孫 泰蔵×糸井重里対談「ご近所の社長は、やっぱりすごい人だった。」 孫 泰蔵×糸井重里対談「ご近所の社長は、やっぱりすごい人だった。」
Mistletoe株式会社の孫泰蔵さんと、
糸井重里が対談をしました。
きっかけは孫さんがSNSで、糸井が尊敬する
岩井克人さんについて語っていたこと。
しかも孫さんの会社
「Mistletoe(ミスルトウ)」があるのは、
ほぼ日の事務所と同じビル。
そんな縁もあって、4月のある日、
ふたつの会社のメンバーが観客となった、
とくべつな公開対談がおこなわれました。
対談後、みんなが口々に
「おもしろかった!」と言い合った、
その日のトークをご紹介します。
(1)ふたりをつなげるもの。
糸井
じゃあ、やりましょうか。
会場
(大きな拍手)
なんだか、めちゃくちゃやりにくいですね。
最初は糸井さんとお話しさせていただけると
聞いただけだったのに、
気がついたらこんなことに(笑)。
糸井
「立ってる者は親でも使え」みたいな。
ねぇ?(笑)
糸井
だけど実は
「ふたりでご飯でも食べましょうか」とかって、
本当の話はしづらいんですよね。
親密な関係でお会いすると、
結局何も話さなかったということは
よくありますから。
そうですね、
何を話せばいいかわからなかったり、
緊張したりで。
糸井
逆に今日のように
みなさんがいてくださるほうが
「普通は初対面の人に
こんなこと聞かないだろう」
みたいなことを平気で聞けたりします。
だから実は僕は
こういう形でお会いするのって、
けっこう好きなんです。
なるほど、なるほど。
糸井
ただ今回、あらためて孫さんのことを
ネットで調べようとすると、
出ないんですね。
あ、そうですか?
糸井
見事に出ませんでした。
普段、たくさん喋ってらっしゃらないでしょう?
そうですね、あんまり。
糸井
ウィキペディアの情報くらいしか
出てこなかったです。
本も出されてない?
出してないです。
糸井
SNSも、そんなにやってらっしゃらない?
Twitterとか最近全然やってないですね。
Facebookはときどき投稿してますけど。
糸井
そうですか。僕はたまたまFacebookで、
孫さんが岩井克人さんのことを
書いているのを見て
「こんなふうにつながるんだ」
とうれしくなったんです。
もともと僕はそこまで孫さんのことを
くわしく知らなかったんですけど、
岩井さんを介してつながるというのは、
すばらしくおもしろいなと思いました。
孫泰蔵さんのFacebookの投稿より
(2017年2月19日)
勝手に経済理論の心の師匠と尊敬申し上げている岩井克人先生の2003年のインタビュー。14年も前だが、陳腐化してないどころか、今読んでちょうどいいくらい。興味のある人はぜひ読んでほしい。

・会社はこれからどうなるのか
(ほぼ日刊イトイ新聞)


特に第4回で、不況について「資本主義を生み出したおカネは、必然的に資本主義を不安定にするんです。」という言及は、学生時代に聞いてもまったくピンとこなかっただろうが、今になってみるとわかる気がする。

またその後に続く、こちらの一節にはドキッとした。
「いま、30代から40代の日本でもアメリカでも、主流派の流れでほんとに超一流の仕事をしている人たちがいます。『そういう人たちが、これからどうなるかな?』というのには、かなり興味があります。一生懸命、ある意味では世界的なひのき舞台で突っ走る。それはそれですばらしい。だが、そういう人たちも、40歳を過ぎていくと、それまで、いくら抽象的なことをやっていても、いろいろなかたちで、現実の社会に興味を持ちはじめると思うんです。ちょっと年寄り臭い言い方をしますが、そういう人が、どう変身を遂げるか。そのへんには、関心があるんですよ。特に優秀な人たちですから、変化を見てみたい。もちろん、何の影響も受けずにやりつづける人もいるかもしれませんけれど。」

僕は超一流ではまったくないが、まさに40歳を過ぎて現実の社会に興味を持って変身を遂げたという実感があるので、そのことに対して感じ入ることがあった。
(ここで先生がおっしゃってるのは経済学者のことだろうが、経済を探求するという意味では僕も同じ志はもっているつもり)
頑張ろうと思う。
僕は先生のことを本当に尊敬しているんです。
大学では経済学部だったんですが、
そのときの学部長が岩井先生だったんです。
ちゃんとお話ししたことすらなくて、
僕は授業を受けていただけですけど。
先生のお話や本から、すごく影響を受けました。
糸井
僕はあの投稿を読んで、
孫さんが岩井先生を好きだということに、
ものすごく勇気が出たんです。
読んだのはちょうど自分が
「ほぼ日を会社として整えなければいけない」
ということに汲々としている時期だったんですね。
ええ。
糸井
だけど岩井先生って、
いままでの株式会社のあり方の常識を
全部ひっくり返した人で。
その岩井先生について、孫さんみたいな方が
のびのびと書いているのを見て
「あれ? 株式会社になることって、
ここまで含まれていいんだ」
と勇気が出たんです。
そうでしたか。
糸井
はい。それで、ほぼ日の株主総会では
岩井先生にお話をしていただいたんです。
そうみたいですね。
後から知って
「行けばよかった」と思いました(笑)。
糸井
ほんとですか。
ほんとです。そのときに
「そういえば僕、ほぼ日の株も持ってないな」
と思って、株も買わせていただきました。
会場
(笑)
糸井
近所ってだけでは
インサイダーにはならないですよね?
(笑)株を買うこと自体は大丈夫ですね。
糸井
じゃあ株主総会もぜひ。
今年もおもしろいことをしようと
思ってますから。
楽しみにしています。
糸井
はい、よろしくおねがいします。
あと、ほぼ日というと僕は、
法隆寺の宮大工をやってらっしゃる
小川三夫さんのお話を読んだときに、
衝撃を受けたんです。
すばらしくおもしろくて。
糸井
小川さんとお弟子さんたちとの
「一緒に生きていく在り方」って、
いちおう会社という形態なんでしょうけど、
いまの会社の上司と部下とか、
社員と社長の在り方とは違うんですよね。
まったく違いますよね。
糸井
小川さんが好きだったら、
もしかしたら孫さんは、
塩野米松さんの記事もお好きかもしれません。
小川さんの師匠筋に当たる西岡常一さん、
それから、小川さんが育てたお弟子さんたちに
取材した話を三部作にして
『木のいのち木のこころ』という本に
された方ですね。
秋田県の角館に住んでらっしゃるんですけど、
いままで人前でものをしゃべる機会がなかった
さまざまな人たちに、
インタビューをし続けてきている人で。
あぁ、なるほど。
糸井
それですこし前、ご自身で興味を持たれて、
中国の伝統工芸の職人さんたちに
インタビューをされていたんです。
だけど日本で本にしようとしたら、
やろうという出版社がない。
売れにくいからだと思うんですけど。
そうかもしれませんね。
糸井
そこで、人々に読んでもらうには
どうしたらいいかということで、
うちにいらっしゃったんです。
それで
「ほぼ日で、ゼロ円の出版としてやりたい」
と言ってくださって。
すごい。
糸井
ほぼ日で「中国の職人」というタイトルで
検索すると読めますので。
はい、見てみます。
糸井
たぶん孫さんが興味を持つ方って、
時代が流れても、同じテーマを
ずーっとしゃべっている方々というか。
そうですね。
僕は「尊敬する人は?」というと
「二宮尊徳さん」だと思ってるんです。
二宮金次郎。
最近の若い子は知らないですけど。
本当にすごい方だっただろうなと思います。
あと、内村鑑三とかも大好きです。
糸井
日本でさまざまな会社の設立に関わった、
渋沢栄一とかはどうですか?
はい。ああいった方々は、やっぱり本当に
道を作ってこられた方々なんですよね。
糸井
「経世済民(けいせいさいみん)」と
言いますか、
「経済の構造そのものの中に
実は大きな思想が入っている」
という考え方ですよね。
二宮尊徳も、経営の概念を持ちながら
豆を作っていたという。
もう思想家ですよね。
農業に従事してらっしゃいましたけど。
糸井
だけど孫さん、そのあたりのことって、
好きでお勉強したんですか?
やっぱり、なんていうんですか。
僕の兄(孫正義氏)がね、ああいう方なので。
糸井
ああいう方(笑)。
良くも悪くもいろいろと影響を
受けているんです。
15歳離れてるので、一緒に暮らしたとかは
あまりないんですけど、
近いながら非常に客観的に
見ているようなところがありますね。
そして「すごいな」も「わけわからんな」も
両方あるんです。
(続きます)
2018-05-17-THU