第4話

山本さんが登った階段。

糸井
山本さんも、つまり
「岡崎」が描きたいから、
描いているわけですよね。
山本
そうですね。

糸井
山本さんのケースは、
「描けるに決まってるじゃん」
といってスタートしてる感じがする。
とよ田さんはプロだったし、
小山さんは描きたいから描いちゃったかんじで。
山本さんは、前からプロへの道を歩んでたんですか?
山本
いえ、ちがいます。
私‥‥もうずっと、高校生のときも、
まんが家に憧れがあって、
なりたいと思ってたんですが、挫折しました。
絵がそんなにうまいとは思わないので、
とっくに挫折してたんです。
最後に描いたのが、たぶん18歳とかそれくらいです。
糸井
へぇえ。
山本
それから10年間、何も描いていませんでした。
そのまま大人になって、
絵とはぜんぜん関係ない仕事をしました。
描くきっかけをくれたのが、
まんがの「岡崎さん」とは別の、
もうひとりの幼なじみです。
彼が「まんがを描いたほうがいい」って、
すごく説得してくれました。
杉ちゃんという子なんですけど、
「10年前に読んだ、山本さんのまんがが
 すごくおもしろかった」
「才能があるとぼくは思うから、描いたほうがいい」
って。

糸井
すごいね、それ。
なんか泣きそうになるよ。
simico
はい。
山本
で、「嫌だ」って言ったんです。
糸井
ええぇえ?
山本
「ゲームの新作が出るから、嫌だ」って
断ったんですよ。
糸井
ゲームの‥‥。
山本
でも、「まんが描け、描け」ってすごくうるさくて、
しつこくて、メールまで来ました。
そんな感じで、いやいや描きはじめたので、
まさかこんな‥‥。
とよ田
え?
「岡崎に捧ぐ」がはじめて描いたまんがなの?
山本
そうです。
とよ田
すごい!
糸井
すごい。
山本
この第1話が、
10年経って描いた、はじめてのまんがです。
「岡崎」を描くために
ペンタブとソフトを買いました。
それを使って、まさに1枚め、という感じで‥‥。
とよ田
ほんとに?
小山
スターダム‥‥。
糸井
それは、山本さんがアマチュアとして登ってた階段が、
まったく間違ってなかったってことですね。
知らず知らずかどうかわかんないけど、
自分なりに勉強してたんでしょう。
山本
そうかもしれないです。
糸井
趣味の世界のことだったかもしれないけど、
「やっぱりここは見開きでバンと来ないと!」とか
山本さんなりに、散々やったんでしょうね。
山本
はい。思ってました。
糸井
だから、甲子園で投げてた子が、
急にプロで20勝してるみたいな状態になるんだ。
とよ田
美術の学校にも通ってないんですか?
山本
美大をめざしてました。
その「美大をめざしはじめること」が
挫折するきっかけにもなりました。
絵のうまい人が、メッチャいたんです。
糸井
いますね。
山本
それに比べ、私はすごく絵がへたで
雑なところがあって、
それは「岡崎に捧ぐ」でも直ってないですけど──、
線が真っすぐ描けないとか、そういうレベルで
美術の先生に怒られました。
ですから、自分は向いてないんだと思いました。
とよ田
でも、表紙の1枚絵とか、
趣きのある、すごくいい絵を描かれますよ。

山本
ありがとうございます。
でも、自信もなくて、
私が連載をさせていただいた「note」という場所は
有料にできるサービスなんですけど、
とても自分の絵でお金をもらえるとは
思えませんでした。
1作品描くごとに、幼なじみの杉ちゃんに送って、
おそるおそる見てもらいました。
「どうかな」「つまんなくないかな」
「変なところとか、わかりづらいところないかな」
びくびくして訊いてたくらいですから、
みなさんに対して
「おもしろいから、これ見て」
なんていう自信はまったくなかった。
糸井
感覚としては、
「教室の後ろのほうでまわしてるまんが」と
同じなんですね。
山本
あ、ほんと、そんな感じです。
糸井
だけど、このまんがは手を抜いてないですよ。
クラスでまわすまんがを
「ものすごくちゃんと」描いてるわけですね。
山本
そうなんです。
ありがとうございます。
糸井
うん。クラスのみんなに向けたまんがは、
どうせ見てくれるメンバーがいるから
だんだん手を抜いていくものです。
でも、山本さんのまんがには
「手を抜いたらいけないな」という感じが
一本、通ってますね。
それは、山本さんの性格ですか?
山本
絵をずっと描いていなかったので、
描きながら鍛えてたのかもしれないです。
とよ田
すごいなぁ。はじめてでこれって。
糸井
恐ろしいですよね。
でも、みなさん、すごいですよ。
みなさん、恐ろしいことやってます。
山本
そうですよ、私から見るとみなさんが
ほんとうにすごいです。
糸井
「岡崎に捧ぐ」は「note」に連載されていたので、
ぼくは代表の加藤貞顕さんから
教えてもらって見ました。
プロになりかけの人とか
アシスタントをしている人とか、
まんが家のタマゴは山ほどいるわけだから
「そういう感じなのかな?」
と思ってたんですけど──
どういえばいいかな、
なんだか、ここまで来た「育ち方」が
いままでの人たちとはちがう気がしたんです。
それはなんなのか謎のままなんだけど‥‥。
分量も、へっちゃらで、ものすごく描いてるでしょ?
山本
そうですね。
そんなに詰まったりするタイプじゃないです。
糸井
あの‥‥山本さんがTwitterでやってる、
猫がこっち見てるようなまんが‥‥。
あの、激しく省略された猫‥‥。
一同
(笑)

山本
あの「ひまつぶしまんが」も、
幼なじみの同じ子が‥‥。
糸井
つまり「杉ちゃん」が。
山本
そうです、杉ちゃんが、
「Twitterで、いま
 1ページまんががすごく流行ってるから、
 描いたほうがいい」
と言ってきたことがきっかけです。
「働いてるから嫌だ」って
ずっと言いまくってたんですけど‥‥。

糸井
山本さん、「嫌だ」が多いな(笑)。
山本
杉ちゃんに
「1日1枚上げろ」って言われたんです。
「働いてるから」と
さんざん断ったんですけど、
「あんまり内容なくても大丈夫だから!」
みたいなこと言われて。
一同
(笑)
糸井
うん。そうだそうだ。
山本
そう言われて、Twitterにまんがを
アップしはじめました。
そうすると、むしろそれが話題になって、
人びとが「岡崎」に流れてくれた感じがありました。
糸井
杉ちゃんすごいね。
山本
1ページのまんがも
すごく意義あったことだなと思っています。
糸井
意義はあります。
あれはすばらしいです。
「内容のないすばらしさ」があるからね。
じゃ、みんなが「内容」と言っているものは
いったいなんだったんだろう?
山本さんのあのまんがを見てて、思います。

つづく!

2015-10-02-FRI