祝・新潮文庫になったよ。

黄昏

浅草・スカイツリー篇
 
第11回
オレが○○だったとき。
糸井 最近、歴史上の人物にはなった?
うーん、最近は、現代の人物ですね。
糸井 ああ、そうなんだ。
でもさ、伸坊の、
「オレが○○だったとき」
っていう語り方はすごいよね。
ほかの誰にもできない。
ハハハハ。
糸井 すごいよなぁ。
人生の中で「○○だったとき」って
言えちゃうんだもん。
ふつうの人はさ、せいぜい、
「お父さんが悪かったとき」とか
「お母さんが若かったとき」とかだぜ?
レベルが違うね。
糸井 違いすぎるよ。
「オレが松尾芭蕉だったとき」とか
「オレが織田信長だったとき」だもんな。
「金太郎だったとき」とか
「天狗だったとき」まである。
糸井 「オレが天狗だったとき」(笑)。
一同 (笑)
そういえばこないだね、原稿を頼まれたの。
法隆寺の展覧会が上野であるっていうんでね、
上野のPR誌っていうか、地方紙じゃなくて、
ええと、なんていうんだっけ、ああいうの?
糸井 タウン誌?
タウン誌、タウン誌(笑)。
もう、単語が出てこなくてネ。
タウン誌で、タウン誌、タウン誌、
タウン誌がね‥‥。
一同 (笑)
糸井 ははははは。
何度も言うと、覚えるかと思って。
糸井 タウン誌をね。
で? そのタウン誌が?
そのタウン誌がさ、法隆寺の展覧会というのを
今度、どこだかでやるんで、
「法隆寺とわたし」ということで、
なんか書いてくださいって言ってきて。
糸井 どこが言ってきたの?
え? ‥‥あ、タウン誌だね。
糸井 タウン誌ね。
いま、ちょっと忘れてなかった?
アハハハハ、え、なに言ってんの。
タウン誌、タウン誌だよ。
一同 (笑)
糸井 大丈夫?
タウン誌の1冊や2冊、覚えといてくれよ。
あと、「ブログ」っていうのも
覚えられなくてさ。
糸井 ああー、「ブログ」ね。
「あの、ほら、コンピューターの日記みたいな」
とか言っちゃうんだ。
一同 (笑)
糸井 だいぶ遠くから(笑)。
「コンピューター」からはじめちゃうからさ。
「え、なんのことでしょう」って言われて、
「あの、ほら‥‥」とか言ってるうちに相手が、
「あ、ブログですね」って。
糸井 固有名詞どころじゃないよね。
いや、でも、オレもそれに近いよ。
新しいことばは、はなっから覚えてないもん。
「タウン誌」ぐらいだと
昭和のにおいがするから大丈夫だけどさ。
タウン誌は、ブログにくらべたら
ずっと覚えやすいね。
糸井 で、タウン誌に頼まれて?
うん、タウン誌に
「わたしと法隆寺」の原稿を頼まれてね。
どうしようかなと思ってさ。
「わたしと法隆寺の付き合いは長い。
 かれこれ50年は経っている」って。
つまり、修学旅行ではじめて行ったから。
糸井 ははははは、オレもたぶん、そうだ。
法隆寺とのつき合いは50年くらいになる。
で、それから何回行ったかって、
わりに正確に思い出せるわけ。
あの、いちばん最初の「黄昏」でしゃべった
「鎌倉に行った回数」よりは正確に。
糸井 ああ、いちばん最初のシリーズだ。
そうそうそう。
本の最初に載ってるやつ。
糸井 そうだ、あの「黄昏」が、
なんと新潮文庫になったんだけどさ。
というか、それを記念して、
今回、しゃべってるんだけど。
ウン。
糸井 もともとの書籍を新潮文庫から出すにあたって、
新潮社の人が校正し直したわけだよ、あの本を。
そしたらさ、最初の鎌倉の話のところで
伸坊が「鎌倉の近代美術館に行った」
って言ってるんだよ。
「マグリットの展覧会を観た」って。
ところが、新潮社の人が校正し直して、
申し訳なさそうに言うには、
「すみません、鎌倉にある美術館を
 ぜんぶ調べてみたんですが、
 マグリットの展覧会は
 一度も開催されてません」って。
はっはっはっはっは!
糸井 参ったよ。
オレのところにも
「マグリット展、やってないんですけど、
 どうしましょう?」って確認がきたんで、
やー、じゃあ、やんなかったのかもしれないすねぇ、
なんつって、そのままにしましたけど。
糸井 担当の永田くんが悩んだ末、伸坊が言った
「あと、マグリットも行ったね。」ってところを
「あと、マグリットかなんか。」って直してた。
アハハハハ、「かなんか」。
糸井 あらゆるところを「かなんか」で
いいね、「かなんか」ね。
糸井 ロシア民謡みたいだね。
そうそう。
「♪カーーーナンーーカ」
糸井 「♪カカナン、カカナン」
ふたり 「♪カカナン、カカナ!」
一同 (笑)
それで、タウン誌にね。
糸井 うん、そうだった、タウン誌に。
もう、法隆寺とは
かれこれ50年からのつき合いだと。
糸井 つき合いだと。
2回目は高校のときに行ったんだけど、
薄暗いところで百済観音が
ボーッと立ってたのを覚えてるくらいで
ほとんど覚えていないと。
糸井 うん。
そのようなことを書いて、
まだまだ、たっぷり紙幅があるんで。
糸井 ふふふふふ。
これはもう、
持ちネタでいくしかない、って‥‥。
糸井 聖徳太子だ!
「私が聖徳太子だったときの話だが」と。
一同 (笑)
糸井 はははははは!
おそらく、編集部が、わたしに、
なぜ「法隆寺とわたし」なんてタイトルで、
原稿を依頼してきたかというと、
こういうことだろう、って。
糸井 「オレが建てたんだ」と。聖徳太子として。
はははは、そうそう。「建てました」
糸井 聖徳太子に原稿発注してきたんだな。
そうそう。
糸井 で、原稿を発注してきたのは、どこ?
ええとね‥‥‥‥タウン誌。
一同 (笑)


(おもしろいけど、次回で終わりです)
2014-06-27-FRI
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写真:山口靖雄
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN