はじめにおじいちゃんのプランターがあった。~ご近所の芹澤さんが、こんなことを考えている~ はじめにおじいちゃんのプランターがあった。~ご近所の芹澤さんが、こんなことを考えている~
ずーっと「ほぼ日」とおなじビルに入っていた「プランティオ」さんが、おもしろそうな仕事をしてたんですよ。何やら? 野菜を? 最新テクノロジーで?孫泰蔵さんが認めた「スタートアップ」で、代表・芹澤孝悦さんの語るビジョンや、最先端のビジネスのことは、ふだん聞かない話だし、おもしろかったんです。でも、その「最先端」の核となる部分に、芹澤さんのおじいさんが何十年も前に考えた「プランター」が、あった。そのことに、しみじみ、感じ入りました。担当は「ほぼ日」の奥野です。全4回、どうぞ。 ずーっと「ほぼ日」とおなじビルに入っていた「プランティオ」さんが、おもしろそうな仕事をしてたんですよ。何やら? 野菜を? 最新テクノロジーで?孫泰蔵さんが認めた「スタートアップ」で、代表・芹澤孝悦さんの語るビジョンや、最先端のビジネスのことは、ふだん聞かない話だし、おもしろかったんです。でも、その「最先端」の核となる部分に、芹澤さんのおじいさんが何十年も前に考えた「プランター」が、あった。そのことに、しみじみ、感じ入りました。担当は「ほぼ日」の奥野です。全4回、どうぞ。
芹澤孝悦さんプロフィール
第3回
泰蔵さんに、叱られて。
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──
一見、最新テクノロジーの塊みたいな
芹澤さんのプランターですけど、
心臓部に
「おじいちゃんのプランター」があって、
そのことが、いいなあと思います。



何か「魂」が宿ってるって感じがして。
芹澤
はい、気持ちの部分も当然ありますけど、
実際、祖父のつくった
水と空気の循環システムは優秀なんです。
──
考えの順番としては、
そもそもプランターの会社だったから、
「先代からの資産を活かして、
 もっとすごいプランターをつくろう」
と思ったってことですか?
芹澤
ええ、おっしゃるとおり、
まずはそこが先行していたんですけど、
はじめたころは、
まだまだ未熟だったなあと思います。
──
未熟。
芹澤
発想が、プランターだけに閉じていて。



野菜を中心にコミュニケーションするという
いまのような広がりにまで、
思いや考えが至っていなかったんです。
写真
──
ITじかけのプランターを開発しようと
考えついたのは、いつごろですか?
芹澤
2011年くらいから、心に抱いてました。
震災の前後ですね。



で、それからずっと、
ハードとしてのプランターをつくることに
集中していたんですが、
昨年2017年のはじめごろに、
いまのような発想に発展していきました。
──
ようするに、プロジェクトが
「野菜を育てて、食べて、交流する」
方向へ深まっていった、と。
芹澤
プランターって、どんなにすごくても、
やはり「ツール」なんですよね。



そうではなくて、
新しいカルチャーをつくらなかったら
ダメだなあと思い直して。
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──
芹澤さん、会社を継ぐ前は
モバイルコンテンツの開発会社に
いらしたそうですが、
そのときの経験も大きいですか?
芹澤
大きいと思います。
あの、「艦これ」ってありますよね。
──
「艦隊これくしょん」?
芹澤
あの野菜版ができないかなと、最初は。
──
つまり、キャラを育てるみたいな?
芹澤
そう、タネをまいたり水をあげたりすると、
自分のキャラクターが育っていくという。



で、2014年に、そんなアイディアを、
(孫)泰蔵さんのところへ持って行ったら
真剣な顔で
「それは、ちがうと思います」と。
──
叱られて?
芹澤
叱られました(笑)。



「これからの食の問題に取り組める、
 世界に通用するプラットフォームになる
 可能性がありそうなのに、
 キャラクターを育てる‥‥?」
「そういうことは、
 これが、本当に世界に広がってから、
 やったほうがいいのではないですか」
‥‥と。
写真
──
おお(笑)。‥‥で、それが、きっかけで。
芹澤
はい、根本から考え直しました。
で、いまのプロジェクトになったんです。
──
たしかに、単にキャラを育てるゲームとは、
スケールがちがう感じがしますね。
芹澤
従来の大規模農業を
「マクロファーミング」と定義するならば、
ぼくたちが目指しているのは、
「マイクロファーミング」
「分散型ベジテーション」と言いますか。



しかも
それを「都会から」はじめたいんですよ。
──
ええ。
芹澤
新規就農者って、増えてはいるんですが、
辞めていく人も多いんです。



いわゆる「アグリテック」なんて言葉も
みんなが使ってますけど、
既存の中央集権型の農業の枠組み自体は、
変わっていないわけです。
──
芹澤さんのプロジェクトは、
既存の農業と「棲み分け」られますか?
芹澤
新しい農の楽しみ方を提案することで、
バランスをよくすることが
できるようになったらいいと思います。



世界の人口と食糧事情を考えれば、
この先、農家さんだけに頼り切るのは
難しくなってくるだろうし、
であれば、
ぼくらは、野菜を真ん中において、
みんなで育てて、
楽しくコミュニケーションをしながら
ゆるやかにでも、
食糧問題に資する世界をつくれたらと。
写真
──
じゃ、実現にするには、
とにかく、たくさんの人が取り組んで、
少しでも、自分で
自分の野菜をつくることが重要ですね。
芹澤
そうなるよう、がんばっています。
──
これって、ビジネスとしては、
「プランターを売る」ってことですよね。
芹澤
そうですね。



マンションデベロッパーさんらと組んで、
ぼくらのプランターが
標準でついているマンションなんかも
プランニングしていきますが、
あくまでも単純に、
スマートフォンみたいに
「月々2980円、24回払い」などで、
プランターをお売りするのが基本ですね。
写真
──
ああ、そういうお値段なんですか。
芹澤
はい。
──
あの、ぼくたちのところにも、
アナログとデジタルを連動させる商品が
あるんです。



ほぼ日のアースボール、
という、ボール型の地球儀なんですけど。
芹澤
あ、知ってます。
──
ビニールでできたやわらかい地球儀に
スマートフォンをかざすと、
デジタルコンテンツが出てくるんです。



AR部分の評判もいいんですが、
単純に「地球儀型のボール」の部分も、
おもしろがられていまして。
芹澤
わかります。信頼性があるっていうか、
気がるに遊べるボールだけど、
内容はおもちゃっぽくないですもんね。
──
そう、地球儀という、
もともと信頼あるものの精度を保ちつつ、
あえて「やわらかく」つくってます。



で、そういう「信頼」の上に、
新しい時代の「遊び」を載せるのが‥‥。
芹澤
そう、可能性を感じますよね、すごく。



ぼくたちも、祖父のプランターという、
信頼ある製品をベースに、
「みんなで育てて、みんなで食べよう」
という新しい野菜のカルチャーを
つくっていきたいと思っているんです。
写真
──
実際の「モノ」があるってことが、
やっぱり重要だってこと、ありますよね。
芹澤
冒頭でお話しましたが、
ニューヨークのブルックリンなどでは、
畑のついたレジデンスが、
もう、かなり普及してきているんです。



マンションの中庭が菜園になってたり。
──
へぇ。
芹澤
ロンドンでも、
2012年のロンドン五輪のときに、
2012ヶ所の菜園を、
ロンドン中につくったんですよ。
──
そんなに?
芹澤
その後、さらに数は増えていますね。
もう2700箇所以上、かな。



いまや、総面積78万平米まで広がり、
10万人のボランティアが関わっていて、
80トン‥‥つまり100万食分の食糧が、
生産されているというんです。
──
すごい。
芹澤
金額にしたら「1億円」に届く勢いで。
──
そんな規模なんですか。
芹澤
そういう「アーバンファーミング」って、
これから、きっと、
都市のスタンダードになると思います。
写真
──
東京って、案外、緑が多いと思うんです。



幹線道路の脇には街路樹が植わってるし、
新しいマンションには植栽があるし、
なにより、そのど真ん中には、
「皇居」という、広大な緑がありますし。
芹澤
ええ。
──
でも、それらの緑と「野菜の緑」は、
ちょっとちがいますもんね。
芹澤
屋上緑化には
助成金なども出て広まりましたけど、
そこにみんなが集まって、
みんなで育てて、みんなで食べて‥‥
というものではないですね。
──
ええ。
芹澤
もともと、われわれ日本人には、
自分たちで育てた野菜を
自然からの恵み、
自然からのギフトと考えて、
「たくさんできちゃったから、どうぞ」
とシェアする文化がありました。
──
おすそわけ、という名の。
芹澤
そういう昔ながらの文化に
便利なテクノロジーを使って立ち返る、
立ち返るだけじゃなく、
時代に合うように、アップデートする。



ものすごいプランターというハードを
開発するだけじゃなく、
野菜をとりまく「文化」のひとつを、
発明していけたらいいなと思ってます。
──
やっぱり、おじいさんと、似てますね。



だって、おじいさんは、
形は「プランター」かもしれないけど、
ほんとうは
ベランダに小さな自然をつくるという
「考え」を「発明」したわけだから。
芹澤
ああ、そうかもしれません。
写真
<つづきます>
2018-12-06-THU