その5 ひつじのいる絵本『にぐるまひいて』
『にぐるまひいて』(ほるぷ出版)
ドナルド・ホール:文 バーバラ・クーニー:絵

10月 とうさんは にぐるまに うしを つないだ。

から始まるおはなし、『にぐるまひいて』。

開拓者時代でしょうか、
ものを運ぶのに馬や牛に頼っていた頃の、
アメリカのある家族の一年を、
作物を育て、ものを作って、売り、また必要なものを買う、
その営みを通して描いた物語です。

冒頭に登場する「とうさん」はこれから、荷車をひいて、
家族のみんなが一年かけて丹精したあれこれを
遠い街まで売りにいくところ。
荷車に積むのは、こんなものたちです。

・とうさんが刈り取ったひつじの毛を詰めた袋
・その毛をかあさんが紡いで織ったショール
・むすめが編んだ指なし手袋(ミトンのこと)5組


すてきなチェックに織り上がったショール。
おねえちゃんはミトンの出来映えを
最終チェックしているところでしょうか。
袋に詰めた羊毛は街の人に買われて、紡がれて、
セーターやホームスパンになるのでしょう。

三人の顔は、誇りと満足で上気していますね。
わたしはこのページを見ると、いつもおなかのあたりが、
じわっと熱くなります。

まだまだあります。

・みんなが蜜ろうで作ったろうそく
・かあさんが亜麻から糸にして織ったリンネルの布
・とうさんが切り出した屋根板の束
・息子が料理ナイフで作ったしらかばのほうき
 (上の絵には描かれていませんが、
  この家にはお兄ちゃんもいます。)
・じゃがいも、りんごをひと樽、かぶとキャベツ
・蜂蜜と蜂の巣
・かえでの樹液を煮詰めたかえで砂糖の木箱詰め
・放し飼いのがちょうからこどもたちが集めた羽ひとふくろ

すごいでしょう?
四人家族の実力が、この目録から伝わってきます。
彼らの家は、山の上のつつましい開墾地に
ぽつんと建っているのですが、
そこで手に入るものを大事に使って、
これだけのものを作っているのです。
この家族に混じって一年暮らしてみたい、
と読むたび思います。

さて、おとうさんは一家代表として旅に出ます。
牛に荷車を引かせ、十日間歩いて、
ようやくポーツマスの市場に到着。
さっそく自慢の品を並べて売り始めます。

おとうさんの店は大人気。
どんどん売れていく場面はスリリングです。
すべて買い手がつき、最後には
荷車と牛と手綱と「くびき」まで売り切って、
そのお金で家族におみやげを買います。
みんな待ちわびている家に帰って、一息つくと、
次の日からまた、新しい一年が始まっていきます。

4月、毛を刈られるひつじたち。

とんとん進むおはなしの楽しさと、
釘付けになるほど美しい自然の描写に惹かれて買ってきて、
以来、何度もこの絵本をめくりました。
今も資料の並ぶ本棚ではなく、
わたしの仕事机の特等席に置いて、
時おり手に取っては気に入りの場面を眺めます。

わたしもものを作って暮らしています。
じぶんのしていることの意味が見えやすい、
シンプルな仕事です。
ただ、手元ばかり見ている日々が続くと、
仕事のきりのなさに呆然としてしまうことがあります。
自分の手から作品が離れていかないような苦しさというか。
いつかはそれもうまく行って、
人に手渡されていくはずなのですが。。。
そんな時に、
作ってやがて手放す、そのサイクルを確認したくて、
この本を手元に置いているのかもしれません。
季節が巡って、ものが作られて、売られて、買って。。。
「じゅんじゅん」とものごとが動いていくのは、
なんとありがたく、心やすらぐことでしょう、と
この本を読むたびに思うのです。

(5つのお話を、終わります。
 ご愛読をありがとうございました。)


2015-01-05-MON
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