──NHKの方にうかがいました #4 たとえば「帰宅」についてどうするか、会社でシミュレートしておく
糸井 今回の地震で、緊急速報が
テレビですごい回数、流れました。
山下さん 流れましたね。
ただ途中から、はずれることも多かったです。
糸井 ああなるとちょっと、
『オオカミ少年』というか‥‥。

どうしましょう、
緊急地震速報はあてにしていいのでしょうか?
山下さん そうですね‥‥
ほんとうに当たっているケースもあるので、
あながち無視はしないほうがいいと思います。
糸井 うーーん、
その無視できないっていうのが、
ぼくらは判断に困るところなんですよ。
山下さん 観測器が壊れたのが原因だったので、
精度がよくなってはいるんです。
糸井 携帯にも、緊急地震速報で
アラームが鳴る仕組みがありますよね。
PRさん あります。
糸井 けっこう回数が多く鳴るのに、
はずれることも多いんで
だんだん信じにくくなっちゃって‥‥
ぼくはとうとう
そのアプリをはずしてしまいました。
犬が、あの音をすごく怖がるし。
PRさん 警戒音なので、わざと嫌な音にしてますからね。
糸井 で、うちの会社ではあれが流行ったんです。
そこにブラブラしてるでしょう。
あれが、わが社の震度計。
PRさん あれで揺れを。
糸井 3月11日以降、なんだかすぐに、
「いま揺れた?!」って思うじゃないですか。
山下さん はい、その感覚が続いています。
揺れてないのに「揺れた」と思う錯覚も多くて。
余震をずっと怯えているような‥‥。
糸井 だから「いま揺れた?」ってときに、
ぱっと、あれを見るんです。
自分の家にもあの仕組みがあるんですけど、
すごくいいですよ。
勘違いだったとき犬を怖がらせずに済みます。
山下さん なるほど。
糸井 好きなキャラクターをぶらさげておけば、
イヤな感じはしないでしょ(笑)。
山下さん そうですね(笑)。
糸井 つい笑ってしまうけど、ほんとにいいんですよ。
自前の判断ができるんです。
「これがここまで揺れたときに、どう動く」
ということを話し合っておける。
山下さん その話し合いは、たいせつですね。
糸井 会社で、家庭で、
「これがここまで揺れたらこうしよう」
ていう話をね、冗談まじりでもいいから。
山下さん そうですね。
最初にも言いましたけど、
ずっと怖がってはいられませんので。
PRさん ‥‥だから、風邪みたいなものかもしれませんね。
糸井 ‥‥風邪。
時計の人がまた、
気になることをおっしゃいました(笑)。
PRさん いや(笑)、震災を風邪だと思うと‥‥。
糸井 はい。
PRさん 冬が近づいてきたら、
「冷えないように1枚多めに着よう」とか、
「お風呂からあがったらすぐ頭を拭こう」とか、
ちょっと気をつけますよね?
そのくらいの意識で備えるのがいいのかな、と。
糸井 うん、わかります、レベルとして。
PRさん 「風邪が怖いから活動しない」
「いっさい人には触れません」
そんなふうになってしまうと‥‥。
糸井 怖がりすぎですよね、何もできない。

風邪についてぼくは、
いろいろな方とお話をする機会があったので
わかるんですが、
「主に口で触ったものから感染する」とか、
そういうのを知っているだけで助かるんですよ。
PRさん 知っていることは大事ですよね。
糸井 「インフルエンザの予防接種は効かない」
といううわさをよく耳にしますけど、
ぼくは「ちゃんと効く」ことを知っています。
だからうちの会社は全員、
インフルエンザの予防接種が義務なんです。
そうすると、ほんとにかからない。
PRさん そうなんですか。
糸井 だから災害対策の話でも、
「知っている」だけで
ちがうことはけっこうありますよね、きっと。
山下さん そうですね。
あとは、
「想像する」ことをしておくだけでも、
かなりちがうと思います。
糸井 そうか、それも重要だ。
シミュレーション。
山下さん シミュレーション。
自分が会社にいるときの場合、
電車に乗ってるときの場合、
家でくつろいでるときの場合、
それぞれのシミュレーションをしておくことは
誰でもできる
すごく効果的な備えと言えるかもしれません。
糸井 考えておく、ということですね。
山下さん はい。
そして会社としても、様々なケースを
組織でシミュレートしておくことが
たいせつになりますよね。
糸井 そうですね、ほんとにそうですね。
山下さん 3月11日は、
それをやっていたところと、
やっていないところで、
けっこう対応に差が出ました。
東京都心の外資の企業で、
「すぐ帰りなさい」と、
社員を強制的に帰宅させたケースがありました。
これは大災害のときには
あまりよくないやり方ですよね。
糸井 あっという間に帰宅困難になりそうな。
山下さん そうです、
災害で交通網が麻痺しているようなときには、
会社が安全であれば、
しばらくそこに留め置くのが基本パターンです。
糸井 外資の企業は地震について
あまりイメージがなかったんですね、きっと。
山下さん 地震の想定はしていなかったのかもしれません。
ただ、緊急時の対応は
外資のほうが進んでる面もあるんですよ。
それは、9・11のテロがあったから。
糸井 ああ、そうだ。
山下さん あの出来事を機に、
アメリカの企業は
緊急時の対応マニュアルとか
事業の継続プランなどを
日常から考えるようになったんです。
なのに、
この前の地震では、あわてて帰宅させてしまった。
糸井 いやぁ、それは責められない、
怖いですから。

まあ、ここでまたひとつ、
「あわてて帰宅しない」というのがわかりました。
山下さん はい。
糸井 そのことについては、
うちはとくに会社で話し合ってなかったんです。
ですから3月11日は、それぞれでした。
帰宅した者もいれば、
電車が動き出すまで待機して帰ったのも、
そのまま会社に泊まったのもいました。
PRさん 自然にそうなったんですか。
糸井 そうですね。
「帰れないなら泊まればいいし、
 帰れてもひとり暮らしで不安なら
 会社に泊まりなさいよ」
っていうのは言いましたけど。
けっきょく、
何人かが1泊して翌日に帰宅しました。
山下 災害時の基本パターンを
ふつうにされていたわけですね。
糸井 たまたまです、ほんとにたまたま。
でも、あわててる人はいなかったので
それはまあ、よかったんでしょうね。

(株)東京糸井重里事務所の災害対策【ポイント3】

□様々なケースを想定して
 災害時の行動をシミュレートしておくことは、
 誰にでもできる効果的な備えになる。

□会社も、災害時の動きを
 組織でシミュレートしておくことが重要。

□災害で交通網が麻痺しているときには、
 会社が安全であれば、
 しばらくそこに社員を留め置くのが基本。
 あわてて帰ろうとすれば、
 帰宅困難者が増えてしまう。

(つづきます)

2011-06-15-WED