おいしい店とのつきあい方。

112 2019年から2020年へ。その1
おかげさま、おなじみさま。

多くでは料理を提供することを「配膳」と呼びます。
料理を運んでということを「配膳してきて」と言ったり、
料理を運ぶ人のことを「配膳さん」と呼んだりする。

「膳」を配るから配膳。
お膳といえば、
いくつかの料理を乗せたお盆のようなものを
イメージします。
この、御膳料理と呼ばれるスタイルは
日本料理のお店では昔から一般的で、
お膳の上に几帳面に料理が並べられて届けられると、
どことなく上等な料理のようにみえる。
一度に料理が運べて、
しかもそのまま置いていくことができるから
今では定食屋のような気軽な店でも
料理がお膳に並べられて出てくることが普通になりました。

塗りのお膳の上に並んだ料理が上等に見える。
もしかしたらそれは昔の食習慣が
DNAの中に刷り込まれているのかもしれない。
それというのもかつて日本で最も格式の高い
もてなし方と思われていたのが
「本膳料理」というものでした。
時代劇なんかで殿様が「料理をもてい‥‥」と声をかけると
料理を乗せた脚付きのお膳が運ばれてくる。
そしてそのまま食べる人の前に置く。
殿様が座卓のような食卓について
食事をしているところなんて
時代劇でもご覧になったことはないでしょう? 
一方、庶民の手軽な料理は
屋台でふるまわれることが一般的だったそうです。
天ぷらも蕎麦も寿司も
料理の入った器を作った人から手渡され、
そのまま食べる。
これはお膳を必要としない提供方法、食べ方でした。

だからご馳走は、食卓を兼ねたお膳で食べるもの。
座卓やテーブルが備え付けられ、
食卓を兼ねたお膳を必要としない今となっても、
お膳で提供される料理は上等‥‥、
って思ってしまう昔の記憶のようなものが
日本人にはあるかもしれない。


ただそもそもお膳は食卓代わりだったのだとすれば、
食卓の上にお膳を置くのは
食卓に食卓をのせるような行為。
食卓の登場は「お膳」を「お盆」に変えたはずでした。

料理をお盆にのせて運び、テーブルには食器だけを置く。
お店によっては食卓の「景色」をにぎやかにするために
漆に蒔絵の小さな膳を一人ひとりの前において、
そこに食器を置くこともある。
けれど料理は別のお盆で運ばれ、
食器だけがお膳の上におかれる‥‥、
つまり、お盆とお膳は区別されることがほとんど。

いやいや。
配膳って言葉があるくらいだから、
膳で運んで膳ごと置くのは当然なんじゃない‥‥、
という人もいる。
配膳という言葉を辞書で調べると
こんな意味だとわかります。

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
 1 料理した食物。
 2 食物を載せて出す台。また、それに載せた料理。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

膳は本来,料理や食事そのものをさす言葉であったけれど、
しだいに食事をそなえた盤、台の類を意味するようになり、
料理をのせたお盆やお膳のことも
表現するようになった‥‥、
というのですね。
つまり配膳は「料理がのせられたお膳を配る」
ことである以上に
「お盆にのせられた料理を配る」ことなんでしょう。

ただ飲食店では運んできたお盆のまま
料理を食卓にのせることが多くなっている。
日本料理だけじゃなく中国料理も洋食も
お盆の上にのせてそのままテーブルに置く。
一度で沢山の料理が運べるからという合理的な理由もある。
何度も何度も厨房と食卓のあいだを
行ったり来たりすることもないから、
人手不足の飲食店には都合がいい。
しかも「お膳で運ばれる料理は上等」と感じる
日本人のDNAが、
「合理的な提供方法」をすんなり受け入れさせている。
けれども実は別の理由で
飲食店は料理を運んだお盆をそのまま食卓の上に置く。
さてその理由とは何?

また来週といたしましょう。

2020-01-09-THU

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