スマートフォン版で見る

LIFEのBOOK ほぼ日手帳

LIFEのBOOK ほぼ日手帳

日本で生まれ育った生地 Japanese Fabric

日本の各地には、
その土地ならではの特産物があります。
地域の風土にあわせて
生まれ育った野菜、果物、植物……。
それらと同じように、
土地によってはぐくまれる
ファブリックがあります。
「ほぼ日手帳2018」では
そんな、日本各地の歴史や風土を
織り込んだ生地を使って
手帳カバーをつくりました。
岩手、高野口、尾州。
ファブリックがうまれた
3つの土地に行ってきました。

2技術と手間の集積。
高野口パイル

和歌山県は高野山のふもと、橋本市高野口町。
紀ノ川が流れ、
秋になると山々に柿がなる
この地域でつくられるのが
高野口パイルです。
布地から糸が生えているような独特の織物は、
高い技術とたくさんの工程を必要とします。
時代の変化にあわせて
なんども変化をしながら
受け継がれてきたパイル織物。
妙中パイル織物の常務、妙中正司さんに
話を聞きました。

▲妙中パイルの妙中正司さん。

――
今日はよろしくお願いします。
さっそくですが、パイルとは、
どんな生地のことなんでしょう?
妙中
パイルというのは、
織物の表面に出ている毛のことをさすんです。
表面に糸とか毛が出るようにつくられた織物、
それから編み物も含めた生地の総称を「パイル織物」といいます。
だいたいみなさん、パイルというと
タオルの表面にループした糸が出ている、
あれを思い浮かべるようなんですが、
高野口ではタオルはつくっていないんです。
このあたりでつくっているのは、
フェイクファーといわれる毛皮調のものとか、
モケットと呼ばれる電車の座席のような生地。
それからカーテンや服地に使われるベルベットなどです。
――
毛羽立っていて、さわり心地がよくて、
高級感のある生地という感じですね。
妙中
似たもので、コーデュロイや別珍という生地もありますが、
あれはヨコ糸を飛ばしてふつうの織物を織って、
あとから横糸をカットしたものにブラシをかけて毛羽立たせるんです。
作り方が違うんですね。
――
なるほど。そもそも、いつ頃からこの地域で
パイル織物がつくられるようになったんですか?
妙中
もともと、このあたりは
綿織物の盛んな地域だったんですね。
すぐ近くに紀ノ川が流れていますから、
7~8メートルも掘れば染色の水がとれるんです。
それで染色工場も増えて、染色と織物が広まった。

江戸時代に、
このあたりで川上ネルという織物が生まれたんです。
ネルというのはふつうの綿織物なんですが、
それを西洋アザミの実でひっかいて毛羽立たせて、
パイル調にしていたものを
紀州のお殿様に献上していたという
文献が残っているので、
当時からパイルの産地ではあったようです。

――
豊かな水は織物には欠かせないんですね。
妙中
たくさんの工程で水を使いますからね。
大正時代には、このあたりで再織という織物が
盛んになるんです。
チェコスロバキアで生まれた織物なんですが、
その生地を研究した人がいて、
この地域で独自に発展していったんです。
わかりやすい例でいうと、
FEILERのハンカチってご存知ですか?
――
高級なタオル地のような、
ぎゅっと目の詰まった鮮やかな花柄の。
妙中
そうです。あれが再織。
一度織ったものをタテ糸に沿って切るんです。
それを撚って、モール糸を作ります。
できあがったモール糸を横糸にして、もう一回織る。
仕上りの図案を想定して、二度目に織ったときに
その図柄になるように一度目に織っていく、
相当凝ったつくりかたの生地です。
弊社では作っていませんが、
いまもこの産地では生産しています。

▲再織の生地。とても手間がかかるが、裏表でまったく同じ柄ができる。

――
じゃあ、江戸時代からずっと、
この地域ではパイル生地の可能性を
探り続けていたわけですね。
妙中
たしかに、そうですね。
ベルベットやモケットを織りはじめたのは、
戦前の頃からだそうです。
これはどうやって織るかというと、
ふつうの織物を2枚同時に織るんです。
――
え? というと?
妙中
ふつう生地ってタテ糸とヨコ糸でできますよね。
――
はい。
妙中
そのふつうの生地を、2枚同時に上下で重ねて織る。
その2枚を縫い合わせるように、
垂直に別の経糸を、
上下の生地のヨコ糸に同時に引っかけて織っていきます。
二枚の布を繋つなげている糸の、
その垂直の糸を真ん中でカットすると、
表面に毛羽が出た生地が2枚同時にできる。

▲織り機のカッター部分。 円状のものが砥石で、カッターが往復するたびに
刃が研がれた状態で、布を2枚に切り離す。

――
ああ!
2枚の生地に糸を通して、
間をカットしたらその面にパイルが出る、
ということですね?
妙中
そうそう。
内側が表面になるんですね。
昔はね、ふつうの織物を追って、
同じように第三の糸を送って、
針金を織り込んでループをつくってたんですって。
それを、1本ずつ職人さんがカミソリで切って
パイルを作っていたそうです。
――
細かな手作業‥‥。

▲皇室の馬車に使用される、椅子のふちどりの部分。 手織りのものを再現したそう。
張り替えは20年に1度くらいだとか。

妙中
そうですね。
それを、「そんなん手でやってられへんから、
2枚同時に織ってつなげたやつの真ん中切ったら
おなじのが2枚できるやん」ということで、
ドイツで開発された機械がこの産地にも導入された。
――
今回「ほぼ日手帳」のカバーとして
つくっていただいた「Japanese Fabric 花絨毯」も
そうやってつくられたんですか?
妙中
そうです。
うちは糸から反物にするところまで
ぜんぶできるようになっています。
以前は糸染めもやっていたんですが、
最近、需要が減ってやめてしまいました。
もともとパイルの服地づくりからスタートして、
フェイクファーとか、ジャンパー用のモケットが
メインだった頃もありましたし、
毛布をつくっていた時期もあります。
一時期は売り上げの8割以上が
自動車のシートだった頃もありましたが、
いまはもうほとんどなくなりました。
いまもやっているのは、新幹線700系のシートとか、
阪急電車のシートとかね。

▲新幹線700系のシート。 複雑な糸を使って柄を織っておいて、
さらに表面にプリントをほどこす。

――
変化に対応するというか、
時代に合わせておなじパイルでも
どんどん用途が変わっているんですね。
妙中
まあ、いい言い方をすれば変化だし、
淘汰されつつあるということかもしれないし。
いまは液晶パネルをつくるための工程で使われる
ラビングクロスという特殊な布もつくっています。
――
製造工程で、パイル生地が使われるんですか?
妙中
はい。iPhoneのパネルの製造にも使われたりして、
いまは世界の3割くらいのシェアですかね。
――
すごい。

▲ラビングクロスの検品工程。たいへん細かい作業が必要。

妙中
それでなんとか息を吹き返した感じです。
それでも自動車のシートをやっていた頃からすると
売り上げは1/8くらいになりました。
でもね、新しいiPhoneはその布が必要ない方式で
つくってるんですって(笑)。
だからまたいろいろ、
新しいものをつくっていかなきゃいけない。
いまは化粧用のパフを新商品として生産したりもしています。
いまは少しずつ、何種類もの生地を
ちょっとずつつくるような感じですね。
――
それは手間がかかりますね。

▲さまざまなパイル生地。なかには100年以上前の柄を再現したものも。

妙中
多品種小ロットが当たり前になってきましたからね。
ヨーロッパのデザイナーさんが選んだ昔の生地をもってきて、
「これを再現してくれ」というような案件も
よくありますよ。
――
再現、できるものなんですか?
妙中
だいたいできますね。
国会議事堂の衆議院の椅子とか。
民主党が政権をとったときに、
「これまでのおなじものをつくってくれ」と。
――
政権が変わって、椅子の張り替えを。
妙中
そういうのもありますね。

▲国会議事堂の椅子張り生地。
部分的に持ち込まれた生地を再現した。

――
「Japanese Fabric 花絨毯」の柄は
どんなふうにつくられたものなんでしょう?
妙中
これはね、紋屋さんっていう、
織物の柄を決める紋紙というものを
作ってくれるところがあるんですが、
そこにあったストックですね。
それを、手帳用に
ちょっと柄のサイズを縮小して
つくったものです。
――
縮小って、簡単にできるものなんですか?
妙中
細かい部分もありますから、
単純に縮小するだけだと、
きれいに柄が出ない場合もある。
なので紋屋さんで柄を調整をしてもらいました。
地の糸は、タテ糸が麻で、ヨコ糸が綿です。
――
だから独特の風合いがあるんですね。
妙中
パイルの部分はアクリルです。
ベースとパイルの素材が違うと、
色の染めわけができるんです。
だからこれは染めた糸を織るんじゃなくて、
白で織りあがってきたものを、
後から染めてるんですよ。
――
そうなんですか!

▲白いほうが、染める前の生地。

妙中
ベースがかなり白かったので、
生成り色に染めたあと、
パイルの部分を専用の染料で染める。
二度染めている形ですね。
――
どこをとっても、
簡単にできているものではないですね。
妙中
パイルを織れるところは、
世界的にみてもそんなに多くないんです。
だからたまに外国の方が見学にいらっしゃったりしますけど、
織機だけ買っても同じようにはつくれないんですよね。
うちでは織機をそのまま使ってないんですよ。
生地に合わせていっぱい改良しているし、
織るのはもちろん、
後加工にも技術が必要やったりする。
なかなか真似のできないことをやっているという
自負はあります。

▲織物は縦糸の整経に時間がかかるが、柄物のパイル織物の場合、さらにパイル部分の糸の準備も必要になる。

▲織り機にセットされた紋紙。穴の開き方によって柄が変わってくる。

▲生地は向かい合わせに、内側を向いて織られる。

▲カットされた状態で織りあがった生地。

▲染めるために、隙間を空けて生地を巻く工程。手作業で行う。

▲生地にプリントするときに使う版。

▲染色工程。さきほど生地を巻いたものを、フレームごと漬けて染める。

▲生地を乾かす工程。素材によっては乾燥機が使えないものもあるため、 風通しのよい乾燥室にかけて自然乾燥させる。高い場所に人の手で生地をかける。

▲ブラッシング工程。パイル部分をブラシで整えて、表面に出てきた
よぶんな毛羽をカットする。

▲できあがった生地を巻き上げて出荷。運搬時に生地のパイルが
たおれたり、しわが出ないよう、通常の織物より丁寧な梱包が必要。

▲たくさんの工程を経て、できあがった高野口パイルの生地。

Japanese Fabric