糸井重里は、むかしから、
急におかしなものを買う人である。
驚くようなもの、呆れるようなもの、
「これは‥‥なに?」という不思議なものまで、
じつにさまざまなものを自腹で買っている。
そんな個人的な買いものリストに、
このたび「サンパチマイク」が加わろうとしていた。
漫才に欠かせない、あのセンターマイクである。
これにはお笑い好きの乗組員も興味津々。
「なんで糸井さんが、サンパチを‥‥」
その気になる買いものの行方を、
ちょっと前のめりに追いかけてみました!
- 乗組員B
- ちょっと話は変わりますけど、
うちにゴリラがいます。
- 糸 井
- ぼくが買ったものですね。
- 乗組員B
- サンパチを買うというのは、
あのゴリラの購入に近いものですか。
- 糸 井
- ちがいますね。
- 乗組員B
- あ、ちがう。
- 糸 井
- あのゴリラはおふざけです。
ああいうものが買えるっていうのが、
ぼくは現代社会を表していると思ったんです。
- 乗組員A
- あのゴリラはどこで買ったんですか。
- 糸 井
- Amazonです。
- 乗組員A
- Amazonで買える(笑)。
- 糸 井
- 最初見たとき、ぼくも笑うわけですよ。
「これ、Amazonで買えるんだ」って。
そうすると、そこから気になるわけです。
「このゴリラはどうやって運ぶんだろう?」とか。
- 乗組員A
- ひとりじゃ無理ですよね。
- 糸 井
- しかも販売ページを見ると、
「お届けには時間がかかります」とある(笑)。
- 乗組員A
- わはははは。
- 糸 井
- あのゴリラを取り巻くシステム、
欲望、需要、生産、配送、あと、
効用がなんだかわからないっていう、
そういうのぜんぶおもしろいと思ったんです。
つまり、それって、
「それを買うという行為」に
興味があるともいえるわけで、
そういう「詩」だったともいえるんです。
- 乗組員C
- あぁ、そういう「詩」だった。
- 乗組員B
- もうひとつ聞いてもいいですか。
- 糸 井
- はい。
- 乗組員B
- 糸井さんが買ったものでいうと、
デヴィッド・リンチが描いた大きな絵があります。
あれはどうして買ったんでしょうか。
- 糸 井
- あれは、デヴィッド・リンチの絵が買えるって
教えてくれた方がいたんです。
『ツイン・ピークス』真っ盛りのときでしたから、
「彼の絵が買えるの?!」となって、
それで申しわけないと思いながらも
「買います」と言って買ったものです。
でも、あれは買ったあとが大変で、
額が付いてなかったんですよね。
- 乗組員B
- あとでつくったんですか?
- 糸 井
- あの絵にあわせてつくってもらいました。
ちなみに、デヴィッド・リンチさんは
なにかのインタビューで、
「イトイさんという人がぼくの絵を持ってる」
と話していたそうです。
- 乗組員B
- すごい(笑)。
- 乗組員A
- さっきの話でいうと、
それも「詩」だったりするんですか。
- 糸 井
- それも「詩」なんでしょうね。
買ったらほんとうにここに来ちゃうっていう。
遠く離れたあのデヴィッド・リンチと
どこかで触れられるという「詩」なんだと思います。
- 乗組員A
- 糸井さんの買いものシリーズでいうと、
「恐竜の化石」というのもあります。
かなり貴重なものも持っていると‥‥。
- 糸 井
- いまはもっと値上がりしているはずです。
当時の値段ではもう買えないと思います。
- 乗組員A
- 糸井さんはどうして化石を買うんですか。
- 糸 井
- 恐竜の化石は「大人買い」ですね。
- 乗組員A
- 大人買い?
- 乗組員B
- いままでのは「大人買い」じゃない?
- 糸 井
- いままでのは、
いまのぼくの「詩」のようなものです。
だけど、恐竜の化石は、
子どものときのぼくの「詩」を、
いまぼくが代わりに読んでいるんですよ。
- 乗組員B
- あー、大人になった糸井さんが。
- 糸 井
- 子どものときも化石は持っていたんです。
貝殻の化石とかそういうものです。
でも、みんながほしがるような素敵な化石は、
そう簡単に手に入らないんです。
だから当時、恐竜のことを考えて
「うわぁー、すげぇ」と思っていた少年に、
ぼくがわたしてあげるんです。
「はい、ティラノサウルス、あるよ」って。
- 乗組員C
- 大人の糸井さんからのプレゼント。
- 糸 井
- だから、化石はその少年のもの。
ギターのように誰かにあげたり、
譲ったりするものでもないんです。
- 乗組員C
- 化石はそういう「詩」なんですね。
- 糸 井
- だけど、どうなんだろう。
その化石もぼくが死んだら価値はなくなると思う。
「その化石がほしいです」という人って、
みんな「お金」としてほしがっちゃうだろうし。
- 乗組員A
- どこかに寄贈するとか。
- 糸 井
- 貴重なものではあるけれど、
博物館に入れるほどでもないんです。
そういうところに入らない余り物が
市場に出回るわけですから。
- 乗組員A
- あー、そうか。
- 糸 井
- たまに「博物館級のもの」もあります。
でもそれは「級の」っていうだけ、
やっぱりぜんぜんちがいます。
一方、博物館クラスのものでも、
よっぽどじゃないと展示もされないし、
意外と人は興味ないんですよ。
そういえば、すこし前に、
「前橋に埋蔵金が出た」と聞いて、
ぼくはわざわざ見に行きましたよ。
- 乗組員B
- はい、行きました。
鎌倉時代の埋蔵金が出たというので。
- 糸 井
- すごい量の古銭の束でしたけど、
お客さんはほとんどいなかったよね。
- 乗組員B
- あんまりニュースにも
なってなかった気がします。
- 糸 井
- だから、モノが持っている物語とか、
価値と称するものだとか、
あるいはそれに対する物神性、信仰、思い。
たぶん「物語」とニアリーイコールなんだけど、
それよりもっと強いものだと思います。
そういうものが渾然一体となって、
世の中の価値やモノやコトがあるというのを、
ぼくは「買いもの」という行為で、
「詩」にしたいのかもしれないですね。
- 乗組員A
- サンパチマイクもそのひとつ。
- 糸 井
- じつはそうなんです。
みんな知っているものなのに、
場所が限定されてるっていうだけで、
本来の価値が伝わっていなかったりします。
サンパチマイクもそういうのがあって、
漫才をやる人たちが舞台にいなかったら、
「ところで、あれはなんなの?」って、
ほんとうの姿が見えると思うんです。
- 乗組員A
- あれじゃないと漫才は成立しないのに、
みんな「ないもの」として舞台を見てますよね。
- 乗組員C
- なんなんだ、サンパチマイクって‥‥。
(つづきます)
2026-03-03-TUE
(C) HOBONICHI