その3 ハリーは靴下になった

ひつじはかわいいでしょうか?
うーん、よくわからない。
たとえば人間はかわいいか、ときかれて、
どうだろう、と思うのと同じ感じで。
でも個別に好きになることはあります。
見た目の第一印象がどうであれ、
草を食べてるところを眺めたり
名前を呼んだり、話しかけているうちに、
なんだかおじさんみたいだ、と思っていた顔が、
そこがいいんじゃない、と思えてくるとか。

たとえばそれは、わたしにとっては、
シェットランド諸島、
メインランドで出会ったひつじ、ハリー君。
今年の春に取材の旅をして回った時、
ガイドをしてくれたマグナスおじさんのペットひつじです。
名前を呼ぶと、のそのそ体を揺らして
機嫌よさそうに走ってくる様子がチャーミングで、
会ってすぐに彼のファンになりました。
そろそろいかなくちゃ、
という時になっても立ち去りがたく、
記念にハリーの柵に絡まっていた羊毛をむしって
コートのポケットに入れました。
同行していた編集者さんに
「もうれつにくさいですよ、それ」と注意されながらも、
旅の間中、ときどき取り出して、
結構いいにおいだよ、と嗅いでは
シェットランドとハリーを思い出していました。

旅から帰って数週間たったある時、
地下鉄の表参道駅でPASMOを取り出そうとして
ポケットを探ったら、
小さいやわらかいかたまりが手にさわりました。
なんだろうとつまみ出して、一瞬、うろたえました。
くさくていいにおいのハリーの毛、まだ入ってた。
人に見つかったらまずいような気がして、
すぐしまって、でもなんだかうれしい気持ちでした。

そして。。。それから半年以上たったのに、
まだお守りのように、毛はポケットに入っていました。
やはり、だんだん固まってきていて、
そろそろなんとかしなければ、という潮時です。
薄汚れているけど、
れっきとしたシェットランドシープの毛。
やっぱり毛糸にするのがいいね、と思い、
今日の午後、羊毛を引き伸ばして、

撚りをかけて糸にして、

手持ちの濃紺のシェットランドの糸と合わせて、
小さな靴下を編みました。

ハリー、編んだよー!

(その4へ、つづきます)


2015-01-03-SAT
まえへ まえへ まえへ
感想をおくる 「ほぼ日 」ホームへ