「海のコレクション」をつづけるうちに
アイテムがひととおり揃ってきたので、
2021年のコレクションでは、
何かあたらしい展開を打ち出せたらと思っていました。
個性がしっかりあるものをつくりたくて、
それが「バブルネックレス」につながりました。

もともとわたしのなかには、海のイメージとして、
パールといっしょに「泡」もあって。
海の水にふくまれている酸素の泡だとか、
海に棲む生き物たちが出す空気の泡だとかが、
パール同様に、モチーフとしてありました。

どちらも、“海の息吹”とでもいうんでしょうか、
そういうものがぎゅっとつまったものだと思うんです。
それをジュエリーにすることで、
自然のパワーをわけてもらえる感じがします。

わたしたちがブランドをはじめたころとくらべて、
いまは、ガラス素材もふくめて
おもしろいかたちのジュエリーもふえてきて、
ユニークなデザインに対して
一般の人の抵抗がすくなくなってきていると感じます。
ですから、大胆なものをデザインするよう心がけました。

ただ、さいしょにイメージしたものに近づけるには、
素材えらびにしろ、職人さんの技術にしろ、
すごく繊細さが要求されます。
わたしが自分だけでつくるのでは到達できなくて、
生産にかかわる人たちの努力で実現できるものです。

そういう意味でいうと、
もしこれがSIRI SIRIをはじめたころだったら、
ガラスの職人さんがすくなかったので、
このデザインはむずかしかっただろうと思います。
若い女性をはじめとして職人さんがふえてきたこともあり、
今回チャレンジしてみようと思いました。
イメージに近いものができて、うれしいです。

ガラスは透明で肌になじみやすいので、
ネックレスが肌の上に乗るようにつけてもらえたら、
このジュエリーならではのよさが出ると思います。
透明なものが肌に乗るのって、すごくきれい。
ガラスという無機物のジュエリーと肌が合わさることで、
有機的な感じになるのが好きなのです。

もちろん、位置をもうすこし下げて、
洋服とのコーディネートもたのしんでもらえたら。
色があるものに合わせても負けないですし、
逆にお互いのキャラクターが引き立つ気がします。

「ちいさなパールのピアス」のほうは、
パールって、ちっちゃくてもすごく存在感があるので、
それを活かしたデザインにしたいと思いました。
一見スタンダードなものに見えますが、
ここまでシンプルでミニマムなのは意外にない気がします。
シンプル、ミニマムであるがゆえにモダンに見える、
というふうにしたくて、そうすることで、
ジュエリーをつける人それぞれの個性を
引き出すようなものにできたらと考えました。

モダンさは、とくにキャッチの部分に出ています。
丸いキャッチとパールのフォルムに親和性があるので、
そこで一体感がうまれて、
１つの物体というかオブジェとして、
モダンに見えるんじゃないかなと思います。
このジュエリーをすごく拡大してみたら、
ピアスなのか、オブジェなのか、
わからないんじゃないでしょうか。

パールにはどうしてもフォーマルな印象がついて回るので、
いかにふだん使いできるようにするかということに、
いつも心をくだきます。

スイスでの暮らしぶりですが、コロナ禍ということもあり、
2019年の夏以来、日本には帰っていなくて、
はじめて１年以上日本にいない経験をしています。
いままであまりそんなことはなかったのですが、
日本の文化の深さとか広さとかってすごいなと、
つよく思うようになりました。
たとえば町内会でやるお祭りって、
すごい文化なんじゃないかとか。
スイスはそういうの、あんまりないんですよ。
日本食も、こんなに人生で食べたことないっていうぐらい、
よく食べていました。
やっぱり、抗えないものがあるんだなと思います。

（2020年12月　スイス・ベルンにて）