糸井重里、サンパチマイクを買う。

糸井重里、サンパチマイクを買う。

あこがれの漫才マイク「C-38B」を、自腹で。

糸井重里は、むかしから、
急におかしなものを買う人である。
驚くようなもの、呆れるようなもの、
「これは‥‥なに?」という不思議なものまで、
じつにさまざまなものを自腹で買っている。

そんな個人的な買いものリストに、
このたび「サンパチマイク」が加わろうとしていた。
漫才に欠かせない、あのセンターマイクである。
これにはお笑い好きの乗組員も興味津々。
「なんで糸井さんが、サンパチを‥‥」
その気になる買いものの行方を、
ちょっと前のめりに追いかけてみました!
#02 買うという、詩。
乗組員B
ちょっと話は変わりますけど、
うちにゴリラがいます。
糸 井
ぼくが買ったものですね。
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乗組員B
サンパチを買うというのは、
あのゴリラの購入に近いものですか。
糸 井
ちがいますね。
乗組員B
あ、ちがう。
糸 井
あのゴリラはおふざけです。
ああいうものが買えるっていうのが、
ぼくは現代社会を表していると思ったんです。
乗組員A
あのゴリラはどこで買ったんですか。
糸 井
Amazonです。
乗組員A
Amazonで買える(笑)。
糸 井
最初見たとき、ぼくも笑うわけですよ。
「これ、Amazonで買えるんだ」って。
そうすると、そこから気になるわけです。
「このゴリラはどうやって運ぶんだろう?」とか。
乗組員A
ひとりじゃ無理ですよね。
糸 井
しかも販売ページを見ると、
「お届けには時間がかかります」とある(笑)。
乗組員A
わはははは。
糸 井
あのゴリラを取り巻くシステム、
欲望、需要、生産、配送、あと、
効用がなんだかわからないっていう、
そういうのぜんぶおもしろいと思ったんです。
つまり、それって、
「それを買うという行為」に
興味があるともいえるわけで、
そういう「詩」だったともいえるんです。
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乗組員C
あぁ、そういう「詩」だった。
乗組員B
もうひとつ聞いてもいいですか。
糸 井
はい。
乗組員B
糸井さんが買ったものでいうと、
デヴィッド・リンチが描いた大きな絵があります。
あれはどうして買ったんでしょうか。
糸 井
あれは、デヴィッド・リンチの絵が買えるって
教えてくれた方がいたんです。
『ツイン・ピークス』真っ盛りのときでしたから、
「彼の絵が買えるの?!」となって、
それで申しわけないと思いながらも
「買います」と言って買ったものです。
でも、あれは買ったあとが大変で、
額が付いてなかったんですよね。
乗組員B
あとでつくったんですか?
糸 井
あの絵にあわせてつくってもらいました。
ちなみに、デヴィッド・リンチさんは
なにかのインタビューで、
「イトイさんという人がぼくの絵を持ってる」
と話していたそうです。
乗組員B
すごい(笑)。
乗組員A
さっきの話でいうと、
それも「詩」だったりするんですか。
糸 井
それも「詩」なんでしょうね。
買ったらほんとうにここに来ちゃうっていう。
遠く離れたあのデヴィッド・リンチと
どこかで触れられるという「詩」なんだと思います。
乗組員A
糸井さんの買いものシリーズでいうと、
「恐竜の化石」というのもあります。
かなり貴重なものも持っていると‥‥。
糸 井
いまはもっと値上がりしているはずです。
当時の値段ではもう買えないと思います。
乗組員A
糸井さんはどうして化石を買うんですか。
糸 井
恐竜の化石は「大人買い」ですね。
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乗組員A
大人買い?
乗組員B
いままでのは「大人買い」じゃない?
糸 井
いままでのは、
いまのぼくの「詩」のようなものです。
だけど、恐竜の化石は、
子どものときのぼくの「詩」を、
いまぼくが代わりに読んでいるんですよ。
乗組員B
あー、大人になった糸井さんが。
糸 井
子どものときも化石は持っていたんです。
貝殻の化石とかそういうものです。
でも、みんながほしがるような素敵な化石は、
そう簡単に手に入らないんです。
だから当時、恐竜のことを考えて
「うわぁー、すげぇ」と思っていた少年に、
ぼくがわたしてあげるんです。
「はい、ティラノサウルス、あるよ」って。
乗組員C
大人の糸井さんからのプレゼント。
糸 井
だから、化石はその少年のもの。
ギターのように誰かにあげたり、
譲ったりするものでもないんです。
乗組員C
化石はそういう「詩」なんですね。
糸 井
だけど、どうなんだろう。
その化石もぼくが死んだら価値はなくなると思う。
「その化石がほしいです」という人って、
みんな「お金」としてほしがっちゃうだろうし。
乗組員A
どこかに寄贈するとか。
糸 井
貴重なものではあるけれど、
博物館に入れるほどでもないんです。
そういうところに入らない余り物が
市場に出回るわけですから。
乗組員A
あー、そうか。
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糸 井
たまに「博物館級のもの」もあります。
でもそれは「級の」っていうだけ、
やっぱりぜんぜんちがいます。
一方、博物館クラスのものでも、
よっぽどじゃないと展示もされないし、
意外と人は興味ないんですよ。
そういえば、すこし前に、
「前橋に埋蔵金が出た」と聞いて、
ぼくはわざわざ見に行きましたよ。
乗組員B
はい、行きました。
鎌倉時代の埋蔵金が出たというので。
糸 井
すごい量の古銭の束でしたけど、
お客さんはほとんどいなかったよね。
乗組員B
あんまりニュースにも
なってなかった気がします。
糸 井
だから、モノが持っている物語とか、
価値と称するものだとか、
あるいはそれに対する物神性、信仰、思い。
たぶん「物語」とニアリーイコールなんだけど、
それよりもっと強いものだと思います。
そういうものが渾然一体となって、
世の中の価値やモノやコトがあるというのを、
ぼくは「買いもの」という行為で、
「詩」にしたいのかもしれないですね。
乗組員A
サンパチマイクもそのひとつ。
糸 井
じつはそうなんです。
みんな知っているものなのに、
場所が限定されてるっていうだけで、
本来の価値が伝わっていなかったりします。
サンパチマイクもそういうのがあって、
漫才をやる人たちが舞台にいなかったら、
「ところで、あれはなんなの?」って、
ほんとうの姿が見えると思うんです。
乗組員A
あれじゃないと漫才は成立しないのに、
みんな「ないもの」として舞台を見てますよね。
乗組員C
なんなんだ、サンパチマイクって‥‥。
(つづきます)
2026-03-03-TUE