素人がちょっとやってみるとして、
っていうような話だよ?
ちゃんとした芝居の演出の話じゃないよ?
という前置きをしたうえでくり返すとさ、
「オレは演出がやりたい!」って、
どういう人が思うんだろう。
ふつう、思わないだろう。
南 そうだね、たしかに。
糸井 たとえばの話さ、なんかこう、
4人のおもしろい子がいたとして、
バンド組ませて、売って、
「自分が売ったんだ!」っていう仕事やりたい?
やっぱり、楽器持ってやりたいだろ?
まぁ、いつの間にかそういう役どころになって、
演出することになったら、がんばるけどさ。
南 つまり、どっちにあこがれるか、
ということでいうと。
糸井 自分でやるほうだよ。
だから、野球を観ながら、絶対なれないにしても、
「ホームランを打ってみたい」とは思うけど、
「スクイズのサインを出してみたい」とは思わない。
そっちをやりたい人も、いるんだろうけど。
南 あ、いるいる。
糸井 いるよね。
オレは、そっちじゃないんだ。
でも、できないんだよなぁ、芝居は。
南 段取りのないお芝居は?
即興劇。
糸井 エチュードね。
そっちならできるかなあと
思った時期もあるんだけど、
これがね、できなかったんだなぁ。
南 ハハハハハ、どこかでやったんだね。
糸井 八方ふさがり。
南 つまり、やりたくなきゃ、
八方丸くおさまる話だよね。
糸井 そうそう(笑)!
やりたくなきゃいいんだよ、ほんと。
でもさ、やりたいもんだからさ。
一同 (笑)
南 ラブシーンなんかあったらたいへんだねー。
糸井 ラブシーン、できないだろうー。
ほんとのラブシーンだってやだもん。
一同 (笑)
南 段取りだから(笑)。
糸井 段取りだろ。なぁ。
いや、笑ってるけど、みんなできるのかよ。
逆に聞きたい。
南 あはははははは、おかしい。
みんなはやりたがってないんだし。
糸井 そうだけどさ。
南 結婚式とかだと、どうなるんだろうね。
「新郎はこっちからこう来てください」とか。
糸井 それは平気だと思うなぁ。
なんていうか、段取り通りにいかなくても
それはそれでいいや、って思えるから。
あ、でも、仲人とかはちょっとイヤだな。
南 オレね、一度だけ、
仲人をやったことがあるんだよ。
糸井 ほう。
南 そのときにいちばん難しかったのはね、
あいさつとか段取りとかよりも、
入場していくときのスピード。
糸井 スピード?
南 花嫁さんは、かつら重いし、
動くのがたいへんだから、
式場に入るとき、仲人のオレは
「ものすごーくゆっくり歩いてください」
って言われてたわけ。
糸井 あー、はいはい。
南 で、そうはいっても、
ものすごーくゆっくり歩くのって
なかなか難しいので、
ちょっとテストしましょう、
っていうことになったんだよ。
これから扉開けて入場するとこで、
言われたようにゆーっくり歩いたの。
そしたら、「速い、速い!」って言うんだよ。
糸井 はははははは。
南 だいたいこのくらいで歩いてください、
って、式場の人がやって見せてくれた速さがね、
もう、ほとんど暗黒舞踏。
一同 (爆笑)
糸井 はっはっはっ!
南 こーんなんだよ。
こーーーんなにゆっくりだとさ、
にこにこ笑いながら歩く余裕ないの。
だから、こう、顔つきも、暗黒舞踏。
一同 (笑)
糸井 仲人、白塗り。
南 白塗りしたくなったよ、あの速度は。
糸井 見たかったなー、それ。

(おもしろいなぁ。つづきます)
2014-06-24-TUE
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写真:山口靖雄
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN