はじめにおじいちゃんのプランターがあった。~ご近所の芹澤さんが、こんなことを考えている~ はじめにおじいちゃんのプランターがあった。~ご近所の芹澤さんが、こんなことを考えている~
ずーっと「ほぼ日」とおなじビルに入っていた「プランティオ」さんが、おもしろそうな仕事をしてたんですよ。何やら? 野菜を? 最新テクノロジーで?孫泰蔵さんが認めた「スタートアップ」で、代表・芹澤孝悦さんの語るビジョンや、最先端のビジネスのことは、ふだん聞かない話だし、おもしろかったんです。でも、その「最先端」の核となる部分に、芹澤さんのおじいさんが何十年も前に考えた「プランター」が、あった。そのことに、しみじみ、感じ入りました。担当は「ほぼ日」の奥野です。全4回、どうぞ。 ずーっと「ほぼ日」とおなじビルに入っていた「プランティオ」さんが、おもしろそうな仕事をしてたんですよ。何やら? 野菜を? 最新テクノロジーで?孫泰蔵さんが認めた「スタートアップ」で、代表・芹澤孝悦さんの語るビジョンや、最先端のビジネスのことは、ふだん聞かない話だし、おもしろかったんです。でも、その「最先端」の核となる部分に、芹澤さんのおじいさんが何十年も前に考えた「プランター」が、あった。そのことに、しみじみ、感じ入りました。担当は「ほぼ日」の奥野です。全4回、どうぞ。
芹澤孝悦さんプロフィール
第4回
みんなでごはんを食べる、
楽しさ。
写真
──
芹澤さんが
モバイルコンテンツの開発会社を辞めて
実家のセロン工業を継いだきっかけは、
何だったんでしょうか。
芹澤
直接的には、親父が倒れたからですね。
──
2代目が。
芹澤
危ないかもしれないと言われたんです。



エンタメ業界、IT業界の仕事は
本当に楽しかったので、
残念ではあったんですが‥‥。
決めてからは、もう四苦八苦しながら。
──
それは「畑ちがい」だったから?
芹澤
それもありましたけど、
「花の業界」を目の当たりにしたら、
まぁ‥‥厳しかったんです。
──
花が売れない?
芹澤
はい。みんな、花、買わないんです。



営業からはじめたので、
地方の市場や大田市場をまわっても、
マーケットがシュリンクしてまして。
──
そうでしたか。
芹澤
自分の会社の経営も厳しくて、
これは、花だけじゃ立ち行かないぞと
思っていたときに、
ふと、祖父のプランターに、
最先端のテクノロジーを載せたら‥‥
どうだろうと思ったんです。



2011年、2012年くらいのことです。
写真
──
いまでこそ「IoT」という言葉が
ありますけど‥‥。
芹澤
当時は、まだ、なかったと思いますね。



あったとしても、少なくとも、
いまほど有名じゃなかったと思います。
──
そうですよね、きっと。
芹澤
で、ちょうどそれくらいの時期に
花業界の方々から
「男性から女性に花を贈る
 フラワーバレンタインという活動を
 はじめるんだけど、
 いっしょにやらない?」と誘われて。



もうクローズしてしまったんですけど
「花贈りnavi」といって、
いまいる場所から
近くの花屋がわかるアプリを開発して、
リリースしたんです。
──
それが現在の展開へとつながる端緒に?
芹澤
ええ、同じくらいの時期から、
いまのビジネスを構想しはじめました。
──
老舗プランター屋さんの三代目だけど、
もともとモバイルコンテンツの会社で、
「そっち側の人」だったんですものね。
芹澤
さらに前は、ジャズミュージシャンを
目指していたんですけど(笑)。
写真
──
えっ?
芹澤
ジャズサックスと
ジャズピアノを真剣にやってたんです。
──
いろんな過去があるなあ(笑)。
芹澤
わざわざ、東海大学のジャズ研‥‥
日本でいちばん
ジャズミュージシャンを輩出している
大学に入って、
年がら年中、音楽ばっかりやっていて、
ビジネスマンになるなんて、
1ビットも考えたことなかったんです。
──
単位が「ビット」(笑)。



でも、やってらした音楽自体は、
どっちかというと、アナログですよね。
サックスとピアノなら。
芹澤
いえ、パソコンで音楽をつくる
デスクトップミュージックだったんです。



それで、大学卒業後は、
ケータイの着信メロディの制作会社に
入りまして、
サウンドディレクターをやってました。
写真
──
つまり、つねに音楽とコンピューターが
そばにある人生だったってことか。



そこまでの人生には、
プランターの「プ」の字も感じませんね。
芹澤
脳裏に存在しなかったです(笑)。
──
そうなんでしょうね(笑)。
芹澤
そもそも家業を継ぐなんて‥‥
そんな気なんか、まったくなかったです。



音楽が大好きで、
キッラキラしたITバブルの絶頂時に
業界にいたので、
思い返せば本当に申しわけないことに、
「あんなダッサイ業界に誰が行くか!」
とかって思ってました。
──
人生、わからないもんですねえ。
芹澤
ほんとです(笑)。
──
芹澤さんの野菜の集まりに参加するのは、
どういう人なんでしょうね。
芹澤
まずは、どなたでも、誰とは限らずに
参加していただけたら嬉しいですね。



ぼくらが構築する
「アーバンファーミングスポット」は
発信場所が都会だというだけで、
集まる人はどなたでも、
誰とでも楽しめたらいいなと思います。
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──
なるほど。
芹澤
ただ、そういった中でも、
興味を持っていただけたら嬉しいのは、
F1層の女性ですね。
──
なるほど。
芹澤
たとえば、はたらく女性が、
お昼休みの時間に
好きなドレッシングを持ち寄って、
アーバンファーミングスポットで
待ち合わせをする。



収穫した野菜を、
サラダランチにして楽しんだり。
──
という場面を、イメージされて。
芹澤
ママさんであれば、
お子さんと一緒に野菜を育てて、
収穫した野菜を使ったお弁当作りの
ワークショップを開いたり。



女性のみなさんが発信するものには
影響力があるので、
ファーミングスポットは
おしゃれにしちゃおうと思ってます。
写真
──
おお、急に野心的な青年実業家風の
顔つきになられて(笑)。
芹澤
はい(笑)、
自分たちで育て、自分たちで食べる。



そんなライフスタイルが
「かっこいい」と思われるような文化を
つくれたらいいなと思ってます。
──
自分も少しやってたからわかるけど、
野菜を育てるのって楽しいし、
何だか‥‥充実感があるんですよね。
芹澤
わかります。
──
知り合いが西荻でやっているんですが、
会費を払って会員になれば、
好きなときに使えるキッチンがあって、
そこでは、たとえば、
夕方になると会員が集まってきて、
みんなでごはんつくって食べるんです。



オープンキッチン、っていうのかなあ。
写真
芹澤
ええ。
──
自分は「純粋な参加者」というより
取材する人という立場で、
何度か参加したことがあるんですが、
楽しかったんです、とっても。
芹澤
そうでしょうね、きっと。
──
思い返しても「いい時間だった」と
思えるんですよ。



ほとんど知らない人と
ごはんをつくって食べたんですけど、
何を楽しいと思ったのか‥‥。
芹澤
ええ。
──
ひとつには「みんなで料理をつくる」
ということが、大きかったと思って。
芹澤
ああ、そうですよ。それ。
──
みんなでワイワイやりながら、
知らない人と、
おいしいもの目指して力を合わせる感じが、
心地よかったというか。
芹澤
やっぱり、デジタルで便利な時代でも、
人と人とが会って話してはじめて
感じられる楽しさだとか、
得られる心の平穏って、ありますよね。
──
少し前に、郡山の野菜づくりのプロの畑に
きれいなテーブルをしつらえて、
地元のシェフが、
地元の素材を使ってつくった料理を食べる、
そういうツアーを開催したんです。



あれも、何だか、ものすごくよかったです。
ぜんぜん知らない人同士が、
おいしいごはんを前に仲良くなったりして。
写真
芹澤
いわゆる「Farm to table」ですね。
──
あ、そういう言葉があるんですか。
芹澤
ええ、海外で根付いているカルチャーで、
地元でとれた素材を、
新鮮なうちにおいしく食べるというのが、
もともとの考えだと思いますけど。
──
じゃ、芹澤さんがやろうとしているのは、
その「都会版」ってことですね。
芹澤
そう、都会の真ん中で、やりたいんです。



たとえば多くの企業が入っているビルの
「タテ・ヨコの交流」って、
これまであまりなかったと思いますが、
「食」を真ん中に置けば、
すごく自然に
コミュニケーションできる気がしません?
──
屋上で焼き芋焼いてるよー、みたいな?
芹澤
そうそう。
──
そこへ集まってくる人の「肩の力」が
抜けてる感じでイメージできるのは、
そこが、ごはんの場だからでしょうか。
芹澤
そうだと思います。



みんなで育てて収穫して食べる‥‥って、
人間の本来的な営みですから。
──
そうか。そもそもね。
芹澤
自分みたいに東京で生まれ育った人間は、
「うまれつき
 緑から遠ざけられてる感じ」が、
どうしても、してしまっていたんですね。



だからこそ、
みんなで野菜を育てて、みんなで食べる、
楽しく育てて楽しく食べるという場所が、
都市にもほしいとずっと思ってたんです。
写真
──
みんなで食べるって、何なんでしょうね。



ほぼ日にも「給食の日」があるけど、
あれも、ただ「食べる」ってこと以上の
「いい時間」に、なってるもんなあ。
芹澤
食べる時間をいっしょに過ごす。



単純に、ビジネス的なことで言っても、
ランチミーティングでは
リラックスしながら交わす会話から
いいアイディアが生まれたり、
共通の趣味がわかって仲が深まるとか。
──
ええ。
芹澤
ぼくたちも、将来的には、
会社の真ん中にレストランをつくりたい。



ランチタイムをコアタイムにして、
その時間には、できるだけ全員集まって、
いっしょに、ごはんを食べるんです。
──
で、あとは、好きにはたらいてよし?
芹澤
そう。ワーキングエニウェア、
リビングエニウェアって言われますが、
ぼくたちは、
「食べること」を中心に置きながら、
そのことを、力まずに
実現できたらいいなあと思っています。
──
最先端のテクノロジーを用いてるけど、
やりたいことは
「みんなで楽しく、ごはんを食べる」。
芹澤
はい。
──
で、そういう「横文字の言葉」より前に
「おじいさんのプランターがあった」
というのが、
あらためておもしろいなあと思いました。
芹澤
そうですね。60年後の孫に、
インスピレーションを与えてくれるって、
うちのおじいちゃん、
やっぱりすごいなあって思います。
写真
<終わります>
2018-12-07-FRI