みんなの「うれしい」が、ごちゃまぜになる場所。

PROFILE

大橋歩さんと語る、「生活のたのしみ展」のこと。

大橋歩

イラストレーター、デザイナー、エッセイスト。
1940年生まれ。多摩美術大学卒業。1964年「平凡パンチ」創刊号から専属で7年半、表紙を担当。1972年からフリーとなり、雑誌や広告等で幅広く活躍を続け、多数のエッセーも執筆。2010年にファッションブランド「a.」(えーどっと)を立ち上げ、そのアイテムやグッズとともに、身につけるクリエイティブを紹介するギャラリー&ショップを、東京(IO SHOP)と京都(io+)で運営。「ホワイトボードカレンダー」「やさしいタオル」「ほぼ日ハラマキ」「hobonichi + a.」など、ほぼ日とのコラボも多数。

人は、人に会いたい。

糸井
大橋さんの作家生活で、
前回の「たのしみ展」のような経験って、
今までにありましたか。
大橋
うーん、どうかなぁ‥‥。

わたしは出版の仕事が多かったから、
自分の机で完結しちゃうんです。
編集者の方とも話はするんだけど、
その先の人たちと話すことはないし、
接することもあんまりないんです。
糸井
なるほど。
大橋
自分の展覧会のときは、
もちろん、
いろんな方とお会いするんですけど、
「ほぼ日」読者のような、
これまであまり接点がなかった方たちが、
わたしの絵を見に来るというのは、
正直なところ、ちょっと怖かったんです。
糸井
まだ、展覧会のほうが
「こんな人がいらっしゃるかな」というのは、
イメージしやすいですよね。
大橋
それに、人前に出るのがちょっと苦手で、
自分の展覧会のときでさえ、
ごまかしているところもあるくらいです。

でも、前回の「たのしみ展」のあと、
「もっと、あの場にいればよかったなぁ」
って思ったんです。不思議なことに。
糸井
ああ、その感想は、すごくうれしいです。
そう思ってくださったってことは、
「新しい自分」に出会えたってことですから。
大橋
そうなんです。新しい自分に。
糸井
すばらしいですよ。
大橋
絵を買ってくださる方たちを、
あれほど近く感じることも、
いままでにない経験でしたね。
糸井
ぼくらも、あの会場では、
お客さんのうしろ姿をたくさん見ました。
何かを選んでいる背中、うしろ姿。

で、その人がどれだけ真剣かって、
背中で、だいたいわかるじゃないですか。
大橋
はい、わかりますね。
みなさん、ほんとに真剣だった。
糸井
真剣になる理由のひとつは
「この絵が、自分の家に来るかもしれない」
と思って見てるからだと思うんです。
大橋
ああ、そっか。
糸井
「もし、わたしが買うとしたら‥‥」
という目で絵を見てるから、
鑑賞するだけの展覧会よりもぜんぜん、
作品との距離が親しいんでしょうね。
大橋
うん、うん。
糸井
ぼくも、ああいう景色は、
あんまり見たことがなかったです。

前回の大橋さんの絵も、
「たのしみ展」という場にぴったりだったと
思うんです。絵のサイズ感そうだし、
食べ物というのも身近なモチーフだから。

第1回「生活のたのしみ展」での、
大橋さんの「『食べる』の絵のお店」。

大橋
前回の絵は、本当にたくさんのみなさんに
よろこんでいただいたんですけど、
じつは、あれ‥‥「額縁」をつくるのが
ものすごーく大変で。
糸井
あぁ、そっかそっか。そうですよね。
絵のサイズにあわせて、
額縁の大きさが、変わっちゃうから。

前回の「たのしみ展」に出品された大橋さんの絵。

大橋
そうなんです。前回の絵の残りは、
おうちにあるんですけど
ぜんぶを額に入れるのが大変だから、
いくつかの絵に関しては、
やぶって‥‥捨てちゃったんです。
──
え、ええぇーーー!
大橋
あ、でも、絵を捨てた理由は、
なにも額のことだけじゃないですよ。

もともとは書籍のために描いた絵なので、
その役目をまっとうしたものは、
基本的に処分しちゃうことが多いんです。
糸井
はああー‥‥そうでしたか。

でも、そもそも大橋さんは、
どうして、
ああいう「ちいさな額縁」に
しようと思ったんですか?
大橋
昔の話なんですけど、
銀座にある資生堂の「ザ・ギンザ」で、
『2杯めのトマトジュース』の
挿絵の展覧会をしていただいたんです。

そのとき、
資生堂さんがご存じだった額屋さんに
額をつくってもらったんです。
それがちいさくて、すっごくよかった。
糸井
ああ、そうなんですか。
大橋
その額縁が、あまりに気に入ってたので、
前回の「たのしみ展」のときに、
「こんな感じにしたいんです」って、
知り合いの額屋さんにお願いしたんです。

そしたらなんだか、
けっこう大変なことだったみたいで‥‥。
糸井
額縁って、手仕事ですもんね。
大橋
そうなんです。
しかも、ああいうちいさいサイズだと、
額屋さんのもうけもすくないし、
ちょっと‥‥もうしわけないなあって。
糸井
額縁にそんな背景があるって、
みんな、あんまり知らないでしょうね。
つい、絵ばかりを見ちゃうから。
大橋
そうですよね。
糸井
あみぐるみ作家のタカモリ・トモコさんも、
撮影を終えたあとの作品たちのことを
「ずっと家にあってもしょうがない」って。
で、あるとき
「いつか、ぜんぶほどこうと思ってる」と、
そうおっしゃったことがあったんです。
大橋
え、そうなんですか。
糸井
ぼく、そのことを聞いて
「え? ちょっと待ってください!」って。
大橋
そうなりますよね(笑)。
糸井
作品をぜんぶ毛糸に戻しちゃったら、
なんだか、時間もいっしょに
消えちゃうような気がしたんですよ。
大橋
うん、うん。
糸井
だから、そうじゃなくて
「ほぼ日」で1体ずつ、展覧会みたいにして、
タカモリさんの作品を売ることにしたんです。

そういう「場」をつくれたら、
作品をほしがっている人に、出会えますから。
大橋
なるほど。
糸井
あの「たのしみ展」にも、
じつは、そういうところがあるんです。

ぼくは、前回の会場にいて、
「人は、人に会いたいんだなあ」
ということを
あらためて、ものすごく感じたんです。
大橋
あぁ、そうかもしれない。
糸井
作家はお客さんに会いたいし、
お客さんも
未知の作家や作品に会いたい。

そして、作家同士だって
きっと「会いたい」んですよ。
大橋
そうそう、ほんとそうなの。

わたしも会場をぐるっと歩きながら
「あの人はああいう人なんだ」って、
こっそり見てまわってました(笑)。
糸井
ああ、そうでしたか(笑)。

だから「生活のたのしみ展」という空間は、
どこか興味や志が似た人同士の
「出会いの場所」でもある気がするんです。

(つづきます)

2017-11-02 THU