── 計画では、ぜんぶで66台の電波望遠鏡を
建設するということですが。
平松 ええ。
── それは、66台の望遠鏡をつくらなければ
見えない宇宙があると、
そういうこと‥‥なんでしょうか?
平松 ALMA計画に限らず一般的に、なのですが
望遠鏡というのは
大きいほうが「視力」がいいんです。

つまり、暗い光や弱い電波を集められる。
 
── なるほど。

©ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/ J. Guarda (ALMA) 

平松 ですから「66台」という数そのものに
意味があるわけではなくて
基本的には16台でも、
32台でも、
あるいは3台とかでも観測は可能なんですが、
アンテナの数が増えるほど
どんどん性能が上がっていくということです。
── 今まで見えなかったものが、見えたり?
平松 そうですね。

16台では見つけられなかった天体も
32台で観測すれば
倍の電波が集められますから、
観測できるようになる‥‥なんてことも
あるかもしれません。
── そういうことですか。
平松 現在は、まだ16台で観測をしています。
来年の頭から、
43台での観測がはじまります。
再来年には、66台での観測結果が
どんどん出てくるでしょう。
 
── そもそもの話で恐縮なのですが
そうやって苦労して海抜5000メートルの高地に
66台もの巨大望遠鏡を建てて
宇宙の何を見ようとしてらっしゃるんですか。
平松 この電波望遠鏡は非常にパワフルなので、
いろんなことができるのですが
大きな目的としては、みっつ挙げられます。

まずひとつめは、銀河の誕生を探る。
── うわ、いきなり深遠なテーマ! 
銀河の誕生とは‥‥気が遠くなりますね。
平松 私たちは銀河系に住んでいますが‥‥。
── はい、でも、すみません、
「銀河系に住んでいる」という意識までは
持ったことなかったです。
平松 ああ、失礼しました(笑)。

私たちの地球が属する太陽系は
より大きな「銀河系」の一部だということは
ご存知だと思うんですけれど、
それって
太陽みたいな星が1千億個くらい集まって
できているんですね。
 
── いっせんおく! ですか!

私たちの住む銀河系はこのような感じ。
©NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (SSC/Caltech)

平松 ただ、それら星の集団である銀河系も
宇宙が生まれた瞬間からあったわけではなく、
宇宙の歴史のどこかで生まれ、
現在の姿にまで、成長してきたわけです。
── 銀河も成長するんですか。
平松 します。銀河というのは、
近所の銀河と、よくぶつかるんですが‥‥。
── 銀河どうしが、ぶつかる‥‥?
平松 ええ、ぶつかって合体し、成長するんです。
 
── 基本的なことですみませんが
銀河というのは、そもそも何なんでしょう。
平松 星とガスの大集団です。
── 大きさは、どのくらいなんですか?
平松 銀河系ですと、直径10万光年くらいです。
── それってつまり、端から端まで
「光の速さで10万年かかる大きさ」
ってことですよね。
平松 はい。
── そんなもの同士が「ぶつかる」んですか‥‥。
平松 ぶつかります。

で、ALMA計画では
130億年前に誕生した銀河の
生まれたての姿を描き出そうとしてるんです。
── ビックバンの光を捉えることに成功したとは
聞いたことありますが、
電波をキャッチすることができれば
「生まれたばかりの銀河を姿を描く」なんてことも
できるだなんて‥‥すごい。
平松 ふたつめは、惑星系の誕生を探る。

私たちの地球、夜空に見える金星や土星、
そういった「惑星」が
どういうふうにして生まれてくるのか‥‥を
解明しようとしています。
 
── つまり、太陽みたいな
自分で光る「恒星」じゃなく「惑星の起源」を。
平松 こちらの画像を見てください。

想像図なんですけど
真ん中に「赤ちゃん太陽」がいて、
そのまわりを
ガスと砂粒のようなものが回転していますね。

これを原始惑星系円盤と言うんですが
原始地球や原始木星は
こういう渦の中から形成されてくるのではないかと
考えられているんです。

©NASA/JPL-Caltech

── 星って、こんなところから生まれるんですか!

じゃあ、もともとは
こういう、
ガスとかちっちゃなつぶつぶが集まって、
じょじょに、
地球みたいな大きさの星になっていくと?
平松 そうですね。
── ふたたび、気が遠くなりました。
平松 太陽などの恒星を中心として
その周囲を惑星などの天体が回っているものを
「惑星系」と呼んでいますが‥‥。
── つまり「太陽系も惑星系のひとつ」であると。
平松 ええ、そうした「惑星系」のうちには
わたしたちの太陽系とは
かなり違う姿をしたものが、たくさんあります。

たとえば、太陽にあたる中心の恒星のすぐ近くを、
木星の何倍もあるような巨大な惑星が
4日で1周みたいなものすごいスピードで
グルングルン回っていたりとか。
 
── 4日で1周ということは、
4日で1年ということですよね、つまり。

そんな大きなものが、そんな超スピードで。
平松 実は、わたしたちの太陽系以外の場所でも
もう800個くらい
惑星が見つかっているんです。
── へぇー‥‥。
平松 太陽系に似た惑星系も見つかりつつあり、
そこには
地球みたいな惑星も、あったりします。

つまり、惑星系というのは
「相当バラエティに富んでいる」ということが
わかってきているんですね。
── ええ、ええ、なるほど。
平松 そこで、どういった条件がそろえば
「第二の地球」
と言えるような惑星が生まれるのか。

そのあたりを調べるのが、ふたつめの目標です。
── 第二の地球‥‥の可能性。
 
平松 そして、みっつめは
宇宙物質の進化を探ること。

ビッグバンから現在に至る
宇宙空間の原子・分子の組成を調べるのですが、
たとえば、
生命の起源につながるアミノ酸などの
存在可能性を探査しています。
── アミノ酸は宇宙にあったんですよね? たしか。
平松 ええ、地球以外の場所、つまり宇宙から落ちてきた
隕石の中に、アミノ酸が見つかっています。

同じように、もし、アミノ酸を含んだ隕石が
地球みたいな惑星に落ちたら‥‥
そこから生命が生まれる可能性もなくはない。
── 宇宙人というのは、いるのでしょうか。
阪本 たぶん
「どこかにはいる」でしょうね。
 
平松 あるいは
「いつかは、いた」でしょうね。
阪本 宇宙の歴史は130億年以上ありますし
人類の歴史なんて、そのなかの一瞬ですから。
── つまり、仮に、いま、この瞬間にいなくても
少し時代がズレさえすれば
いてもおかしくないくらい、可能性は高いと。
阪本 いや、いるでしょ宇宙人。
広い宇宙のどこかには。
平松 いま現在、
地球に来ている可能性は低いでしょうけど。
阪本 知的生命体ではなく
宇宙バイキンみたいなやつらだったら、
けっこう
そのへんにいそうな感じもするしね。
── う、宇宙バイキン?
阪本 まあ「そのへん」というのは
火星にいてもおかしくないというレベルの話だけど、
バクテリアみたいな生命体なら
太陽系の中にも
「いるかもしれない」と考えられている場所が
何箇所かありますからね。
 
── 逆に言うと
高度な知的生命体が生まれる確率というのは、
やっぱり、低いのでしょうか。
阪本 それは、そうでしょうね。

周囲の環境が、そうとう整っていないと
高度な生命体には
なかなか進化できないと思います。
── 地球の生命って、本当に「奇跡」なんですね。
阪本 でも、うまく環境に適応できた場合には‥‥
どんな奴らがいるのか、ほんと楽しみですよ。
── どんな奴ら?
阪本 だってほら、テレビ番組なんかを見てるとさ、
宇宙人ってワンパターンじゃない。
── カタチが、ですか?
阪本 そう。
── つまり「グレイ」的な。
 
阪本 そう、そう。

テレビや映画を見ながらいつも思うんだけど
世の中の宇宙人というのは
なんでみんな
ひょろっとしていて、目玉が大きくて‥‥。
── 世の中の宇宙人という表現が、
とてもいいと思いました(笑)。
阪本 さっき話題に出てましたけど
惑星系もバラエティに富んでいるんだから
宇宙人だって、
もっともっと、いろんなカタチの奴がいて
いいはずなんです。

だってほら、僕らのまわりにも
バッタだっているし、タコだっているし。
── そうか、バッタもタコも
他の星から見たら「宇宙生物」ですものね。
阪本 そう意味で言うなら、仮面ライダーのほうが
よっぽどいい線いってる
よね。
 
── ‥‥バッタですもんね。
阪本 バルタン星人だって、ほんとにいるかもよ?
── 宇宙ガニ‥‥。
阪本 まあ、何が言いたいかっていうと
もっともっと、ぜんぜん違うカタチの奴らが
「いていい」というか‥‥。
── 「いてほしい」という感じすらしてきました。
阪本 そうそう。いてほしいんですよ。

©ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), J. Guarda (ALMA) 

<つづきます>


2012-09-28-FRI

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