3枚の布を重ねたシャツとジャケット。長く育てるほどに味が出るその秘密は生地づくりにありました。

今回、あたらしく登場した
MITTANの三重織りのシャツとジャケットは、
独自に開発した生地を使っています。

シャツは薄手の綿麻の布が3枚重なっていて、
ふわっとやさしくからだを包み込みます。
ジャケットは、ウール、綿麻、シルクの
異なる素材の3枚のジャケットを
重ね着しているかのようでいて、
実は1枚の服という、ほかにはないかっこよさ。

シャツもジャケットも、生地を織るときに、
3枚の生地をつなぐ接結糸(せっけつし)に
水溶性の糸を使ったことがポイントで、
1枚の布として縫製して服をつくったあとで、
水で洗って分離させることで完成しました。

この不思議な生地を、
MITTANと一緒に開発したのが、
兵庫県西脇市にある遠孫織布(株)さんです。
MITTANの三谷さんによるレポートをどうぞ。

織物工場の遠孫織布さんが、
デザイナーと直接、開発をはじめるまで。

三谷
今回のラインナップの中の、
「三重織綿麻シャツ」と
「三重織綿絹毛麻ジャケット」の
生地をつくってくださったのが
遠孫(えんまご)織布さんです。
社長は何代目ですか?
遠藤
遠孫織布は昭和27年の創業です。
始めたのは遠藤孫太郎って、僕のひいじいさんで。
遠藤の遠と孫太郎の孫の字を取って、遠孫。
僕で4代目ですね。
僕が継いだのが、ちょうどバブルのころ。
MITTANの三谷さん(左)と、遠孫織布(株)の社長の遠藤さん(右)。
三谷
産地としても、一番盛り上がってたころですか。
遠藤
あのころが一番、ピークやったんやろね。
そのピークのときに、工場を継ぎましたね。
1年だけ、違うとこに就職してて。
帰ってきたとたんに、バブルが弾けたんです。
それでも20歳で継いだ頃は、
仕事も切れずにあったんで。ただただ、
産元からもらった企画を織るっていうのがずっと。
三谷
産元って、つまり商社ですよね、
そこからの受注生産、
賃織りというかたちで
代々ずっとされていたんですか。
遠藤
そうですね。
バブルが弾けた後、
仕事がちょっと減りはしたんやけど、
まあ、続いてはいたんですよ。
それがリーマンショックあたりから、
一気に仕事も減り。
35歳ぐらいのとき、仕事がなくなり。
そのころは親父とケンカもしたし。
仕事のことでも反発をしたりとか。
このまま続けていけんねやろか、
そういう葛藤もあったりして。
それで、40歳手前ぐらいで、
播州の織物工場さんたちが
展示会に出てるのを知って、
一緒に出させてもらったんですね。
三谷
そこからオリジナルのものづくりが
始まったんですか。
遠藤
そうやね。
当時、いろいろ出してみたんですけど、
全然反応もなく。
3年経ったころに、
はじめてお客さんが決まったんですよ。
そのあと続けて2、3件、
バーッと決まったりして。
産元からの請負仕事もずっとしながら、
いっぽうで自販の方も始めたんです。
三谷
そこが続いて今にいたるという感じなんですね。
遠孫さんの作る生地を見てると、
播州の中でも変わってるな、
という印象がすごくあります。
遠藤
いやあ、こうなったのもね、産元の丸萬と、
コラボしている梶原さんの影響が大きかったですね。
最初に工場に来はったときは、
暑い中、色を選んだりとかされているのを
僕らは見てて、
なんでこの色とこの色が合うんだろうとか、
色の感覚がもう一つわからんかったんですけど。
一緒に仕事してたら、
あ、意外とこの色とこの色合うねんなぁ、とか、
これとこれ合うのか、みたいなふうに。
だんだんわかってくるんですよね。
三谷
梶原さんのお仕事、すごいですもんね。
でも遠孫さんも、すごいなぁと思います。
展示会で、こんなにバリエーションが
見られることってあんまりないですよ。

難しいけど、自分たちも成長できる。

三谷
産元さんから請け負う仕事と、
直接取引で、
デザイナーさんと一緒に作るのとでは、
かなり違いがあるんだろうと思うんです。
直接取引って、手間とか考えると、
大変だろうなと。
藤岡
まあ、大変ですね。
産元さんの仕事は、指示が来て、糸が来て、
言われた通りに織るのが仕事です。
直接、デザイナーさんたちと作るのは、
デザイナーさんがやりたいことをどう実現するか
こっちも考えてご提案しないといけないから、
そこが難しいところでもあり、
自分たちが成長できるところでもあり。
自分たちでデザインするなら、
面倒くさいと思うようなことでも、
お客さんの仕事だったらやるんですよ。
そこで、
「あ、こうやったら、こんなことができるのか」
という発見もあるし。
大変だし、難しいけど、成長もあるな、と思います。
藤岡さん(左)と遠藤さん(右)。
遠藤
まあ、織るまでがね。
織り始めたら、まあええねんけど。
相手と話したり、こうや、ああや言うて、
ちょっと試しに織っては、またこうしたりっていう、
その織るまでの時間がやっぱりかかるな。
藤岡
かかりますね。
でも、デザイナーさん側からしたら、
それができるのが、
織物工場と直接取引していただくことの
利点なのかなと思って。
「ちょっと織ってみて送るわ」、
「ちょっと色変えて送るわ」
そんなことができるのはめずらしいと思うので。
直接取引だからこそ、細かく小回り利かせて
対応していくっていう方向性で、
今がんばってます。
遠藤
もうね、そら、ほんまに産元さんから来た方が、
手間も要らんし。
それでまあ、機械がそっちで動いとる間に、
直接取引の手間のかかることができるんであれば、
どちらもできていいかなとは思うし。
三谷
そうですよね。
藤岡
直接取引は、
最終の形が見えるのがうれしいですよね。
産元さんの仕事って、
作った生地がどこへ行って、何になったのか、
もうわからないこともあるので。
遠藤
そうやなぁ。
藤岡
デザイナーさんが、「ここで織ってます」って
言ってくださることって、ほんとにありがたいし。
やっぱり織物工場って裏方なんで、
一般の人からしたら知らない存在で、
想像もしないというか、
生地があることは当たり前っていうか。
「人が作るって言ったって機械がやってるんでしょ」
みたいな感じじゃないですか。
三谷
そういうところは、ありますね。
藤岡
三谷さんは、生地まで、背景までこだわって、
どういうところで誰が織っててみたいなことを
全部説明していらっしゃる。
そうすることで、
もっと製品の良さが伝わるはずだし、
もっと選ばれていくんじゃないかなって思ってます。
私の、個人の意見ですけど。
遠藤
僕は、昔からやってるせいか、
あまり価値を感じなかったけど。
ほんま、藤岡は、すごい生地の価値を、
「こんなんがオリジナルで作れるのは、
すごいことや」みたいなことを言うから。
最初は「へえー」(笑)。
まあ刺激もすごい受けてますね。
三谷
うちが、背景を伝えようとしてるのは、
それを知ったほうが、
物を大事にするんじゃないかなって思ってて。
機械からポンと出てきてるんじゃないか、
と思われるのと、
こうしておふたりが関わってきたというのを知って、
その上で着るのとでは、やっぱり違うじゃないですか。
藤岡
違うと思います。
三谷
そういうことが正確に伝わるというのが、
大事なんじゃないかなと、うちなりに、ですけど、
できる形でやっているという感じですね。
その流れ自体は、
これからもっと大きくなるのかなとは思っています。
三重織の生地を織っているところ。

三重織の生地を使ったジャケットが完成。

三谷
服を持って来たので、ちょっと見ていただいて。
ジャケットは、3層の生地の違いが
着ただけでわかるような感じで作っているんですよ。
遠藤
ほお、ほお、
3枚を1枚で織って、色が違うのが、
どういうふうになんねやろって思ってたけど。
いや、こういう具合になるとは。
三谷
ふつうに羽織ってもいいですし、
この2枚目の生地を紐みたいに結んだり。
リバーシブルにも着られます。
こういう感じで、すごいかっこよく。
藤岡
すごい。服になって3層が開いてるところを、
初めて見ました。
三谷
寒いときとか、この上にコートを着ると、
ちょうどストールのような感じになって。
結構暖かいんですよ。
肌に近いところにシルクが来て、
上はウールでしっかり暖かいっていう。
藤岡
はあぁー。(笑)
織ってる人が訊くのも変なんですけど、
洗えるんですか。
お手入れは、どういうふうに。
三谷
洗えます。
これ、縫製した後で、
仕上げに温水で洗いにかけるんですよ。
そのときは洗濯機で洗ってるんですけど、
一応、手洗いを推奨してます。
藤岡
それぞれの縮率も違いますよね。
三谷
シルクが一番縮むので、
それぞれの面で長さが違うんですけど。
これは、表情ということで。
藤岡
すごい。面白い。
「三重織綿絹毛麻ジャケット」。肌にふれる内側はシルク、2枚めは綿麻、外側はウール。
三谷
なんかね、こういうのがやりたくて、
社長とずっと三重織りの接結(せっけつ)の話を
していたんですよね。
これ、けっこう時間がかかって‥‥。
遠藤
長かったですね。その形になるまでがね。
三重織りって、どう接結させて、
じゃあ、何に使うのかというのは、
全然、具体的にはなれへんかったね。
三谷
そうですね。とても長くかかりました。
生地を作っていただくというときに、
ここまでのデザインは、できてなかったんです。
同時並行で進めて、
ようやく形になった感じですね。
今、これがうちの代名詞的な
アイテムになっています。
藤岡さん、着てみますか。
藤岡
え、いいんですか。ありがとうございます。
あ、すごい。軽いし、暖かいですね。
めちゃ暖かい。思いのほか、暖かい。
こんなに開いてるのに、暖かいですね。
三谷
そうです。含んだ空気が一番暖かいから。
もう真冬もこれでいいわって方もいらっしゃいます。
藤岡
なんか毛布着てるみたいな気持ちよさはあります。
とても柔らかいし。
あの生地がこんなに柔らかくなるんだという。
遠藤
そうやな。
なんか、ただただ重い生地いう感じやったもんな。
藤岡
3重のものが、分かれると
やわらかくなるんですね。
三谷
そうですね。織り上がった状態とは
全然、生地が変わってきますし。
織っているときには、
なにがなにやらという感じですよね。
織りでご苦労かけたところってありましたか?
遠藤
まあ、織り自体は単純と言えば単純やけど、
やっぱり、いろんな種類の糸を使うので、
そのへんが難しいと言ったら難しい。
三谷
緯糸(よこいと)の性質が全然違うものが入るから。
遠藤
うん。やっぱり緯糸ですね。

長く愛用できる服に。

藤岡
MITTANさんは、お直しもされてるんですよね。
お直しアカウントも、いつも楽しく拝見しております。
私のも、やぶれたら、是非お願いします。
遠藤
そんなん、あんねや。
藤岡
白いシャツ買うとき、かなり悩んだんですけど。
「染め直してもらえますよ」って言われて、
「たしかに」と思って買いました。
アフターケアが充実してますよね。
三谷
そうですね。そこはがんばって続けています。
藤岡
もう、だから安心して買えるんですよ。(笑)
私、ファンなんです。
ほんまにただのファン。(笑)
三谷
遠孫さんに毎年作っていただいている
ストールにしても、
このジャケットにしても、シャツにしても、
みんな、なにかあったらうちでお直しをするんですよ。
ひっかけたり擦り切れたりした傷を直したり、
白いシャツを汚してしまったなら染め直しをしたり。

服を、できるだけ長く着てもらえるように。
でも直すのも、価格が高いとか、お願いしにくいとか、
あんまりハードルが高いと、
けっきょく、それで服が捨てられたり、
まあ捨てなくてもタンスに眠ったままになったりする。
こうやってせっかくおふたりに織っていただいたもの、
縫製の人が縫ってくださったものが、
ムダになってしまうのが、どうしても、つらいんですよ。

できるだけ直しをする、というコンセプトがあって、
直しを前提としたシャツを、って作ったのが、
遠孫さんにお願いした3重のこの素材です。

穴があいたものって、あて布をして直すことが多いんです。
それだったら、もともと3重構造になっていたら、
しかも、破れたときに、中から別の色が見えたりしたら、
それも楽しみながら、直して着られるようになるかなと。
「三重織綿麻シャツ」は、長く使って擦り切れて、下の層の生地が見えてからがおもしろい。
ていねいに修繕されたキズ。ステッチが刺繍のよう。
遠藤
それはあえて、この中身を、中を見せるということ?
三谷
そうですね。例えば穴があいてしまったら、
この傷が見えた上で、ステッチ入れるとか。
なにかそういうことができればいいなと思って。
新品のときは、中の生地は見えないんですけど。
遠藤
いや、そうなんですよ。全部縫うてしまうのに、
なんで中が必要やねんやろって、色を変えてね。
そう思っていたから。
三谷
最近、だいぶ認知してきてもらえて、
お直しの件数も増えてきています。
そうやって帰って来るものって、
着た人の癖みたいなものが出てるんですよ。
片肘だけ擦れてたり、破れたりとか。
美容師さんだったら、パーマ液が飛び散ってたり。
そういうのと再会できるのは、こちらもうれしいです。

うちは基本的に直販をしていないので、
お店に送り出したら、その先はわからないんですよ。
ですけど、それがもう1回お客さんから帰って来て。
藤岡
「おかえり」みたいな。(笑)
本当にうれしいですよね。
お客様のところでこんなに使われて、
帰って来たんだというのがうれしいですよね。
三谷
ほんとに、いろんな状態で来るんですよ。
穴があいたりとか、もう裂けちゃったとかね。
肘とか、襟足とかも擦れてくるんですね。
普通だったら捨てるようなものでも、普通に来るので。
「ここまで使ってくれたのか」とか、
「がんばったね」みたいな感じもあるんです。
それはすごく楽しみですね。

(おわり)

次は、素肌に着てもチクチクしなくて着心地いい、
あたらしいセーターをご紹介します。

MITTANの服、販売は
12月17日(木)午前11:00からです。

2020-12-13 SUN