 
         
       
      
           
           
       
      
        
           
         
      
      
      
        
        
          泰蔵さんに、叱られて。
        
        
          
          	
          		- ──
- 一見、最新テクノロジーの塊みたいな
 芹澤さんのプランターですけど、
 心臓部に
 「おじいちゃんのプランター」があって、
 そのことが、いいなあと思います。
 
 
 
 何か「魂」が宿ってるって感じがして。
          		- 芹澤
- はい、気持ちの部分も当然ありますけど、
 実際、祖父のつくった
 水と空気の循環システムは優秀なんです。
          		- ──
- 考えの順番としては、
 そもそもプランターの会社だったから、
 「先代からの資産を活かして、
 もっとすごいプランターをつくろう」
 と思ったってことですか?
          		- 芹澤
- ええ、おっしゃるとおり、
 まずはそこが先行していたんですけど、
 はじめたころは、
 まだまだ未熟だったなあと思います。
          		- ──
- 未熟。
          		- 芹澤
- 発想が、プランターだけに閉じていて。
 
 
 
 野菜を中心にコミュニケーションするという
 いまのような広がりにまで、
 思いや考えが至っていなかったんです。
          		- ──
- ITじかけのプランターを開発しようと
 考えついたのは、いつごろですか?
          		- 芹澤
- 2011年くらいから、心に抱いてました。
 震災の前後ですね。
 
 
 
 で、それからずっと、
 ハードとしてのプランターをつくることに
 集中していたんですが、
 昨年2017年のはじめごろに、
 いまのような発想に発展していきました。
          		- ──
- ようするに、プロジェクトが
 「野菜を育てて、食べて、交流する」
 方向へ深まっていった、と。
          		- 芹澤
- プランターって、どんなにすごくても、
 やはり「ツール」なんですよね。
 
 
 
 そうではなくて、
 新しいカルチャーをつくらなかったら
 ダメだなあと思い直して。
          		- ──
- 芹澤さん、会社を継ぐ前は
 モバイルコンテンツの開発会社に
 いらしたそうですが、
 そのときの経験も大きいですか?
          		- 芹澤
- 大きいと思います。
 あの、「艦これ」ってありますよね。
          		- ──
- 「艦隊これくしょん」?
          		- 芹澤
- あの野菜版ができないかなと、最初は。
          		- ──
- つまり、キャラを育てるみたいな?
          		- 芹澤
- そう、タネをまいたり水をあげたりすると、
 自分のキャラクターが育っていくという。
 
 
 
 で、2014年に、そんなアイディアを、
 (孫)泰蔵さんのところへ持って行ったら
 真剣な顔で
 「それは、ちがうと思います」と。
          		- ──
- 叱られて?
          		- 芹澤
- 叱られました(笑)。
 
 
 
 「これからの食の問題に取り組める、
 世界に通用するプラットフォームになる
 可能性がありそうなのに、
 キャラクターを育てる‥‥?」
 「そういうことは、
 これが、本当に世界に広がってから、
 やったほうがいいのではないですか」
 ‥‥と。
          		- ──
- おお(笑)。‥‥で、それが、きっかけで。
          		- 芹澤
- はい、根本から考え直しました。
 で、いまのプロジェクトになったんです。
          		- ──
- たしかに、単にキャラを育てるゲームとは、
 スケールがちがう感じがしますね。
          		- 芹澤
- 従来の大規模農業を
 「マクロファーミング」と定義するならば、
 ぼくたちが目指しているのは、
 「マイクロファーミング」
 「分散型ベジテーション」と言いますか。
 
 
 
 しかも
 それを「都会から」はじめたいんですよ。
          		- ──
- ええ。
          		- 芹澤
- 新規就農者って、増えてはいるんですが、
 辞めていく人も多いんです。
 
 
 
 いわゆる「アグリテック」なんて言葉も
 みんなが使ってますけど、
 既存の中央集権型の農業の枠組み自体は、
 変わっていないわけです。
          		- ──
- 芹澤さんのプロジェクトは、
 既存の農業と「棲み分け」られますか?
          		- 芹澤
- 新しい農の楽しみ方を提案することで、
 バランスをよくすることが
 できるようになったらいいと思います。
 
 
 
 世界の人口と食糧事情を考えれば、
 この先、農家さんだけに頼り切るのは
 難しくなってくるだろうし、
 であれば、
 ぼくらは、野菜を真ん中において、
 みんなで育てて、
 楽しくコミュニケーションをしながら
 ゆるやかにでも、
 食糧問題に資する世界をつくれたらと。
          		- ──
- じゃ、実現にするには、
 とにかく、たくさんの人が取り組んで、
 少しでも、自分で
 自分の野菜をつくることが重要ですね。
          		- 芹澤
- そうなるよう、がんばっています。
          		- ──
- これって、ビジネスとしては、
 「プランターを売る」ってことですよね。
          		- 芹澤
- そうですね。
 
 
 
 マンションデベロッパーさんらと組んで、
 ぼくらのプランターが
 標準でついているマンションなんかも
 プランニングしていきますが、
 あくまでも単純に、
 スマートフォンみたいに
 「月々2980円、24回払い」などで、
 プランターをお売りするのが基本ですね。
          		- ──
- ああ、そういうお値段なんですか。
          		- 芹澤
- はい。
          		- ──
- あの、ぼくたちのところにも、
 アナログとデジタルを連動させる商品が
 あるんです。
 
 
 
 ほぼ日のアースボール、
 という、ボール型の地球儀なんですけど。
          		- 芹澤
- あ、知ってます。
          		- ──
- ビニールでできたやわらかい地球儀に
 スマートフォンをかざすと、
 デジタルコンテンツが出てくるんです。
 
 
 
 AR部分の評判もいいんですが、
 単純に「地球儀型のボール」の部分も、
 おもしろがられていまして。
          		- 芹澤
- わかります。信頼性があるっていうか、
 気がるに遊べるボールだけど、
 内容はおもちゃっぽくないですもんね。
          		- ──
- そう、地球儀という、
 もともと信頼あるものの精度を保ちつつ、
 あえて「やわらかく」つくってます。
 
 
 
 で、そういう「信頼」の上に、
 新しい時代の「遊び」を載せるのが‥‥。
          		- 芹澤
- そう、可能性を感じますよね、すごく。
 
 
 
 ぼくたちも、祖父のプランターという、
 信頼ある製品をベースに、
 「みんなで育てて、みんなで食べよう」
 という新しい野菜のカルチャーを
 つくっていきたいと思っているんです。
          		- ──
- 実際の「モノ」があるってことが、
 やっぱり重要だってこと、ありますよね。
          		- 芹澤
- 冒頭でお話しましたが、
 ニューヨークのブルックリンなどでは、
 畑のついたレジデンスが、
 もう、かなり普及してきているんです。
 
 
 
 マンションの中庭が菜園になってたり。
          		- ──
- へぇ。
          		- 芹澤
- ロンドンでも、
 2012年のロンドン五輪のときに、
 2012ヶ所の菜園を、
 ロンドン中につくったんですよ。
          		- ──
- そんなに?
          		- 芹澤
- その後、さらに数は増えていますね。
 もう2700箇所以上、かな。
 
 
 
 いまや、総面積78万平米まで広がり、
 10万人のボランティアが関わっていて、
 80トン‥‥つまり100万食分の食糧が、
 生産されているというんです。
          		- ──
- すごい。
          		- 芹澤
- 金額にしたら「1億円」に届く勢いで。
          		- ──
- そんな規模なんですか。
          		- 芹澤
- そういう「アーバンファーミング」って、
 これから、きっと、
 都市のスタンダードになると思います。
          		- ──
- 東京って、案外、緑が多いと思うんです。
 
 
 
 幹線道路の脇には街路樹が植わってるし、
 新しいマンションには植栽があるし、
 なにより、そのど真ん中には、
 「皇居」という、広大な緑がありますし。
          		- 芹澤
- ええ。
          		- ──
- でも、それらの緑と「野菜の緑」は、
 ちょっとちがいますもんね。
          		- 芹澤
- 屋上緑化には
 助成金なども出て広まりましたけど、
 そこにみんなが集まって、
 みんなで育てて、みんなで食べて‥‥
 というものではないですね。
          		- ──
- ええ。
          		- 芹澤
- もともと、われわれ日本人には、
 自分たちで育てた野菜を
 自然からの恵み、
 自然からのギフトと考えて、
 「たくさんできちゃったから、どうぞ」
 とシェアする文化がありました。
          		- ──
- おすそわけ、という名の。
          		- 芹澤
- そういう昔ながらの文化に
 便利なテクノロジーを使って立ち返る、
 立ち返るだけじゃなく、
 時代に合うように、アップデートする。
 
 
 
 ものすごいプランターというハードを
 開発するだけじゃなく、
 野菜をとりまく「文化」のひとつを、
 発明していけたらいいなと思ってます。
          		- ──
- やっぱり、おじいさんと、似てますね。
 
 
 
 だって、おじいさんは、
 形は「プランター」かもしれないけど、
 ほんとうは
 ベランダに小さな自然をつくるという
 「考え」を「発明」したわけだから。
          		- 芹澤
- ああ、そうかもしれません。
 
         
      <つづきます>
      2018-12-06-THU
      
      
      
      
      
        (C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN