MITTANが「家でたのしむ布」をつくりました。

MITTANの展示会(セレクトショップなどのバイヤーが
次のシーズンのサンプルを見て発注をする会)に行くと、
服に使った余り布をパッチワークにした大きな布が、
インテリアとして飾られていることがあります。
また、小さな余り布は、コースターやマットにしていたり、
「布を愛するチーム」ならではのことだなぁ、
と、いつも見ていました。
でもあるとき、ふと思ったのです。
「これ、‥‥うちにもほしいな」と。
そこで三谷さんに相談をしてみると、
ちょうど同じタイミングで、
余り布の使い道に、インテリア・ファブリックがあるのでは、
と考えていたところでした。
でもじっさいに余り布だけでは数ができません。
そこで思い切って今シーズンのMITTANの
「ほぼ日」のお店では、
「布だけ」を販売することにしました。
使った糸のこと、織り方のこと、
使いみちのことなどを、代表の三谷武さんにうかがいました。

家にあるとうれしい布。

──
今回のMITTANは、衣服ではなく、
布そのものを家で使おう、という提案ですね。
こういう「布もの」っていうと、ほぼ日では
ストールのようなものはご紹介してきましたけれど、
今回はいわば「MITTAN home」のライン、
インテリアファブリックに寄ったものが多くあります。
どんなことから、こういうアイテムを
つくろうと思われたんでしょうか。
三谷
そうですね‥‥、MITTANは、
生地をとても愛しているチームなんですが、
衣服をつくることのほかに、
こういった「家で使う布」の展開も、
前から少しずつ、やってきてはいたんです。
少量ですけど、色々な生地の残布を使って
ブランケットのようなものをつくったり。
──
パッチワークのブランケットですね。
展示会で、飾りのように使われていたりしましたね。
三谷
そうですね。
でもきちんとインテリア用品を展開するのは、
あんまり経験がなかったんです。
ちゃんとやったのは、このシーズンが初めてです。
残布のパッチワークのようなブランケットを、
オリジナルのアイテムとしてあるていどの数をつくって、
を多くの方に届けられないかと。

絹掛け布 小(白黒・薄灰)

──
初挑戦。
お客さまも、待ち望んでいたのではないでしょうか。
三谷
はい、お客様から、
今回のようなMITTANのオリジナルの布を
家の中で使いたいっていうご要望もいただきました。
たとえばベッドシーツとか、間仕切りみたいなものとか。
──
三谷さんご自身も、
お家でこういう布を使ったりしていますよね。
以前、アトリエとご自宅が一緒だったときに、
ちらりと見せていただきました。
三谷
そうですね。ちょっとした掛け布みたいなものとか、
間仕切りに、いろいろと布を使っています。
布って、それ自体で存在感があるものですが、
その存在感って、家庭の中にあると、
とても気分がいいと感じるんです。
実用品で存在感があるということは、
長く使っていただく上で大事なことだと思っています。

絹掛け布 小(薄灰)

──
ある程度、面積を占めるので、
部屋の印象が変わるんですよね。
ほぼ日の「やさしいタオル」もそういう発想で、
インテリアのファブリックになるように
デザインを考えています。
三谷
なるほど。使っていてインテリア性があると
生活に彩りが加わりますよね。

絹掛け布 小(白黒)

シルクのやさしさとウールの弾力。

──
今回のアイテムは、どんなふうに生まれたんですか?
そもそも織るところから、大きいものを目指したのか、
大きい布があったからブランケットにしようと思ったのか、
発想の順番ってありましたか?
三谷
今回ご紹介する布は、タイプが2種類ですけれど、
製品になる経緯はそれぞれ同じじゃないんです。
絹と麻のジャカードは、
最初から大きいアイテムをつくろうと思って、
生地を開発していきました。
大きめの生地で見ていただいたときに、
ちゃんと存在感があるような柄になるようにと考えて。
もうひとつの、刺し子織りのブランケットのほうは、
もともと服地として開発をしていた生地です。
ほぼ日さんでもこちらの記事の冒頭で
ジャケットを紹介いただいていました。
三谷
でもインテリア用に使うことは、
特に考えていなかったんです。
──
こちらは服のための生地だったんですね。
三谷
何回か、ほぼ日さんでもご紹介いただいている、
播州の、遠孫(えんまご)織布さんとの取組みですね。
──
はい。
2021年の、三重織りのジャケットの生地も
遠孫織布さんのものでしたよね。
三谷
そうですね。
この生地のスワッチ(見本)を展示会に持って行ったら、
そこに来てらしたほぼ日のみなさんが、
「これを肌掛けにしたらいいじゃないか」とおっしゃったんですよ。
「あ、それはたしかにいいな」と思ったんです。
──
あのときが始まりだったんですか?
うれしいです。
ウールが50%、綿が25%、絹が25%。
この3種類が絶妙に組み合わさってる生地ですから、
吸湿性もいいし、
凹凸があることで肌ばなれがよいので、
敷いてもかけてもよさそうだな、と思ったんですよ。
存在感もすごくありますし。
三谷
そうですね。
三重構造になってるんですけれど、
緯(よこ)糸は、肌にふれるところはシルクです。
そして見えない中の層がウールです。

中わた刺し子織ブランケット

──
刺し子が入ってる表面のほうは。
三谷
こちらも緯糸はウールなんですけれど、
経(たて)糸にコットンを使って織ったものです。
緯糸のウールも軽いので
サラッとした仕上がりになってます。
──
ウールが高混率でも、
表面は、ほんとに綿のような感触ですね。
なるほど。これは、
シーズン問わず、気持ちいいでしょうね。
三谷
そうですね。

中わた刺し子織ブランケット(表面)

──
刺し子の糸も、シルクなんですね。
三谷
そうなんです。
刺し子の糸と、裏面のシルクには、
絹紡紬糸っていう糸を使っています。
──
生糸を紡ぐときに出る、フワフワしたのを、
もう1回紡いでつくるみたいなものですね。
三谷
そうですね。
絹って、まず生糸っていうきれいな糸をとるんですけど、
それは長さのある繊維からできるんです。
そのときに出る短い繊維を紡いだのが「絹紡糸」。
その絹紡糸をつくるときに出る、もっと短い繊維で、
更にもう1回紡績したのが「絹紡紬糸」なんです。
──
リサイクルとは違いますが、
無駄のない使い方で、
おいしい二番茶みたいな感じですね。
三谷
ほんとにそんな感じです。
繊維長は短いですけれども、
機能的にはシルクと変わりません。
というか、全く一緒なんですよ。
むしろ繊維が短いので柔らかくて肌になじむし、
空気も含むので温かみがあるんです。

中わた刺し子織ブランケット(裏面)

──
これはブランケットだから、掛け布団なんですけれど、
敷いても気持ちよさそうです。
三谷
そうですね。
──
何よりこの刺し子の存在感が、
インテリアに使うと、いい雰囲気が出せそうです。
遠目には生成りの、ちょっとニュアンスのある布。
近づくと、え、刺し子なの?! とおどろきます。
三谷さんはご自宅でお使いですか。
三谷
試験で使ってるんですけど、
やっぱり、とても気持ちいいですよ。
ウールやシルクの吸湿性や放湿性が
しっかりありますし。
──
いいですね。
これ、お洗濯は?
三谷
ご家庭では洗濯機の手洗いコースでも洗えますが、
洗濯機によって状況が異なるので、
短時間から試していただければと思います。
あ、乾燥機は使わないでくださいね。
中の層のウールが縮んでしまうので。
──
三重構造ですから、
洗うと、乾かすのには
ちょっと時間かかるでしょうね。
三谷
そうですね。でも、
脱水の時間も短めのほうがいいです。
中の層の緯糸も、綿(ワタ)みたいなウールなので、
しっかり洗ったり、高速回転で長いこと脱水すると、
結構ギュッとちぢまってしまうんです。
──
フェルト状になってしまうんですね。
三谷
はい、柔らかく紡績された糸なので、
フェルト状になりやすいものではあります。
その分ウール本来の弾力を、感じていただければ。
──
今も触ってるだけで、すごい弾力がありますから、
これをいかすように、じょうずに洗わないと。
そしてサイズは2つですね。
「シングルベッドサイズ」と「ハーフブランケットサイズ」。
寝具としては、お昼寝くらいならハーフでもいいですし、
しっかり包まれたいんだったら、フルがいい。
両方あったらパーフェクト。
ベッドのコーディネートもきれいにできますね。

中わた刺し子織ブランケット(大・小)

三谷
ハーフでも、そこそこ大きさがありますからね。
──
ソファにポンと置いておいてもいいですし、
ソファのカバーにも使えそうですね。
三谷
そうですね。広げて、ソファに。
僕はよく、ソファのアームに掛けて、
寒いときはひざかけにしたり、
どんなふうにも使えると思います。
──
ながいシーズン、ずっと、
シルクの気持ちよさが味わえます。

中わた刺し子織ブランケット(大)

絹のしっとり感とリネンのさっぱり感。

──
そして、もう1つのほうが、ジャカード。
この織り方が非常に表情をつくっています。
絹が83%、麻が17%で、
こちらは、最初からインテリア用に考えたと。
三谷
そうですね。
もともと肌掛けをつくりたくて、開発した生地です。
──
夏にもよさそうな感触です。
絹と麻の状態っていうのは、
どういう構造になっているんですか?
三谷
緯糸には、絹紡紬糸のみを3本使っています。
経糸は、リネンシルクの糸とシルクの糸を合わせて
撚り合わせた糸なんです。
──
それでこの複雑なパーセンテージに!
三谷
そうですね。
ちょっとしたシャリ感があるっていうのは、
リネンの要素が強いですね。

絹掛け布 小(薄灰)

──
そうですよね。
絹だけだったら、もう少ししっとりした感じですよね。
麻で、この張りとサッパリ感が生まれてる。
三谷
そうですね。
今、世の中に、フワフワで柔らかい布ものって
結構たくさんあるんですよね。
そうじゃなくて、もっとこう、シャリッとした、
肌当たりがしっかりしたものっていうのを、
天然繊維だけでつくってみたいと思ったんです。
──
たしかに! 肌当たりがしっかりしてる。
でもシャリシャリっていうほどでもないですね。
三谷
なんていうか、柔らかいだけじゃなくて。
そこの塩梅を調節しながらつくりました。
──
ストールにしても悪くない重さかもしれない。
三谷
はい。そうですね。
──
この織り柄が、すごいです。
どうやってつくったんですか?
三谷
「この部分はこの織り方で、こっちはこの織り方で」
っていうのを、絵を描いて指示しています。
ジャカード織りは、柄を描いたら
紋屋(もんや)さんが柄のデータをつくってくれるんです。
──
パターンを繰り返して、広い面積にする。
どこで繰り返してるかよく分からないです。
三谷
そうですね。
ひとつのパターンが結構大きいんですよ。
生地幅一杯で見ると、同じものが2つ、
左右に並んでるんですよね。
縦方向だと、柄の長さが1メートルぐらい。
これが指示書の一部です。
──
へぇ~! 面白いです。モンドリアンの絵画みたいです。
この織り柄って、人間が、手織りで
できるものなんですか?
三谷
手作業でもできるかもしれないけど、柄も大きいので
かなり大変でしょうね。
ジャカード織物って
基本的に自動織機にデータを入れてつくるものですから。
──
すごく手仕事感が溢れているのに、
人間の手ではなかなかできない。
そこが面白いです。
三谷
そうですね。
──
敢えて、縦横の直線っていうのもいいですね。
何か発想の元があったんですか?
三谷
ジャカードってなんでもできるので、
曲線を使って巨大な柄を描くみたいなこともできますよね。
じっさい、いくつか試しはしたんですけれども。
なんていうか‥‥ピンと来なかったんですよ。
あまりうちらしくもないなと思いました。
だったら、おおもとの残布のパッチワークのように、
もっと布自体の表情が生きるものがいいだろうと。
──
たしかにちょっとパッチワークっぽい柄です。
三谷
パッチワークのものは、ブランケットなどで
今まで自分が触れてきたところもありますし。
そういうものを使って、この巨大な柄を描いたら、
大きいものつくっても小さいものつくっても、
面白いんじゃないかっていうところもありました。
パターンが大きいので、たたんだときに
どこが見えるか、どこを見せるかで柄ゆきが違ったりする。
とくに今回の小さいサイズのものは、
大きく織ったものを裁断してつくっているので、
ひとつひとつ、全然違う柄になるんです。
ほんとにいっぱい、いろんな柄が出てくるので。
そういう面白さはあるかなぁと思います。

絹布巾(紺)

──
いろんなデザインがあるのは、
もとの柄が大きいからなんですね。
三谷
そうですね。
かなり変わるんですよね。
──
ちっちゃいほうは、用途としては、ハンカチですか。
三谷
はい。
ハンカチで使っていただくのがいいかな、と。

絹布巾(薄茶)

──
これを普通に使うのは、かっこいいですよ!
水とか汗も、よく吸ってくれそうです。
三谷
すごく吸いますね。
僕も使ってるんですけど、
乾くのも早いんですよ。
──
ハンカチだと、うっかり洗濯・乾燥しちゃいそう。
でも麻と絹なら、そんなに縮まないですか。
三谷
確かに縮む要素はそんなにないですが、
シルクは摩擦には弱い性質があるので、
手洗いで洗って、乾燥機にもかけない方が、
生地の負担も少なく長持ちします。
僕はふだん結構しっかり洗って乾しますが、
ときどき間違って乾燥機に入れてしまいます。
でも、そんなにすぐにへたるものではありませんよ。
──
この布、とくに小さいサイズだと、
すごくコンパクトになりますよね。
そういうところもハンカチに向いていますね。

絹布巾(紺)/四つ折りと六つ折りにしたとこ

三谷
この太さの経糸で、このサイズで
粗め、ザックリなジャカードを織れる
古い織機っていうのが、
もう国内でもほとんどないんだそうです。
──
もともとどういうものを織る織機なんですか。
三谷
カーテンとか、インテリアの生地を
専門で織られている機屋さんですね。
ちょっと服地とは違うんですよ。
──
服地にはない、適度ないい重さがありますね。
思ってたより柔らかいのも印象的です。
三谷
そうですね。
柔らかさも、ありますね。
──
ハンカチ以外にも使えそうです。
ちょっと贅沢かもしれないけど、
水を通して絞って、
お客様におしぼりとしてお出ししたり。
三谷
あぁ、おしぼりに。
──
テーブルで、ティーマットや
ランチョンマットにしてもよさそうだし。
花瓶とか、置物なんかを飾るときにも。
布そのものに雰囲気があるから、
のせたものをぐっと引き立ててくれそうです。

絹布巾(紺・薄茶)

三谷
いいですね。みなさんがそれぞれ、
どんなふうに使ってくださるか、楽しみです。
──
色によっても雰囲気が変わりますね。
家にいるのがうれしくなるような布たちです。
ありがとうございました。

(おわり)

2022-08-04-THU