その4 シュレックの話

小学一年生の時の記憶です。
ふと気付いたら教室にわたしひとりでいて、
窓から校庭を見下ろすと、クラスメイトは皆、
体操服姿で運動会の練習をしています。
自分の机で好きなお絵描きでもしていたのでしょう、
他の子たちが着替えて外に行ってしまったことに
全く気がつかなかった。
ああ、先生もみんなも、わたしがいなくても
かまわず楽しそうにダンスしてる。。。
そのときの心細い気持ちは、30年以上たった今でも
はっきりと思い出せます。

ひつじは群れを作って安心を得る生きものです。
彼らはいつも、まわりのひつじが何を考えているのか
察し合っているように見えます。
シープドッグがやってくれば、
ぞろぞろ仲間の行く方向に
横腹をぴったり付けて進んでいく。
群れから離れて一頭だけでいると
天敵から狙われやすいから、
とけ込むことが生き延びるための最上の方策です。

ところが、その安心の基盤、
ホームとも言うべき「群れ」から
自ら逃げ出したひつじがいました。
ひつじの名はシュレック。
2004年、ニュージーランドの岩場で
発見されたシュレックは
捕獲された時点で6年間逃亡中で、毛は伸び放題。
見つけた人は彼をひつじだとは思わなかったそうです。
画像を検索すると、
巨大な白いかたまりから鼻先だけ出した、
すごいやつが出てきます。
ふつうの9倍にまでふくれあがっていたという
その毛を刈る様子は、テレビで中継されたそう。
重いフリースをぺろんとはがされ、
小さくなったシュレック君は、
ずいぶんほっとして見えます。

冒頭の小学生はその後、
どのような道をたどったか、のお話。
自分はどうもまわりのペースに
合わせられない、ということにだんだん気づき、
中学生になって早退を繰り返すようになり、
高校もさぼってばかり、
大学は、まわりに合わせる必要がないので
わりと楽しく通いました。
社会に出てからは、食べていかなくちゃと思って
なんとか毎日職場に通ううちに
人に合わせなければ、という
気持ちそのものが少しずつ消えていきました。
シュレックのようにドラマチックな帰還ではないですが、
長い間うろうろしたあげく、ようやく、
人の中に混じって居られるようになった。
とはいえ、
もともとひとりでものを作ることが得意なたちで、
家で没頭している時間はすごく楽しい。
いいものができれば、窓を開けてみんなに向かって
すっごいのができたぜーーーい!と叫びたくなる。
そして結果的には、それが人にも喜ばれるらしい。
なので、今はひとりで作ることをベースに暮らしています。
群れとひとりぼっちを行ったり来たり、が
どうやらわたしにはちょうどいいみたいです。


※右が6歳の三國万里子さん、左が5歳のなかしましほさん。
 姉妹ともにご結婚されて姓が変わりましたが、
 この頃は長津万里子さんと、長津志保さんでした。
 写真は家族旅行で福島の磐梯山に行ったときのものだそう。

(その5へ、つづきます)


2015-01-04-SUN
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