その1 ひつじのいる絵本『ブルッキーのひつじ』
『ブルッキーのひつじ』(ジー・シー)
M・B・ゴフスタイン:作 谷川俊太郎:訳

生きているひつじ、というか、
動物としてのひつじを見たことが、
ほとんどありませんでした。
仕事柄、羊毛には日々触れていますが、
それがちょっと前まで生きものの背中に
生えていたサムシングだと意識して
毛糸を編んではいませんでした。
今年の春シェットランド諸島に行くまでは。

シェットランドは、ひつじの島です。
起伏のある草原に
固まった群れを作るでもなく、
ただ散らばるようにして、どこにもここにも、います。
放牧されているひつじたちは
家畜という言葉から連想するような
人慣れした感じはありません。
草を食べたり、寝そべったり、
みなそれぞれのしたいことに専念しているようでいて、
しっかり警戒のアンテナは張っていて、
未知の人間を近寄らせてはくれないのです。
写真を撮ろうと、ゆっくり、そーっと近づいていっても、
ある一定の距離に来ると、
てってってーと逃げていってしまう。
ノー、ニンゲン、ノーー。
ベエーーー。
と。
ちえー、想像したより野生的でかっこいいな、
この生きものたちは、と、
追いかけては距離を引き離されながら、
あこがれの気持ちで眺めていました。

同じ羊でも、飼い方によって
ずいぶん人へのなつき方が変わるということを
知ったのも、この滞在中でした。
「ペットのひつじ」です。
羊毛産業のさかんなシェットランドですが、まれに、
ただかわいがるために飼われているひつじがいました。
彼らは出荷されることもなく、
ひつじとしての一生を人間のかたわらで過ごします。
飼い主の住まいに隣接する囲いのなかで、
人と接して暮らしているので
自分をそれほどひつじとも思っていないのでしょう、
近寄っても逃げることもなく、
人懐っこく、おっとりしています。
名前を呼べば、駆けよってきます。
「ハリー! カモーン」

「。。。。ベーー。(なんでしょう?)」
という具合に。

前置きが長くなりました。
『ブルッキーのひつじ』は、ある特別な羊のおはなしです。
おはなしといっても、読むだけなら2分とかかりません。
1ページにつき1、2行の、
やさしい、歌のようなことばで書かれています。
最後まで読み通すと、2回目からは
節をつけて歌いたくなるような、そんな本です。

こんなふうに始まります。

 ブルッキーの かわいいこひつじ
 だいすきだいすき かわいいこひつじ
 うたうのを おしえたよ
 とてもいいこえで うたったが、
 うたえるうたは ただひとつ
 めえ めえ めえ
 そこでほんをよむのを おしえたが、
 なにをよんでも
 めえ めえ めえ
 だけどやっぱり だいすきだった。

いいでしょう?
でも、どこが「特別」なひつじなのか、
これだけではわかりませんよね。
もしよかったら、ぜひ、探して読んでみてください。
とても小さい、薄い本です。
仲良しになりたい人と一緒に読むといいですよ。
わたしは息子が小さいときに、
たぶん、100回は読みました。

(その3へ、つづきます)

2015-01-02-FRI
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