みんなの「うれしい」が、ごちゃまぜになる場所。

PROFILE

大橋歩さんと語る、「生活のたのしみ展」のこと。

大橋歩

イラストレーター、デザイナー、エッセイスト。
1940年生まれ。多摩美術大学卒業。1964年「平凡パンチ」創刊号から専属で7年半、表紙を担当。1972年からフリーとなり、雑誌や広告等で幅広く活躍を続け、多数のエッセーも執筆。2010年にファッションブランド「a.」(えーどっと)を立ち上げ、そのアイテムやグッズとともに、身につけるクリエイティブを紹介するギャラリー&ショップを、東京(IO SHOP)と京都(io+)で運営。「ホワイトボードカレンダー」「やさしいタオル」「ほぼ日ハラマキ」「hobonichi + a.」など、ほぼ日とのコラボも多数。

大橋さんの銅版画。

糸井
今日は、
次の「たのしみ展」に出してくださる作品を、
持ってきていただいてるんですよね。

見てもいいんですか?
大橋
いやぁ、お恥ずかしいんですけど。
──
じゃあ、ちょっとテーブルの上に
並べてみましょうか。

(作品をテーブルの上に並べる)
糸井
あらら、あらら。
かわいい犬や猫がいっぱい(笑)。

ちょっと、じっくり見てもいいですか。
大橋
恥ずかしくて、汗が出ちゃいそう(笑)。
糸井
‥‥はぁ、いいなぁ、この絵。
あははは、このコもかわいい。
(絵をじっくり見ながら)
うん‥‥すごくいいと思います。
大橋
ほんとに? なんかヘンじゃない?
糸井
いえいえ。
これって、ぜんぶ版画なんですか?
大橋
はい、銅版画です。
糸井
そうですか、すごくいいと思います。

次の「たのしみ展」の会場には、
何枚をご用意いただけるんでしょうか。
大橋
会場で買えるのが、
20枚中の3枚‥‥だったかな。

店内にはわたしが
所有するぶんを飾るつもりです。
(乗組員を見ながら)‥‥でしたっけ?
──
はい、そうです。残り17枚に関しては、
ウェブサイトでの販売になります。
糸井
ちなみに、これらの絵は、
今回のためにお描きになったんですか?
大橋
そうです。
糸井
わあ、それはすごいことです。
──
じつは、大橋さんには、
前回の「『食べる』の絵のお店」が
とても好評だったので、
同じ店を出していただこうと思ったんです。

絵も少し残っているとうかがったので。
糸井
ああ、なるほど、第2弾としてね。
──
はい、第2弾として。

そしたら大橋さんが
「せっかくなら
新しいことをやらせてほしい」って。
糸井
そうでしたか。
大橋
はい。
──
で、それから、次は何の絵を描こうか、
いろいろ考えてくださって、
それで今回は「犬と猫」になりました。
大橋
そうです、そうです。
糸井
生きものはいいですよ、やっぱり。
大橋
そうなんですよね。とくに犬や猫って、
自分ちで飼ってる人たちが、
ちょっと似てるだけでも
「うれしい」って思ってくれるでしょ。
糸井
それはあります。絵を見るときって
「どう描いてあるか」と
「何が描いてあるか」が、
いっしょに見えてきますもんね。
大橋
ええ。
糸井
その「何が描いてあるか」の部分を
大切にする人ってけっこういますから。

犬や猫が描いてあるだけで
「わぁ、たのしい、うれしい」って、
そういう気持ちになりますよ。
大橋
前回は額縁にけっこう苦労したので、
今回はすべて同じ大きさにしました。

村上春樹さんのエッセイ集
『村上ラヂオ』の挿絵を描いたときと
同じサイズにしています。
糸井
大橋さん、銅版画の表現って、
いつごろからおやりになってたんですか?
大橋
いちばんはじめは、
知り合いがギャラリーをオープンしたときに、
そこで売るものを‥‥ということで、
はじめてやりました。

それが1995年とか、96年とかかな。
糸井
これは「刷り」もご自身で?
大橋
いえ、刷り師さんにお願いしてます。
糸井
そもそも、銅版画って、
どういう制作の流れなんでしょうか。
大橋
まずは、銅版画用の特別な版を
刷り師さんにつくってもらうんです。

そこに「ニードル」で絵を描いて、
できあがったら
刷り師さんのところにもって行きます。
で、目の前で試し刷りをしてもらって、
そこで「あ、片っぽの目がない!」
ってなったら、その場で直したりして。
糸井
はぁー、なるほど。
大橋
『村上ラヂオ』のときは、
200枚ぐらい制作したのかな。

でも、200枚つくったからって、
べつに、上手にはならないんですよね。
糸井
そこがいいんじゃないですかね。

ご自身が「これ、どうなるんだろう?」
と思ってるところも含めて、
おもしろいような気がします。
大橋
ほんと、わからないんです。
糸井
下書きはされるんですよね?
大橋
はい、ふつうの白い紙に鉛筆でします。
下書きの時点ではもっと上手なんです。

こんなこと言うと、
言いわけしてるみたいですけど(笑)。
糸井
鉛筆は慣れてますもんね。
大橋
そうなんです。

それで、下書きと銅版の間に
カーボン紙を入れてなぞっていくと、
アウトラインが出るので、
それを頼りにニードルで描くんです。
糸井
アウトラインも、はっきりとは出ない?
大橋
うっすらって感じ。
糸井
そうやって聞くと、
銅版画って、かなり大変なものですね。
大橋
刷ってみないとわからないというのが。
糸井
フィルムカメラみたいですね。
「現像してみないとわかんない」って。
大橋
ほんとそう。
糸井
でも、何を描いてるのか、
いちいちモニターできないというのは、
いいことのような気もします。
大橋
わたしも、そう思うんです。

下書きとおりにちゃんとできない、
それがいいんだと思う。
銅版画で好きなところはそこかも。
いつもの鉛筆画とは、
ちがうものになってくれるんです。
糸井
他人がちょっと入ったみたいな。
大橋
実際に刷り師さんも入りますし。
糸井
そうかそうか。

浮世絵の世界でも、
絵師が筆で描いた「肉筆画」がいいって人も
たくさんいるけど、
ぼくは、やっぱり「版画」のほうが
いいと思っちゃうんです。
大橋
あ、わたしもいっしょです。

葛飾北斎とか歌川広重なんかも、
肉筆画をみるとちょっと
逆に「あれ?」ってなっちゃう。
糸井
ちょっと勢いが入りすぎてるというか。
大橋
うん、しつこい感じがしちゃうのかな。
でも、版画だとそのしつこさが消えて、
スマートにみえる気がするんです。
糸井
うんうん、そうなんですよね。

(あらためて作品を見て)
いやぁ、でも、これらの作品が
「たのしみ展」にザーッと並ぶわけですね。
ふふふ、すっごくたのしみ(笑)。
大橋
そうなんです。なんだかドキドキします。

(つづきます)

2017-11-03 FRI